『テキトーな会話』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年9月14日(RE:9月18日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
残業を終えた彼女が店に入ってきた。
フライデーナイトの店内は、いつもより賑わいをみせていた。
男 「おつかれ」
女 「パンパンよ」
男 「終わった?」
女 「どれ?」
男 「いや、あれ?」
彼女が言葉を発する前に、表情で答えはわかった。
女 「どう思う?」
あえて聞き返してきた彼女。
やりきったという表情だ。
そして、これ以上は愚問だ。
女 「それで?」
男 「いや~」
女 「そうなるよね」
男 「まぁ~、ねぇ~」
女 「あ~、喉乾いた」
縦長に広い店内。
注文カウンターは、お店の真ん中。
女 「いる?」
男 「う~ん、まだいいや、ありがとう」
女 「おなかすいた?」
男 「そうね。じゃ、これで」
僕は彼女にカードを渡した。
女 「ありがとう」
男 「テキトーに」
そう伝えると、彼女はカウンターへと注文に行った。
パイングラスに注がれるビール。
ロックが流れる店内。
店内モニターには海外サッカーの試合。
特別なことは何もない。
ビール以外にも、何かを頼んだようだ。
右手は、なみなみに注がれたビール
左手には、番号札をもって、ゆっくりと戻ってくる。
女 「かんぱーい」
よっぽど喉が渇いていたのだろう。
ひとりで乾杯
ハイチェアーに腰を掛ける前に、彼女はグラスに口をつける。
女 「それで?」
彼女は、僕のスマホを指さした。
男 「ここ」
女 「ここね」
男 「どう?」
女 「いいんじゃない」
男 「テキトーかよ」
女 「ちゃんと考えたよ」
男 「他は?」
女 「う~ん、ここ で いいよ」
男 「ここでって。。」
女 「めんどくさいなぁ~」
一口、また一口。
グラスのビールが減っていく。
女 「ここ が いい」
彼女のコースターは乾ききったまま。
対照的に、僕のグラスからは泡がなくなり、びっしょりと汗をかいている。
女 「嫌だったら、また探せばいいじゃん」
男 「まぁね。早速、明日、あれ見にいかない?」
女 「明日?」
男 「ダメ?」
女 「いいよ、どこに?」
男 「決めてない」
女 「やっぱりテキトーじゃん」
男 「テキトーじゃないし」
細かいことまで考えてしまう
答えがテキトーに思われてしまう僕。
対照的に、
テキトーなやり取りのようで
細かいところまで気を配る彼女。
そんなテキトーな毎日が心地よい。
もうすぐ始まる新居での生活もきっとテキトーだろう。
でも、
適当だけど、これほどの贅沢はない。
おしまい
※こちらの小説は2021年9月14日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210914210000
※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けしています。
今回の作品は番組ディレクター執筆のDカクテルです。