見出し画像

『秋の恋』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年10月19日(再放送:10月23日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

女「夏は男を少年に戻し、女を大人にする」

ジャックローズを口して彼女はそう言った。

女「そう思わない?」

彼女の唇はまるでジャックローズで染められたように真紅だった。

女「夏の恋がすぐに終わる理由、分かる?」
男「ひと夏の恋ってやつだね」
女「なぜ夏は恋をしたくなるか。それはみんな薄着だからよ」
男「僕らは肌色に恋をするってこと?」
女「あながち間違いではないわね。薄着だと相手の体型が分かるから好みのボディかどうかすぐに判断がつく」
男「たしかに一目で君の身体は美しいと分かった」
女「ありがと(笑)。もう一つは体臭を嗅ぎやすくなるから」
男「体臭?」
女「人間の恋愛プロセスは視覚、聴覚、嗅覚、触覚、という順番なの。相手の体臭を嗅ぎやすい夏には恋愛までのプロセスは短くなる。つまり肉体関係までのね」
男「たしかに匂いがダメだったって経験はあるね。逆もまた然りだろうけど」

彼女はまたジャックローズを口にする。
彼女の身体からはリンゴのブランデー、カルバドスの甘い香りがする

男「海、夏祭り、花火大会、フェス、夏はイベントも多いし出会いの場も必然的に多くなる」
女「統計的にも夏にはじまる恋は多いの。そして科学的にも夏は恋をしやすくなる」

彼女の口調が大学の教授のように講義地味てきた。

女「男性は夏から秋にかけて性欲をもたらす男性ホルモン、テストステロンが上昇する」
男「夏に男の性欲が増すのは科学的な理由なんだ」
女「そしてそのテストステロンは秋には減少していくの」
男「男は性欲だけでひと夏の恋をしてしまうと。情けないが事実なわけだ。じゃあ女性は?」
女「女性にとって夏の日差しは敵だけど、紫外線は女性の気分をあげる女性ホルモン、エストロゲンの分泌を促す効果もあるの。つまり夏になるだけで女性は恋愛スイッチがオンになる」
男「じゃあお互い様ってことだね」
女「そういうこと」

そう言って彼女はジャックローズを飲み干した。

男「で、僕たちは?」

彼女は空になったグラスを見つめながら言った。

女「あなたは夏の間だけ福岡に仕事でやってきてもうすぐ京都に戻る」

少しの間。

男「秋は男を大人に戻し、秋に女は心を変わりする」
女「女心と秋の空、ね」
男「君がいつ心変わりしてしまうのか、いや、もうしてしまっているのか」
女「どうかしら」

と言って彼女は笑った。

男「どうしたい?」

僕の答えは決まっている。答えは彼女が持っている。

女「もう一杯、ジャックローズをいただくわ」

彼女は僕の質問をはぐらかすようにそう答え、そして微笑んだ。


おしまい


※こちらの小説は2021年10月19日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20211019210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?