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酒とバラの日々

  今回のジャズスタンダード曲は、「酒とバラの日々」です。ジャズ仲間では、通称「酒バラ」と言われています。私もジャズを聴きはじめたばかりのころというか、ジャズを少ししかかじっていない時に、曲を良く知らないにも関わらず、ちょっと気取って、「酒バラって良いよね」なんてフレーズとして使っておりました。特に、ジャズの生演奏や喫茶店でリクエストの時も「酒バラお願いします」とか言っちゃっておりました。今思うと凄く恥ずかしい思いが致します。そんなことでも大変懐かしい曲でもあります。
さて、この曲は1962年「酒とバラの日々」という映画のテーマ曲です。私は曲の方から先に知ったので映画については、殆ど何も知りませんでした。タイトルからしてお酒とバラつまり色事のこととかってに思っていて、お金持ちの優雅な恋愛映画と曲のイメージから想像しておりました。今でもこの映画は観ておりませんが、アルコール依存症の映画だそうです。カップルでアルコールに溺れていくそうです。確かに原曲を聴くともの悲しいものを感じざるを得ないものでもあります。
 では、スクリーンミュージックを聴いてみましょう。


この曲を作曲したのは、ヘンリーマンシ―二です。ヘンリーマンシ―二といえば、「ティファニーで朝食を」でオードリーヘップバーンが歌った「ムーンリーバー」で有名と思います。それ以外にも「刑事コロンボ」や「ピンクパンサー」や「ひまわり」のテーマ等もご存知かと思います。
  それにこの曲を歌っているのは、ジュリ―ロンドンです。 ジュリ―ロンドンはもともとは、映画俳優ですが、最終的にはジャズボーカルとしても活躍致しました。色々とジャズのスタンダード曲を唄っております。アメリカではヘレンメリルよりは、 ジュリ―ロンドンの「you'd be so nice to come home to」の方が有名なんだそうです。
 
  しかし、この曲を本当に有名にしたのは、アンディウイリアムスです。ビリボードのLP部門で1位となっています。ちょっと聴いてみましょう。


  更に、この曲で有名なのは、オスカーピ―タソンでしょう。何故か、オスカーピーターソンと言えばこの曲とも言われております。彼の演奏は、スイングの流れを汲む奏法でモダンな和声感覚にとんでおります。特に超技巧派であり、「鍵盤の皇帝」とも言われております。また、私には良くわかりませんが、ミスタッチも殆どないと言われています。


  今回、このブログを書く上で、色々音源を捜しましたが、この曲で意外に良かったのは、ギターの演奏です。ギターでしっくり聴くというのもなかなかいいですね。ちょっと聴いてみて下さい。ブログを書きながらでもとても気持ちのいいものです。


  それでは、そろそろこの曲の歌詞についてご紹介いたします。では、女王の歌で聴いてください。
この曲の作曲者は、ジョニーマーサーです。代表作に、シャレード、ムーンリバー、枯葉等があり、これらを聞けばなるほどと思うと思います。では歌詞を見てみましょう。

 The days of wine and roses,
 Laugh and run away,
 Like a child at play,
 Through a meadowland,
 Toward a closing door,
 A door marked never more,
 That wasn't there before.

 The lonely night discloses,
 Just a passing breeze,
 Filled with memories,
 Of the golden smile,
 That introduced me to,
 The days of wine and roses,
 And you!

 The lonely night discloses,
 Just a passing breeze,
 Filled with memories,
 Of the golden smile,
 That introduced me to,
 The days of wine and roses,
 And you!
  From LyricsFreak

酒とバラの日々は
笑ったり、走り回ったり 
まるで戯れる子供のようだった...

草原を駆け抜け
僕たちは 
閉じゆく扉へと向かったね

ドアには "もう二度と戻れない" の文字が
刻まれていた
かつては刻まれていなかったのに...

孤独な夜が 
吹き抜ける風の如く
貴女の美しい笑顔に満ちた想い出を 僕にさらす...

酒とバラと 
そして貴女がいた 
輝かしい日々へと...

Blog:東エミのジャズ&洋楽訳詞集より
(日本語訳:東エミ)

  この歌詞は、イギリスの詩人アーネストドーソン(1867-1900)の詩「Vitae Summa Brevis」の中の一節から引用されております。

 They are not long, the weeping and the laughter,
 Love and desire and hate;
 I think they have no portion in us after
 We pass the gate.

 They are not long, the days of wine and roses,
 Out of a misty dream
 Our path emerges for a while, then closes
 Within a dream.

 この詩だと、酒とバラは幸せの象徴なのでしょうか、ゲートつまり時間の扉を超えてしまうと 失われてしまう、長くを続かないと言っているのでしょうか。このことに由来しているのでしょうか。謎だから楽しく、想像することで魅力を更にますものとなっていますね。

それでは、次に曲について見てみましょう。


曲について色々と分析して、何故名曲なのかについて解説した本があります。矢萩秀明著「ジャズ・スタンダード・アナライズ」です。この本によりますと、メロディについてつぎのようにあります。

「順番を入れ替えたスケールの謎~じらしのテクニック」
つまり、音階上の音を順番に昇って行くところにちょっとした味付けや工夫をしているというものです。例えば、C音から始まれば、C→D→E→F→G→Aと音階が自然に昇って行くことを予想します。
 余談になりますが、素晴らしいアドリブと言うものは、聴く者が「50%の予想の実現と、50%の裏切り」を体験できるものと言うのを何かの本で読んだのを思い出しました。
 ところが、この曲は、Eの後、F→G→Aと昇るのではなく、G→F→Aというように順番を入れ替えたスケールになっております。これにより、聴く者は、裏切りと驚きを感じざるを得ません。この感情をうまく引き出しています。
  また、これだけではありません。C→D→E→F→G(G→F)→Aときたあと、この次は、~A→B♭→C→Dと予想とさせ期待させます。しかし、この曲は、B♭音とC音を飛び越えて一気にDにとまで行ってしまいます。またまた、裏切られてしまいますが、聴く者は、本来唄われるはずであり飛び越えてしまったB♭音とC音をどうしても聴きたくなります。そして、その後に飛び越えてしまったB♭→Cの順番で現れます。(~A→D→B♭→C)  この時、聴く者は、深い満足感と喜びを感じることになります。にくいじらしのテクニックです。
  更に、その他のテクニックがあります。ひとつの曲の中で、一番高い音を「ハイポイント」と言います。このハイポイントは、その曲の中で一番盛り上がるところでもあります。
この曲は、「スケール的上昇ラインと跳躍の連続」です。例えば、G音からC音に跳躍した後、C→D→E→F→G→Aと今度は素直に昇ってきます。気持ちも段々と盛り上がってきます。そして、その後にことが起こります。ここから、三段跳びのようにホップ・ステップ・ジャンプで、A音、C音、E音と3度ずつスキップして昇って行きます。そして、ついにハイポイントのE音にたどり着くのです。もう、ここまできたら盛り上がりざるを得ません。そしてこの盛り上がりは、一点集中で、後半に一回だけ埋め込まれています。何度も何度もあるものではありません。勝負どこです。このように、歌手や演奏者の力量によらなくても、曲の能力で勝手に盛り上がってしまうのです。これが、この本では名曲たる所以と申しております。なるほどと思います。
  スタンダードジャズって良いですね。 
 
それでは、おさらいをこめて、シナトラで聴いてみましょう。


ピアニストでも聴いてみましょう。キースジャレットです。


申し訳ありませんが、最後はハーモニカで締めたいと思います。


今回は、「酒とバラの日々」でした。次回をお楽しみに。

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