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オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル『カレーの口』(2021年5月25日オンエア分ラジオドラマ原稿)
僕らはこの春から同棲を始めた。
「好きな食べものは?」
「カレー、ゴーヤチャンプル、あと焼肉。いや~、ごめんね、全然可愛くないよね」
彼女は恥ずかしそうにそう言って笑った。
「全然いいと思うよ。まあ確かにかわいい食べものではないね」
「あと、お味噌汁かな。これも可愛くないか」
「ていうか、かわいい食べ物ってなに?」
「えーパスタとかパエリアとかパクチー」
「パが付いてるだけじゃん笑」
「キムパも好きだな」
彼女は食べることが大好きだ。
そして僕は幸せそうに彼女が食べている姿を見るのが好きだ。
「カレーは自信があるんだ。カレーを作るよ」
「お肉はチキンがいい!」
「わかる!カレーのお肉はチキンだよね」
「骨付きの手羽元だとさらにいい」
「同感だね」
「カレーの話ししちゃうとすぐカレーの口になっちゃうんだよな私」
「じゃあ、カレー作ろっか。手羽元チキンのカレー」
「やったあ!」
「ゴーヤチャンプルの話しするとゴーヤチャンプルの口になる?」
「うーん。あんまりゴーヤチャンプルの口ってならないよね。長いしかなゴーヤチャンプル」
「ふふふ、確かに」
「そうだ、カレーはチキンでいうと、ゴーヤチャンプルの豚肉は」
「スパム?」
「そう!ゴーヤチャンプルの豚肉は絶対スパムじゃないと許せない」
「わかるう」
「お店とかでゴーヤチャンプル頼んだとき普通の豚肉とかだったらちょっとテンション下がっちゃう笑」
「そうそう。こっちはスパムを食べたいからゴーヤチャンプルを頼んだわけだから」
「ほんとそれ」
「じゃあ焼肉のお肉についても何かあるの?」
「焼肉は、タン塩とハラミがあればそれでいいかな」
「なるほどそのお肉が好きなんだ。タン塩とハラミね。というかどっちもホルモンだね」
「え、ホルモンなの?」
「まあホルモンっていろいろ定義はあるみたいだけど、語源は大阪弁のほおるもん、つまり内臓なんかのお肉以外の捨てるものってところからきてるんだ」
「タンはベロだよね。ハラミは、どこ?」
「ハラミは横隔膜。内臓の一部で肺を動かすための筋肉みたいなものかな」
「えー知らなかった。ホルモンの部位言えるって大人って感じする」
「そう?」
「じゃあミノは?」
「胃だね」
「じゃあセンマイ」
「それも胃だよ」
「え?じゃあギアラは?」
「胃だよ」
「全部胃なの?」
「牛は胃が4つあるからねえ」
「あ、聞いたことある。じゃあもう一個は?」
「ハチノス」
「ハチノス?」
「ハチノスみたいな見た目のホルモンだね」
「あー焼肉食べたいな」
「美味しいホルモンは焼肉屋さんでしか食べられないからねえ」
「レモンサワー飲みながらタン塩とハラミが食べたい」
「…そうだね」
「沖縄料理屋さんでシークワーサーサワー飲みながらスパムのゴーヤチャンプルが食べたい」
「…うん」
「大好きなあの店で楽しくお酒が飲めるように早くならないかな」
「ほんとに」
「なんかお腹すいてきた」
「よしカレーを作ろう。ビールによく合う、手羽元チキンのカレーを作るよ」
「やったあ」
僕は彼女のしあわせそうにビールを飲んでカレーを食べる姿が見たくて、この春から同棲を始めた。
おしまい
※イメージ写真は石田剛太作のカレーです。
※こちらの小説は2021年5月25日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210525210000