ラジオドラマ原稿『こだわりの生活』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2023年9月12日オンエア分)

男 「今日から2人でこの家に暮らすんだなあ」
女 「やっぱり広いね!」
男 「4部屋あるからね」
女 「じゃあ私、一番広い部屋ね!」
男 「なんでよ、俺もそこがいいよ」
女 「いいじゃん、早い者勝ち!」
男 「えー」
女 「じゃあ、じゃんけんね!」

男M 「大学生の頃から付き合っていた僕と彼女は、卒業を期に古民家を借りて、同棲をすることになった。
僕は駆け出しのグラフィックデザイナーを、彼女は駆け出しのインテリアデザイナーをしている。
お互いの創作の場、そして生活の場として、この広い古民家を選んだ。
静かな古民家でおしゃれに暮らすのは僕らの憧れだった」

女 「ここの土壁とか替えたいなあ」
男 「いいじゃん、どんな感じにするの?」
女 「うーん、板張りとか?」
男 「あー、おしゃれだね!」
女 「でしょ?
私、DIYで家のリノベーションやってみたかったんだあ」

男M 「この古民家は自由にリノベーションをしてもいいと大家さんに言われていて、インテリアをやっている彼女はどういう風にリノベーションをしようかとわくわくしていた。
僕も雰囲気のある古民家で、好きな人と一緒に暮らすことが楽しみだった」

男 「これどうかな?
今仕事でやってるフライヤーなんだけど」
女 「いいと思う! 配色もオシャレだし!」
男 「じゃあこの方向でいこうかな」
女 「うん」
男 「ああ、疲れたー。ちょっと休憩」
女 「…ねえ」
男 「ん?」
女 「今日はもう、仕事終わりにしてさ…」
男 「うん」
女 「2人でさあ、その…」
男 「なに?」
女 「分かるじゃん…」
男 「なにイチャイチャしたいってこと?」
女 「もう、そんなストレートに言わないでよ!
…まあ、そうだけど」

男M 「予想通り、古民家での生活は楽しかった。
お互いの仕事にアドバイスし合えるし、なにより愛を確かめ合う時間も増えた」

女 「このやかんどう?」
男 「おお、レトロな感じでいいね。
この家に合ってるよ」
女 「だよね、やっぱりオシャレなものに囲まれて生活したいな」
男 「同感」
女 「家具とかもこだわりたいよね」
男 「さすがインテリアデザイナー」
女 「まあね」

男M 「お互いに雑貨屋でオシャレなものを買ってきては家に置いた。
まさにこだわりの生活。」

女 「キャー!」
男 「なに!?」
女 「また出た!」
男 「ああ、ゴキブリ?」
女 「もう最近毎日だよ」
男 「古い家だから隙間多いからね」
女 「とりあえず、退治して」

男M 「築年数が古いので、虫がめちゃくちゃ出る。
そして、この他にもだんだんと、古民家の難しさが明るみなっていった」

女 「雨漏りだ!」
男 「なんか水溜めるもの置かないと!」

男M 「雨漏りのために、2人でこだわって買ったレトロな器は床に並べられた」

女 「ねえ、やっぱり車ないと不便だよ」
男 「分かるけど、車買うお金ないし…」
女 「まあ、そうかあ…」

男M 「少し市街地から離れた立地だったんで生活する上で交通の問題もあった」
そして、最初はやる気だったリノベーションも全くやらないまま冬がやってきた。」

女 「え、これ暖房効いてる!?」
男 「設定温度30度だし、風量もマックスだよ」
女 「めちゃくちゃ寒いんだけど」

男M 「古民家の冬は寒かった。
断熱ができておらず、古い家なので隙間だらけなため、いくらエアコンをかけても部屋が温まることはなかった。
『引っ越そう』。自然にその言葉が口から出ていた。
僕らは春を迎える前に鉄筋コンクリート造のアパートに引っ越した。
あと、同棲していると気が散ってなかなか仕事が進まない。
同棲をひいては交際を解消するのも時間の問題かもしれない」

おしまい

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