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オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル『仲良くなりたい』(2021年4月27日オンエア)
ゼミで一緒のあの娘に僕は恋をしている。
明るいブラウンのショートカットにワンレングスで広いおでこをはっきりと出して、少し目尻の下がった大きな瞳にしっかりした眉毛。
きれいに真っ直ぐ伸びた鼻筋に控えめな小さな鼻。
薄い上唇に反してぷっくりとした下唇。
端っこは常に上がっていて、笑うときは口を大きく開ける。
好きにならないほうがおかしいよ絶対。
厚手のボックスシルエットの白Tをブルージーンズにタックインして黒いベルトできゅっとウエストが絞られてある。
きれいなビットローファーを履いてコツコツと音を鳴らして歩く彼女をキャンパスで見かけたとき、僕は恋に落ちた。
そして彼女が同じ学年で同じゼミになったとき、僕は少しパニックになった。
仲良くなりたい。
仲良くなるには、共通点を見つけるのが良いと深夜ラジオでどこぞのDJが言っていた。
彼女との共通点は何だ。
見つからないまま時は経って、同じゼミにいながらまだ話したこともないままだ。
彼女の友達の友達の友達からの情報で、漫画が好きだというのは分かった。
僕も漫画は好きだが漫画が好きなんて白ごはんが好きっていってるようなもんだ。
共通点とは言えないだろう。
しかし、たまに神様はいたずらのようなことをしてくる。
その日僕はゼミの始まる前に教室に先に入ってマンガを読んでいた。
「え、それって、別マガだよね」
「え!ああ…うん」
「手に入ったんだ」
「ああ、コンビニで」
「どこ探しても売り切れだったの」
「え、ああ、そうなんだ、そんな感じになってるんだ」
「え、もう読んだ?」
「まあ、うん」
「え、うそ、ちょっとまって、すごい読みたいんだけど」
「え、ああ、いいよ全然。はい」
と言って僕は彼女に別冊少年マガジンを渡した。
それは進撃の巨人の最終話が掲載されている最新号だった。
「好きなんだ、進撃の巨人」
「うん、やばい」
そして僕は自分でも何を喋っているのか分からないほどそれから口が先に動いていた。
「今度さあ、西鉄ホールで進撃の巨人の脱出ゲームがあるの、知ってる?」
「知ってる!それ行きたかったの」
「ええまじで」
「でも一人で行くのもなあって思ってて」
「俺も」
「ええじゃあ行こうよ一緒に」
「おん、ういよ」
いま言えたか? ちゃんと言えてたか?
っていう流れでデートに行くことになる予定で、チケットはもう2枚取った。
あとは別マガの最新号を手に入れてゼミが始まる前に読んでなきゃいけないのだが…。
どこにも売ってない。
どこも売り切れだ。
神様はそういう意地悪なことをする。
と諦めかけたそのとき、
僕はコンビニで一冊の別マガ最新号を見つけた。
そして手を伸ばしたそのとき。
(ふたり同時に)「あっすみません」
彼女だった。
「えっと…どうぞ」
「いや、えっと、どうぞ」
「えっと、とりあえず買ってから考えますか」
「そうしましょう」
この流れは考えてなかった。
だけど、これはこれでいい流れだ。
おしまい
※こちらの小説は2021年4月27日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
※リアル脱出ゲーム×進撃の巨人 The Final Season 「5つの巨人からの脱出」福岡公演:2021年4月29日(木)〜 2021年5月5日(水)
会場:西鉄ホール https://realdgame.jp/shingeki_2021/