ラジオドラマ原稿『セーブしますか?』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2023年10月10日オンエア分)
今日も気づけば夕方5時をまわっていた。
夏に比べ、ずいぶんと日没が早くなった。
秋風は、暑さを押し退け、この夏の出来事を思い出へと遠ざける。
すっかり秋っぽくなってきた。
今日もあと少し。
もうひと頑張りの時間帯。
ハッピーアワーの店に消えていくスーツの集団を横目に、僕はカフェに入った。
<カフェ店内>
男「キャメルマキアートをホットで、サイズはグランデ」
午前中なら、きっとトールサイズ。
だけど、夕方なので1つ大きめのサイズ。
甘さを求めて、心と財布のひもが緩む。
あと2時間。
あと2時間だけ、集中して仕事をさせてくれ!
そうすると、明日が少し楽になる。
そうしないと、明日以降のスケジュールは悲惨になる。
と、注文したドリンクを待っている僕の目の前に、彼女が現れた。
待ち合わせではなく、彼女が現れた!
モンスターが出現したときの音が脳裏で鳴り響く。
とるぅるぅるぅ~う!
日が暮れるとモンスターは出やすくなる。
それも、強めのモンスターが出やすくるなる。
今の俺のレベルと、装備では太刀打ちできない。
相手は
連続攻撃は当たり前
ややこしい呪文も使ってくる
回復呪文まで持ち合わせている。
あわせて夕方の俺は、HPが少ないんだ。
女「へぇ~、コーヒーも飲むんだ」
男「別にいいじゃん、コーヒーぐらい」
彼女は、同じビルの別会社で働いている。
付き合って間もなく1年。
ゴールデンウィーク前から同棲をしているのだが、昨夜は記憶がないくらい酔っぱらって帰ってきてしまった。彼女は何か相談があったようで起きていたのだが、酔っ払い具合がひどい僕を見て、怒ってしまった。
今朝、彼女は先に出勤していた。
女「で?」
この一言が、次のターンの俺を惑わす。
こんなとき【にげる】のコマンドなんて使えない。
男「昨日はごめん」
いま持っている会心の一撃!
だったはずだが、まったく通じていない。
どうしよう?
吹かなくてもよい秋風が、僕らふたりの間にも駆け抜けた。
女「で?」
男「で?」
こんなときはダメージを最大限におさえるため、相手の言葉を繰り返す【ぼうぎょ】のコマンドが有効的だ。
すると、彼女が時計を見ながら
女「今日は何時に終わるの?」
男「あと2時間もあれば、きっと」
女「2時間!? それなのに、コーヒー飲んで、くつろいでんの?」
男「くつろいでないよ。これはホイミだよ!。。。いや、ベホイミだな!。。。ベホマじゃない」
女「何言ってるの?まだ酔ってる?」
男「もう大丈夫」
女「大丈夫じゃないよ。こっちは」
目線を落とすと、彼女はカバンを持っていた。今日はやたらと早く終わってるなぁ~と感心していた。。。。が、その瞬間! ザメハ!!! 一気に目が覚めた。
男「そうだ」
女「そうよ~」
男「ごめん!」
彼女のこわばっていた顔が少し緩んだ。
女「それで、今夜は何時に終わるの?」
男「めっちゃ急ぐ!待ってて」
付き合って間もなく1年
ではなく、付き合って1年。
出会ったこの日から、また新たな僕たちの冒険は始まる。
おしまい
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