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『折り合い地点の恋』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年7月12日オンエア分ラジオドラマ原稿)
男「んーコイかな」
女「コイか」
男「コイっちゃコイね」
女「コイよねー」
僕たちは互いに恋して結婚に至ったわけだが、
いま言ってるのはその恋じゃなくて、
午前8時のお味噌汁の話し。
女「ちょっと濃いよねー」
男「うん、まあちょっとね。でも美味しいよ」
朝ごはんは変わり交代で作っている。
パンを焼いてコーヒーを淹れることが多いけど、僕もたまにお味噌汁を作る。
男「どう?」
女「ちょっとうすいね」
男「うすいよね。うん、うすいなー」
女「うすいのはいいよ、塩分控えめで。わたし的にはありだけどね」
男「いやなんか違うなー」
こういうことを繰り返して、
最高の一杯に辿り着こうと互いに切磋琢磨している。
僕の味噌汁が濃くなることもあれば彼女の味噌汁が薄いときもある。
量を測ったところでそれは違うのだ。
単純に水の量と味噌の量というわけにはいかない。
具材によっても分かってくるし、何しろ僕らのお味噌汁はなんでもぶっ込んで作る。
トウフ、ワカメ、ネギ、タマネギ、エノキ、オアゲ、ダイコン、シメジ。
この辺りは普通だろう。
ブロッコリー、トマト、ナス、キャベツ、ジャガイモ、ソーセージ。
ときにはサバ缶だって。
気分でそれらをぶっ込んで、
味噌の香りが飛ばないように火を止めてから溶かし淹れるなんていうけど、
正直泡ぶくたって煮え立つくらい、お味噌汁をグツグツやっちゃうときもある。
女「どう?」
男「…うまい」
女「え、うそ、でた?」
男「出たよ正解。おいしい!どうなの自分では」
女「うーん」
男「あれ、違うの?」
女「ちょっと濃いかなあ」
男「濃いのか、すごいちょうどいいけどなあ」
そりゃお互いが同じようにちょうど良いと感じるところだって違ってくる。
それは互いの体調だったり気分だったり、その日の天気によっても変わってくるんだ。
実はそれは、お味噌汁だけじゃない。
女「濃い!」
男「濃い?」
女「濃いよー」
男「濃いかあ」
女「人妻を酔わせてどうするつもり?」
それは午後10時の黒霧ソーダの話し。
僕らは二人で晩酌をする。
男「んー薄いかなあ」
女「うすい?」
男「ちょっと薄いね」
女「濃いよりいいんじゃない」
氷とソーダと黒霧島のボトルを用意して、互いに黒霧ソーダ作り合う。
女「お!おいしい!」
男「おお!こっちもうまい!」
うまくいくこともある。
濃かったり薄かったりする生活だけど、
たどり着くのはお互いの折り合い地点。
それで僕らは案外、うまいこといっている。
♪ 松原里香「好食小論争」
おしまい
※こちらの小説は2022年7月12日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
※本作は松原里香さん「好食小論争」にインスピレーションを受けて作成しました。
作:Gota Ishida