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『春の風』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年5月3日オンエア分ラジオドラマ原稿)
春の風が吹いていて、今日はなんだか日がいいみたいだ。
僕はおみやげを持って彼女のところへ出かけた。
♪BGM:サニーデイサービス「おみやげを持って」
中華料理のバイトの休憩中に、いつもワイヤレスイヤホンをして彼女はコーヒーとドーナツを食べていた。
少し笑った気がして、僕は彼女に思い切って話しかけてみた。
男「いつも、何の曲を聴いてるんですか?」
女「え?」
彼女は片方のイヤホンを取って、笑顔のまま聞き返した。
男「あ、いや、それ、何の曲聴いてるのかなって?」
女「ラジオです。ラジオ聴いてて」
男「あ、へーラジオ聴くんだ」
女「聴かないですか、ラジオ?」
男「あんま聴かない、かなあ」
女「そっか、聴いたらいいのに。おもしろいですよ」
僕を見て微笑んだと思ったのは思いっきり僕の勘違いで、
彼女はラジオを聴いて笑っていただけだった。
でもその勘違いがなければ、僕は彼女に話しかけなかったわけで、
それから彼女は両方のイヤホンを外して、僕らは少し話しをした。
男「いつもコーヒーとドーナツですね」
女「近くのパン屋さんで、バイト前に買うんです。ここのドーナツがほんと好きで、あ、食べます?」
といって彼女はカバンから紙袋に入ったドーナツを僕に差し出した。
男「え、いいの?」
女「はい、なんか予備で買ったっていうか、ほんとおいしいんで食べてほしいです。普通なんですけど」
男「ありがとう」
僕は彼女からもらったドーナツを食べて、それは彼女のいう通りとても普通でとても美味しかった。
女「ドーナツの穴が許せなかったんです、子供の頃は。なんでここだけないのって。でもこのドーナツを食べたときに、ドーナツの穴を許せた、というかこの穴さえも愛おしく感じるようになったんです。ドーナツは穴が空いてるからドーナツなんだって。ドーナツは世界を癒してくれるんです」
僕は彼女の影響でそのドーナツが好きになった。ドーナツはたとえ何があろうと絶対に世の中に必要なものであり世界を癒してくれるものだ。
ラジオを聴くようになったし、コーヒーは少し酸味のある浅煎りを飲むようになった。
つまり僕にとって彼女は絶対に必要なものになった。
そしてサニーデイサービスが好きになった。
女「サニーデイサービス、前付き合ってた人に教えてもらって」
少しバツが悪そうに、彼女は僕にそう言った。
僕はドーナツと浅煎りのコーヒー豆を持って彼女のところへ向かっている。
花屋さんによって1500円の花束を買った。
♪サニーデイサービス「パレード」
おしまい
※こちらの小説は2022年5月3日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
感想は #こちヨロ で
挿絵・作:Gota Ishida