『恋の確率』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年8月9日オンエア分ラジオドラマ原稿)

球場で試合が行われてる。
スタンドで話している男女。
打者の打った球が大きく飛んでいき、あわやホームランかと思いきやファールボールになる。

男「おおお！！
女「ああー！ファールかあ！！」
男「うわー惜しかったなあ」
女「あのファールボール掴んだ人も悔しいだろうね」
男「俺のところに飛んでくるなよーってね、掴んだボールに向かって言ってるかもな」
女「ファールボールって持って帰っていいの？」
男「うん、確かもらえるはずだよ。ファールボールもホームランボールも」
女「へーそうなんだ」

そんなに野球に詳しくない僕は、そんなに野球に興味のない女友達を誘ってPayPayドームに来ていた。
急遽行けなくなったという友人からチケットを２枚もらって、誰を誘おうか迷ったというか、彼女を誘うきっかけになると思って聞いてみたら、思いのほか行ってみたいとすぐに返事が帰ってきた。

女「どれくらいの確率なんだろうね、ファールボールとかホームランボールが自分のところに飛んでくる確率って」
男「あ、それまさに調べたことあるんだ」
女「うっそ」
男「１試合でファールボールがスタンドに入るのは15から20回くらいらしいんだ。そしてホームランは１試合平均1本」
女「えーホームランって１試合に1本しか出ないの？」
男「まあ平均するとそれくらいみたい」
女「そうなんだあ。でもある意味、今日も一本はホームラン見れるかもしれないってことか」

そのとき歓声があがる。
大きな打球が飛んでファールになる。

女「ああーファールかあ」
男「たしかに１試合1本平均なら、ホームラン見たいなあ」
女「それで、いまあのファールボールをキャッチしたあの人の確率は？」
男「球場の観客数はまあ最近は減ってはきてるけど、まあ平均で１試合3万人くらいかな」
女「おおーそんないっぱい入ってるのか」
男「PayPayドームは4万に入るらしいよ」
女「4万人が一斉に声出すとため息もこんな大きく聞こえるんだ。じゃあホームラン打ったらすごい歓声だろうね」
男「4万人の歓声、聞いてみたいな」
女「で、自分のところにボールが飛んでくる確率は？
男「単純計算で0.07％」
女「それってどれくらいの確率？」
男「2000回観に行って1回飛んでくるくらいかな」
女「えーーー。2000回に1回かあ。それは無理だあ」

また大きな歓声があがる。

男「うわ！！」
女「うわいけ！！」

さらに大きな歓声。ホームランだ。

男「うおおおお！！」
女「やったああ！」

抱き合ってよろこぶ二人。
そして急に恥ずかしくなる二人。

男「あ、なんかごめん」
女「あ、こちらこそ」
男「…なんか思わずね」
女「…ホームラン出たら、ね」

彼女とまだ手も繋いだこともないのに、思わず僕らは抱き合ってしまった。
ホームランってのは、悪くない。

女「ホームラン、見れたね」
男「うん」

僕は彼女の手を握ろうとした。彼女の手も僕のほうに伸びてきていた。

大きな歓声。

そのとき、スタジアムにファールボールが打ち上がった。
僕の意識は全て左手にいっていて、ファールボールには全く気づいてなかった。
その瞬間、彼女の右手が僕の左手を握りしめて、思いっきり引っ張った。

カーンという音。

ボールがポーンと大きく跳ねてそれを子供がうまくキャッチして喜んでいた。
僕は彼女に寄り掛かって、ファールボールが頭に直撃することは避けられた。

男「ご、ごめん」
女「大丈夫？」
男「見てなかった」
女「2000回に１回の確率が、きたね」
男「うん」

彼女は笑って僕を見た。
僕は彼女を見ながら、彼女と付き合える確率は何%だろうかと考えていた。

おしまい

※こちらの小説は2022年8月9日放送（21:00～21:30）
LOVE FM こちヨロ（こちらヨーロッパ企画福岡支部）でラジオドラマとしてオンエア

2022年8月9日（火）21:00～21:30 | こちヨロ（こちらヨーロッパ企画福岡支部） | LOVE FM | radiko

作：Gota Ishida

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