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ここを必要としている人のために。1年で2カ月間だけopenしている美術館/南蛮文化館

阪急神戸線で大阪梅田からひと駅のところにある小さな駅・中津駅。そこから徒歩5分の所に、1年で春と秋に1カ月ずつ、合計2カ月だけオープンしている美術館があります。

グーグルマップで偶然見つけたこの小さな美術館の名前は「南蛮文化館」といい、その名のとおり南蛮美術の作品を中心に所蔵されています。

実のところ南蛮文化は私の守備範囲外。ですが、1年で5月と11月の2カ月間しかオープンしていないと言われると、見てみたくなってしまう。ということで、ものは試しで行ってきました。
※かなりの時差投稿になってしまったことをお詫びします。

駅の改札を出たところにポスターがちゃんと貼ってありました。
‘南蛮文化館’にたたずむ二宮金次郎像がシュールで、思わず激写


以下、訪問記になりますが、最初にこれだけは言わせてください。行って良かった、何ならまた行きたい!!

今回はわりとボリューミーなので、概要だけをお知りになりたい方は、目次から「全体的な感想」まで飛んでくださいね。

1階:キリスト教関係の作品

展示は1階と2階に別れていて、1階にキリスト教関係の作品、2階は南蛮美術が展示されています。

1階の展示室はやや狭め。ですが、ショーケースに入った作品もあるものの、むき出しで置かれているものが意外と多く、美術館でよくある立ち入り禁止線もないので、作品を間近で見ることができます。(その代わり、服や荷物が作品に当たらないよう細心の注意を払う必要がありますが)

また、作品名だけが書かれたプレートが隣にあるだけのものが多く、いつの・誰の・何の作品か分からずに見ていました。こっちの力量が試されているようだぜ…!というのは冗談で、逆にいえば、肩ひじ張らず自由に鑑賞できると思います。

館内は撮影禁止なのでお写真は載せられませんが、心に残った作品について書いていきます。

『秋草、竹に鶴図十字架』:ガラシャ夫人の遺品?

ひとつ目は、小さな黒地に金で模様が描かれた十字架『秋草、竹に鶴図十字架』です。これはエリザベスサンダースホームの設立者である沢田美喜さんの所持品だったもので、細川ガラシャ夫人の遺品と伝わる十字架だそうです。表にはキキョウ、秋草とトンボ、裏には竹に鶴の図が金細工で描かれていました。

その絵が細かくて、拡大鏡で覗くとようやくきれいに見えるんです。技術力の高さに驚きます。もしガラシャ夫人の遺品なのだとしたら、400年以上前の作なのに、そうとは思えないくらい綺麗な状態でした。

キキョウは明智光秀の家紋、ガラシャ夫人は光秀の娘であるので、あながち嘘じゃないのかも?いや、疑っているわけではないですよ!

聖龕せいがん

次に、蒔絵と螺鈿らでん細工でできた聖龕せいがん(聖画を納めるためのもの)です。イメージとしては、こちらが近いです↓

花鳥螺鈿蒔絵聖龕 漆工 名品ギャラリー サントリー美術館 (suntory.co.jp)

中に収められている絵画は思いっきりキリスト教の西洋絵画なのに、外側がいかにも日本の伝統工芸品という組み合わせが私の目には珍しく、こんな和洋折衷もあるのかと思いました。それにしても、聖龕せいがんの螺鈿細工や金細工が非常に細かくて、芸術品としての価値もこれまた非常に高そうだと感じました。

『悲しみのマリア』:土壁の中から現れたマリア様

続いて、当館の目玉の一つであろう、『悲しみのマリア』です。
この記事に出て来る、ボロボロになっているマリア様の絵画です↓

この作品は、福井藩の医師だった者の家の土壁から、竹筒に入った状態で見つかった作品なのです。この絵の所持者は隠れキリシタンだったようで、どうやらそれがバレてしょっ引かれてしまったそうです(館内にあった新聞記事より)。
絵にできた無数の傷跡に、土壁の中に隠されてから長い時を経て再び日の目を見るまでの歴史を感じさせられて、胸が詰まる思いでした。

この絵自体は、16世紀頃にイタリア人画家によって描かれたものと推測されていて、傷の修復も現代の技術的には可能だそうです。でも、館長さんはそれを望んでいらっしゃらないとのこと(館内の新聞記事より)。そりゃそうだよなぁと私も思います。この傷が伝えるメッセージの大きさは無視できません。

『聖ペテロ像』:お寺にあったキリスト教絵画

『聖ペテロ像』という、千葉県船橋市のお寺から出てきたキリスト教絵画もありました。(※先程の記事中に画像があります。)
一応『出山しゅっせん釈迦図』ということで、画中の人物はお釈迦様という扱いになっていたそうですが、「どうみても西洋人やろ…」と現代人である私は思いました。

「南米のスペイン植民地で描かれた可能性も指摘されている、作風が特異な絵」と解説にあり、そんな珍しそうなものが日本(しかもお寺)に流れ着いていることが不思議でしかたありませんでした。

2階:南蛮美術 国の重要文化財も!

さて、次は2階に上がります。2階はよくある美術館のように、ショーケースやガラス板の向こうに作品が展示されていました。でも、置いてあるものがなかなかに面白いのです。

火縄銃とその指南書:個人的にツボ

私の印象に残ったものでいくと、火縄銃(実物)とともに火縄銃の指南書のようなイラストが描かれた巻物が展示されていました。

そこには馬に乗って犬を追う武士の図。それはいいんですが、なぜか彼はふんどし一丁。髷はしっかり結ってあり、手には立派な火縄銃を抱えているのに、ふんどし以外着物は何も身に着けていないんです。股ずれしない?裸足で馬の鐙踏むのって痛くない?ていうかやけどとか大丈夫?と思わずツッコみたくなりました。

でも着物を描くのが面倒だったわけではないと思うんです。犬や馬は細かく描きこまれていて、余白にこれまたリアルな鴨(内容に関係なくない?)が泳ぐ姿が描きこまれていたので・・・。謎が謎を呼ぶ、不思議な巻物でした。

『紙本金地著色南蛮人渡来図〈/六曲屏風〉』:教科書に載っている国の重要文化財

おちゃらけてしまいましたが、2階は部屋を取り囲むように巨大な屏風絵や世界地図が展示されていて、とにかく圧巻の空間でした!

その中でも注目の作品は、『紙本金地著色南蛮人渡来図〈/六曲屏風〉』という国の重要文化財作品。中高の教科書にもよく載っているのだとか。これについては、次の「おまけ」の段で詳しく触れます。
参考:国指定文化財等データベース (bunka.go.jp)

『狩猟図のある西洋風俗図屏風』:西洋画タッチが目を引く屏風

個人的に興味深かったのは、西洋の銅版画や絵画を典拠にして描いたという作品でした。17世紀初頭の作品なんですが、西洋絵画のタッチなんです。こんなの初めて見ました!
遠近法などがまだ研究されていない時代のはずなので、建物が奇妙なことになっていたり、不自然な部分はあったりしますが、それにしても西洋絵画だと錯覚してしまう出来。

見よう見まねで西洋画の色の塗り方とか描き方とかできるものなの?!と感心しきりでした。

おまけ:受付の愛すべき‘おばちゃん’

「また来たいけど、展示内容の変更はないのだろうか?」という疑問が浮かんだ私は、帰りがけに受付のおばさまに質問してみたんです。すると、なぜか受付の小部屋から出て来るおばさま。
そして、
「『洛中洛外図屏風』なんかは豪華やから大体いつも出してるねんけどな、ここの館長さんのな、気分で変わるねん」
とおっしゃる。
「2階に『源内焼』の緑色のお皿があったでしょ?あれなんか、前に展示したのは10年も前なんと違うかな。その年の『なんでも鑑定団』で源内焼のお皿が出てな、鑑定士の中島さんが私は2枚持ってる(知ってる?)て言うてはったんやけどな、ウチには3枚あるっていうて出しはってん。」

途中途中で私も相槌は打っていますが、コテコテの関西弁でとめどなくエピソードを語ってくださいました。ああ、愛すべき関西のおばちゃんや。そしてこれは、まだまだ序の口。

「なんでそんなに出しはらへんのかって言うとな、平賀源内の時代のものやろ?ここの所蔵品の中では新しものやねん。せやからあんまり出しはらへんねん。ホラ、『洛中洛外図屏風』の脇に東インド会社の旗と鐘が置いてあったでしょ?あれもね、なんであんな端っこに置いてるかっていうと、あれもウチやと新しものやねんな。」

思いがけないウラ事情に驚く私を横目に、まだまだおばちゃんのトークは続きます。その中で驚きだったのは、重要文化財である南蛮人渡来図のお話しでした。ミュージアムグッズコーナーにあった、ミニ南蛮人渡来図の屏風を手に、

「この絵はな、狩野派の作品やって言われててんけども、違うんやないかということが分かってん。(文化庁だったかな?失念)に貸し出したときに、長谷川派やないかと言われてん。もしかしたら長谷川等伯かもしらん。等伯さんはな、千利休や秀吉に取り立てられて堺のまちを普通に歩いててん。それでまちの人を一人ひとりスケッチして絵を描いてたから、この絵のなかの黒人さんも一人ひとり肌の色が違うでしょ?よく見てはってんなぁ。ここにいるのが、千利休。ほんでこっちが弥助さんや。前にテレビが『弥助の絵があるー』言うて、ここに来たこともあってんで。それからこの眼鏡をかけてる人がヴァリニャーニさんやな。残念なことに、眼鏡の向きが上下逆やねん」

というマシンガン解説を(実際はもっともりだくさん)してくださいました。

これらの話を聞いて、ようやくあの絵のすごさが分かってきて、また見たくなってきたところでタイミングよく、
「また戻って見てきたらええよ」
と言っていただいたので、もう一度絵の前に。

これが千利休なのか、もうすこしいい表情にしてあげればいいのに。確かに黒人さんの肌の色は様々、髪の毛の色も様々。全人物の顔がちょっとずつ違っていて、描き分けられているんだな。やっぱり眼鏡はおもしろいわ・・・と、先程よりも何倍も楽しく鑑賞ができました。

また、画中の海の色はラピスラズリを原料にしていることも教えてもらったので、改めてその青の深くて濃い色と金とのコントラストの美しさに見入ってしまいました。

ついでに源内焼と端っこに追いやられた東インド会社の旗と鐘も見て、大満足!

帰りに礼を言って出ましたが、やっぱり背景知識があると何倍も面白くなりますね。私は長話が全然平気なタイプだったので、ツアーガイドをしてほしかったくらいです(笑)

全体的な感想

1年で5月と11月の2カ月間だけオープンしているこの美術館。「南蛮文化」というピンポイントなジャンルに特化していますが、初心者でも十分楽しめました。私はキリスト教のことも詳しくはないけれど、日本におけるキリスト教の受容(と迫害)の様子を感じられて興味深かったです。

たとえば、どうみても西洋人の伝・釈迦図や、土壁の中から出てきたマリア様。キリスト教迫害の歴史の中で、どうにか捨てられず現代まで伝えた人たちがいることを思うと、胸が熱くなりました。

2階にあった昔の世界地図はもちろん、安土桃山時代の金をふんだんに用いた豪華な屏風絵、南蛮人や十字クロスを絵柄に落とし込んだ品々などは、ただ眺めているだけで面白いです。教科書ではチマッと縮小されている屏風絵のホンモノを、原寸大でじっくり見て味わえるとは。

ちなみに館内にはソファがたくさんあり、休憩をはさみながら見ることも可能です。ユリが飾られていて、ときどきその香りが漂い、National製のレトロ空調機が現役で働いている様子も楽しめます。手入れはされているけれど、時間が止まっているかのような空間でした。この空間のファンがいてもおかしくないくらいです!

ところで、何度か引用している記事には、館長さんの「1人でも2人でも待っている人がいる間は続けたい」という言葉がありました。
待っている人がいるからオープンしている。大きく宣伝するわけでもなく、そこを必要としている人のために運営されている。なんだかそれが素敵だなと思いました。

(自分のnoteも、「必要としている人のためにある」ページでありたいなぁなんて思ったり。)

不思議と再訪したくなる魅力ある場所でした。次のオープンは2025年5月。気になった方はぜひ足を運んでみてください。

◆ 南蛮文化館
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