『告白のタイミング』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年9月21日(RE:9月25日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

(本作は4月27日放送分「仲良くなりたい」の続編になります)


ゼミで一緒のあの娘に僕は恋をしている。


明るいブラウンだった髪は最近黒くしてショートボブになった。
広いおでこがはっきり分かるくらい前髪は短くしている。
少し目尻の下がった大きな瞳にしっかりした眉毛。
きれいに真っ直ぐ伸びた鼻筋に控えめな小さな鼻。
薄い上唇に反してぷっくりとした下唇。
端っこは常に上がっていて、笑うときは口を大きく開ける。

告白しないほうが嘘だよ絶対。

白とネイビーのボーダーニットにオーバーサイズのカーキのカーゴパンツ。
足元は白いコンバースのオールスターを履いていつも跳ねるようにキャンバスを歩いている。
ところが僕はまだ告白できずにいる。

彼女とはリアル脱出ゲーム仲間になった。
漫画が好きという、白ごはんが好き的なほぼ誰にでも当てはまる共通点からなんとか繋いで、4月に進撃の巨人のリアル脱出ゲームに一緒にいくことができた。


「脱出ゲームとか初めてだったけど、すっごい楽しかった!」
「うん、僕も楽しかった」
「脱出できたの奇跡なんだけど。君のおかげだよ」
「いやいや、君もあの謎解いたじゃん」


正直、彼女にいいところを見せたくて本気で謎を解きまくった。
そもそもこういう謎ものは得意だった。
どんなところであろうと、どんな場面であろうと、本気の人間が勝つ。
というのを何かの漫画で誰かが言っていた。
彼女の前では本気になれた。


「ねえ、今度はこれ行こうよ」


スマホを僕に見せて彼女はそう言った。
リアル脱出ゲーム×おそ松さん「闇金帝国からの脱出」


「また一緒に脱出しようよ」


僕はドキドキしていて正直スマホなんて見ていなかった。
そしてそのとき決意した。
彼女と脱出に成功したら、告白する。

「ねえ、どう?予定大丈夫?」
「…あ、うん大丈夫。絶対脱出してみせる」
「ふふふ」


それから彼女とおそ松さんの話をした。
前に行ったリアル脱出ゲームの話にもなった。


「ていうかさあ、いつも私からだよね誘うの」
「え、そうだっけ」
「なんか私からばっかだよね」
「なにが?」
「誘ってるの私からばっかだよ」
「え、そ、そうだっけ」
「うん。たまには誘って欲しいな」
「え、ああ」

「…私のこと、どう思ってる?」


いきなりきた。なんかキラーパスが飛んできた。
いや、告白するのは脱出に成功したらとさっき決めたところだ。


「どうって…友達じゃん」
「…そっか。そうだよね」

お粗末なのは僕だった。僕こそお粗末さんだった。
脱出したら告白するってことを彼女は知る由もない。
というかじゃあ脱出できなかったらどうするんだ。
いまか、いま言うべきか。なんと答えたらいいんんだ。
いま脱出したい。この状況から脱出したい。


「じゃあね」


彼女は少し寂しげな顔をして去っていく。

「脱出成功したら!」

彼女は振り返って僕を見た。


「脱出成功したら、デートしてくれ!」

彼女は呆気にとられた顔をして、そして笑った。


「…てかデートしてるって思ってたよ」

そう言って彼女は去って行った。

こんな流れになると思ってなかった。
とにかく、僕は絶対におそ松さんのリアル脱出ゲームを脱出しなければならない。


おしまい



※こちらの小説は2021年9月21日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア


※リアル脱出ゲーム×おそ松さん「闇金帝国からの脱出」出」福岡公演
2021年8月1日〜開催中 https://realdgame.jp/osomatsusan/

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