見出し画像

体験してわかる、摺の凄さ② わかると楽しい摺の技巧/上方浮世絵館

浮世絵の摺体験ができる美術館に行ってみました。前回はその体験記で、素人ならではの色々があったりなかったり・・・(詳しくはこちらを参照ください↓)


今回はそのつづきです。摺体験後に浮世絵作品を鑑賞してみたら、摺体験をしてみたからこそわかる色んな気づきや感想がありました。

摺体験から実感する、摺師の凄さ

はがきサイズかつ4工程(4色)の体験でしたが、実際に体験してみて私が痛感したのは、

・細かい線をにじまずかすれず摺るのは難しい
・ベタ塗り部分をムラなく摺るのは難しい
・ずっと見当からズレないようにするのは神経をつかう
・机の高さ等が合っていないと肩が凝りそう
・何枚も摺るのは体力が要る

ということ。以前に摺の実演を見たとき以上に理解度が上がったように思います。

また、講師さんから、ちょっと上級(?)な摺の技法を2つ教えてもらいました。後ほど作品とともに紹介しますが、これらの気づきと知識をもって作品の前に立つと、これまでとは異なる目線で作品を見ている自分に気づきました。

ベタ塗りでさえも感動の対象

まずは面積が大きい部分でもムラがないことに、いちいち感動!これまで何とも思っていなかったのに。

逆に枠線からはみ出している部分を見つけては、「(おそらく)プロの摺師でもはみ出るんだから、素人はしかたないよね」と安心していました。

「あっ、ここの部分はみ出てる!こっちも!」
と言っていたら、同行してくれた7つ年下のいとこに、
「おねえちゃん、悲しくなるからやめよう」
と言われました。ほんとその通り。

さらなる摺の技巧にしびれる

そして教えてもらって初めて気づいた、摺の技巧への感動です。

空摺からずり
簡単に言うと、エンボス加工のような凹凸を紙につけることです。
模様の柄が彫られた版木に、顔料をつけずに紙を載せて、バレンでこすって凹凸をつける技法とのこと。

たとえばこちら↓

反射して写り込んでしまってるものは無視してください!

橋の上の人物の着物にご注目ください。
近寄って見てみると・・・、

紙の凹凸で模様が表現されています!

ほかにも、こんなパターンもあります↓

全体像はこんなかんじ

部分拡大してみると・・・、

桜の花が空摺で表現されています🌸

色だけじゃない摺の技巧を感じていただけましたでしょうか?
もう一つ別のパターンの技巧もご紹介します。

②つや摺
その名のとおり、紙にツヤを出す技法。通常の摺は紙の表面を版木に密着させて摺りますが、あえて紙の裏面を版木に密着させてバレンでこすると、ツヤが出て来るんだそうです。

※実際はもう少し手順を踏むみたいなので、浮世絵専門店さんの説明を引用しておきます。

正面摺(しょうめんすり)
上面摺り、つや摺りともいう。
絵は着色した版木の上に紙を載せ紙の背面を摺って色を付ける。
正面摺りは摺りあがった色面に合わせて文様などを彫った「正面板」を用意し
正面板の上に摺り上げた作品の表を上にして置き
バレンやヘラなどでこすることで正面板の形を浮き立たせていく。
この摺りは光沢が出るのでつや摺りともいう。

浮世絵用語集 – 古典版画 東洲斎 (ukiyoe.com)

では、実際の作品を見てみましょう!

全体はこんな感じ

向かって右の人物の着物に注目!

黒い部分に柄が浮かび上がっているのが分かりますか?

黒地の部分にも模様がきちんと摺られているんですね!芸が細かいです。

上方と江戸、役者絵のちがい

めちゃくちゃ今さらですが、上方浮世絵館は上方の歌舞伎の役者絵を収蔵している美術館です。
実は、上方と江戸の役者絵には違いがあるそうです。

▶江戸の役者絵
頭身が高くてスタイルが良く、全体的に華がある「盛った」絵。

▶上方の役者絵
頭身や表情などを盛りすぎることなく、江戸のものに比べたら映えないけれど、よりリアルに描いたブロマイドのような絵。
上方浮世絵の方が、現代の歌舞伎役者さんとお顔立ちが似てるのかもしれませんね。

この上方と江戸での違いは、それぞれの地域での需要の違いによるものだったようです。華を求める江戸っ子、リアルを求める上方人、といったところでしょうか。同じ役者絵なのに、東西で文化に違いがあるのは面白いですよねぇ。

一部江戸の役者絵の展示もあったので、上方浮世絵と見比べて「たしかに違う!」と実感できてよかったです。
参考までに、こちらは江戸の絵師・歌川国貞の作品。

出典: https://www.fujibi.or.jp/collection/artwork/09036/

前掲の役者絵と比べると(スタイルの良さはあまり変わらないかもしれませんが)、全体的に華やかなのが分かります。

全体的な感想

私はもっぱら風景画が好きで、役者絵や武者絵、美人画などの人物画にはそんなに興味がありませんでした。

しかし、空摺やつや摺は、人物が大きく描かれるからこそ効いてくる技法の一つだと思いました。着物や装飾品など、模様のパターンの表現が豊かで、ウットリさせられます。
(風景画でも、雪の上の足跡を表すために空摺の技法を使う例などがあります。でも、着物の柄の方がパターンが豊富でより活きてくるのかなと思いました。)

こういった絵の楽しみ方ができるのは、人物画の大きな魅力だと気づけてよかったです。

なお、美術館付近は難波という土地柄、観光客でごったがえしていますが、館内はそんなに人もおらず、ゆったり鑑賞できました。

上方浮世絵館でなにより良かったことは、摺の技巧を確かめるために、スマホのライトで照らして見ても良いと教えていただいたこと!おかげで、よりくっきりはっきり摺を見ることができ、味わい尽くせた気がします。
摺を堪能したい人にはもってこいの場所だと思いました。

歌舞伎の題材に詳しければより楽しめるとは思いますが、素人でも充分楽しめる展示だったので、浮世絵好きの方にはオススメしたい場所です。

摺を体験して、その凄技を身をもって理解すること。その上で浮世絵の摺を鑑賞できる貴重な体験ができて非常に満足でした。


◆参考サイト
図録じゃ伝わらない浮世絵版画技法 | ARTISTIAN
大阪でおすすめの浮世絵美術館!日本が誇るアートを体験 | Osaka Metro NiNE
浮世絵用語集 – 古典版画 東洲斎 (ukiyoe.com)

◆上方浮世絵館
◇HP

◇地図


◆関連記事