『君と飲むソジュ』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年6月8日オンエア分ラジオドラマ原稿)
彼女は韓国料理店でチャミスルを振っていた。
「チャミスルってなんで開ける前に振るか知ってる?」
「あー、ドラマでよく振ってるから振ってました(笑)」
彼女はチャミスルを振るのをやめて笑った。
「あれはね、昔チャミスルの瓶の底には不純物が良く溜まっていたんだ。だから振ってそれを浮かせて、上に上がってきた不純物だけ最初にこぼして捨ててから飲んでたんだよ」
「えーそうなんですね?」
「だから今はチャミスルを振る必要ないんだけど、その名残が残ってるんだ」
「そうなんだー」
と言いながら彼女はまたチャミスルを振った。
「ちょっと貸して」
僕は彼女からチャミスルを受け取り片手で素早く振ってみせた。
「ほら、こうすると竜巻みたいな渦が真ん中に」
「え、すごい!」
「こうやって韓国の人たちは飲んでるんだよ」
そして僕はチャミスルを開けて彼女のグラスに注いだ。
チャミスルは希釈式焼酎といって竹炭を使って何度も蒸留を繰り返してできる韓国焼酎だ。
チャミスルというの商品名で、韓国焼酎、ソジュには他にもチョウムチョロムやジョウウンデーなどもある。
そしてなぜ僕がチャミスルに詳しいかというと。
その数ヶ月前。。。
「最近韓国ドラマにハマってるらしいよ」
友人から教えてもらったその情報だけで、僕はNetflixで韓国ドラマを見まくった。
トッケビ、梨泰院クラス、愛の不時着。
韓国ドラマは1話も長く話数も長い。
しかし、気が付けば一気に見終わっていた。
むしろ次のドラマを探していた。
「最近、韓国ドラマにハマってるんだけど、次、何見たらいいんだろう?」
「サイコだけど大丈夫はもう見ました?」
「よかったら韓国料理食べながらそんな話でもどう?」
「いいですね~」
「チヂミのとっても美味しいお店があるんだ」
「えー食べたいです。ソジュも飲みたい!」
。。。というわけで、僕と彼女はいまソジュを飲んでいる。
彼女が横を向いて口元を隠しながらグイッとチャミスルを飲んだ。
「韓国の飲み方だね」
「これやりたかったんです」
韓国は年上を重んじる文化で、目上の方の前ではお酒は飲まない。
勧められた場合のみ飲んでも良いが、その場合は彼女のやったように飲んでる姿を見せないように飲むのが礼儀なのだ。
「ドラマでよくやってるやつだね」
「はい」
「あれ知ってる?この蓋を使ってやるゲームなんだけど」
「どうやるんですか?」
「このハズレかかってるところを指で弾いていくのね」
先輩が教えてくれるそれらのソジュに関する知識を全て知っていた。
だって、私の父は韓国人だから。
でも私は先輩からの話を楽しく聞いていた。
韓国のことをたくさん知ってくれているのが嬉しくて。
少し嘘をついていることになるのは後で謝るとして、先輩はそれくらいのことは許してくれるはずだ。
「最近辛ラーメンにハマっててね」
「私、辛ラーメン作るの得意なんです!」
「え、そうなの」
「辛ラーメン、マンドゥムニダ。ノルロオセヨ(辛ラーメン、作りますよ、遊びにきませんか?)」
「え、えーっと、ハングルまではまだちょっと…」
私は少し困った顔の先輩を見てかわいいと思ってしまった。
ほんとのこと言ったらどんな顔するだろうな。
おしまい
※こちらの小説は2021年6月8日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210608210000
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