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『ミスター・スマイル』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月12日オンエア分ラジオドラマ原稿)
男NA
彼女は僕の右肩にもたれかかって眠っていた。
僕はシャンパンを二杯飲んでいた。
"キスをしなければ目を覚まさないんじゃないだろうか"
BGM(ミスター・ロンリー)
彼女と出会ったとき、彼女は男と別れたばかりで、僕は一人ぼっちだった。
木屋町にある小さな古いジャズバーのカウンターで、彼女は僕の右隣に座って、右の頬をカウンターにくっつけて眠っていた。
少し飲み過ぎたんだろう、顔のそばにあるシャンパングラスは空っぽで、彼女の白い頬は少し赤く染まっていた。
くちびるは分厚くて、そして少し開いていた。
"キスをしなければ目を覚まさないんじゃないだろうか"
僕はそのとき真剣に、そう思ったんだ。
彼女の寝顔をじっと見ていた。
すると彼女は何もしなくとも自分から目を開けた。
涙を流した後だからなのか、目は赤く腫れていた。
頬をカウンターにくっつけたまま、彼女は僕にこう言った。
女
「なぜ、私の顔を見て笑っているの?」
男NA
僕が彼女の顔を見て笑っていたというのは、そのとき彼女に指摘されるまで、自分でも気付いていなかったことだ。
男
「なぜだろう。でも人は、悲しいときは涙を流し、幸せなときに笑うんじゃないかな」
男NA
すると彼女はニコッと笑った。
そして僕らは付き合った。
それから数年が過ぎた。
僕の右肩に頬をのせた彼女は、遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めている。
満天の星をいただく果てしない光の海を、ゆたかに流れゆく風に心を開けば、きらめく星座の物語も聞こえてくるようだった。
機内アナウンス
「みなさまにご案内いたします。
この飛行機は、ただいまからおよそ30分ほどで、ホノルルに到着する予定でございます。
ただいま、ハワイの時間では午前9時30分でございます。
ホノルルのお天気は晴れ。
気温は摂氏28℃という連絡を受けております」
男NA
機内アナウンスが、僕らのハネムーンの夜間飛行の終わりを告げてくれた。
彼女はまだ眠ったままだった。
右肩にもたれた彼女の顔に僕も頬を寄せ、そして僕は笑ったんだ。
おしまい
※こちらの小説は2022年4月12日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
感想は #こちヨロ で
挿絵:Gota Ishida