『僕と彼女の役割分担』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月5日 オンエア分ラジオドラマ原稿)
♪LINE通知。
女「今日は何食べたい?」
正午過ぎに必ずくる彼女からのLINEだ。
僕はさっきお昼ご飯を食べたばかりだが、
今日の夕飯に食べたいものを考える。
男「豚の角煮かなあ」
♪LINE通知。
女「なるほどお」
彼女からの返信は大体いつも「なるほどお」だ。
メインの一品を伝えれば付け合わせはお任せで良い。
これは彼女からの提案だった。
女「人には得意不得意があると思うの」
同棲をすることになってちょっとした会議が開かれた。
場所はもちろん静かなバーで。
女「それによって役割分担を決めるのが合理的だしお互いの幸せじゃないかしら」
ウォッカとクランベリージュースをシェークしたカクテル、コスモポリタンを飲んでいる彼女はとても雄弁だった。
女「私はお料理は好きなの。手際もいいしあなたがおネギを切ってる間にお味噌汁ができてる」
男「そうだね」
女「でも洗い物は大嫌い。おいしい料理を作って食べ終えた途端、ちょっと憂鬱になるくらい」
男「まあ分からなくもない。けどそこまで?」
女「洗剤でお皿を洗い続けることと紙皿を捨て続けることは、どちらが地球にとって優しいのか真剣に考えたこともあるくらい」
男「難しい問題ではあるけど、きれいな器は料理を美味しくもしてくれる」
女「それも分かる。コスモポリタンもこのカクテルグラスで飲むからさらに美味しくなるもの」
そういって彼女はコスモポリタンをおかわりした。
男「幸運なことに僕は掃除が好きだ。洗い物も苦痛に感じない。でも料理をするのはそれほど好きじゃない」
女「私はジンが好きじゃない。けどあなたがここで飲むのはトムコリンズばかり」
トムコリンズはジンとレモンジュースのロングカクテルだ。
ウォッカとクランベリージュースのショートカクテル、コスモポリタンが好きな彼女とは真逆といってもいいかもしれない。
女「交渉成立ね」
僕らはトムコリンズとコスモポリタンで乾杯をした。
それから僕らの同棲生活は、それぞれの役割分担が決まっていった。
ご飯を作るのは彼女が。
食器や鍋を洗うのは僕が。
お湯を沸かしコーヒーを淹れてくれるのは彼女。
浴槽を洗いお風呂にお湯を溜めるのは僕。
そうした事にお互い感謝をしてお礼を言い合って、
僕らは気持ちよく過ごしている。
♪LINE通知。
女「今日は何食べたい?」
僕は少し悩む。
昨日は豚の角煮。その前は青椒肉絲、その前はカレイの煮付け。
今日は…。
男「今日は、焼き鳥でもどう?」
するとすぐに返ってきた。
♪LINE通知。
女「いいねえ。かわ屋のとりかわは私には作れませんもの」
予約するのは彼女。
支払いは僕。
食べるのは二人で。
それが僕らの役割分担だ。
おしまい
※こちらの小説は2022年4月5日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
感想は #こちヨロ で
挿絵:Gota Ishida