下剋上球児のロスから抜け出せない
下剋上球児の魅力を4つの視点から考える
2023年10月期TBS系日曜劇場「下剋上球児」、最終から1ヶ月が経過した現在も、多くの人がそのロスに陥っている。かく言うわたしも、越山高校野球部が甲子園に行ったあの2018年夏に心のの一部分が取り残されたままだ。
なぜ、私たちはこんなにも下剋上球児に魅了されたのか、4つの視点から考えてみた。
これは2024年1月時点で、ドラマ本編、インタビュー、インスタライブなどで拾った情報を元に書いている。公式からの情報が増える前に一度自分なりの観点でまとめたいという思いから書き始めた。メモリアルブックやBlu-ray BOXなどで公式からの情報が増えたらさらに書き加える予定である。(早く読みたい!)(2024年7月、公式メモリアルブックとDVD & Blu-ray BOX情報も追加し書き上げました!)
(1)各キャラクターの魅力
下剋上球児にはあまりにも魅力的すぎるキャラクターが多く、ロスになっているのは、特にザン高球児に魅了された人が多いと感じる。
鈴木亮平さん演じる主人公の南雲監督や、野球部を愛で包む山住先生の黒木華さん、犬塚翔のおじいこと小日向文世さんら、ベテラン俳優がいてこその厚みのあるドラマになったことはもはや言うまでもない。ただここでは、越山高校野球部の球児たちにフォーカスして述べさせていただく。球児役の俳優たちは全員半年間に渡る野球実技と演技でのオーディションにより選ばれた。下剋上球児が初めての連ドラレギュラー出演の方も多く、役の中での成長と本人たちの俳優としての成長が重なる部分がアツい。クランクインまでも練習会や合宿など野球の練習を積み、試合のシーンも俳優たちが実際にプレーして演じている。
①越山高校野球部不動のエース犬塚翔(中沢元紀)
犬塚翔は、名門クラブチームの元エースで、強豪星葉高校への進学を目指していたが、勉強で不合格となり、越山高校に来たピッチャーである。
翔くんは、ザン高野球部の導火線だったと思う。2016年春、日沖誠ただ1人だったザン高野球部に翔くんが来たことでザン高は闘う術を身につけた。レベルの低い環境に絶望するだけでなく、そこで努力することを選んだ翔くんがいたからこそ野球部は戦う土俵に立てたのである。過剰に野球への期待を寄せるおじい(小日向文世さん)の存在を、鬱陶しく思うのではなくその愛情を自身の強さや自信へと変える、その孫らしい可愛らしさも翔くんの魅力であった。もしかしたらピッチャーとしての実力は根室の方が最終的には上だったかもしれないが、間違いなくザン高野球部のエースは、不動の1番は、犬塚翔くんだった。
この犬塚翔を演じたのが中沢元紀さんである、まだ演技を始めて2年目(当時)の俳優らしい。元紀くんは野球の経験は中学3年生までだそうだが、立ち姿に華があってザ・エースの雰囲気がある。エース役を演じるに当たって毎日10キロランニングしていたとのことで、見えない努力があってこそ説得力のある投球シーンが生まれている。1話目のドーマーズ戦でストライクを取ったあとにとてもいい笑顔を見せるシーンがあるが、テスト撮影の際に「ストライク入った!」とスタッフさんに見せた笑顔がそのまま使われているそうだ。普段の笑顔が可愛すぎるがゆえです。
演技で特に印象に残ったのが、1話で家の中庭で「クソ部、、レベル低すぎ、、ど底辺、、、」と心の中で呟き、涙を滲ませながらピッチングをする場面と、最終話で優勝を決めた一投のあと帽子のつばを抑えて「終わった、、」と涙を流すシーンだ。涙のシーンがひときわ魅力的な俳優さんである。今後は当て馬役で失恋シーンとかどうでしょう。相手の幸せを思い身を引く元紀くん、想像しただけでサイコウ!
②人間らしさが溢れ出るキャッチャー日沖壮磨(小林虎之介)
私が下剋上球児にハマった一番の原因がこの日沖壮磨という存在である。赤髪で柄シャツを着て制服のズボンを捲り上げビーサンを履いて学校に来る男。喧嘩早く、たった1人で練習する兄の存在を恥ずかしく思い、ザン高野球部を「クソ部」と嫌っていたのに、野球部の部員がバカにされているのを見過ごせず喧嘩になったり、それを止めようとして相手に怪我をさせた兄を庇って謹慎処分となったりと、情に熱く、正義感が強い。最終的に、兄の誠が自分の喧嘩が原因で試合に出られずに引退したことを知った壮磨は、頭を丸めて野球部に入り、正捕手となる。こんなに人間臭い壮磨、もう全員好きですよね??
壮磨の一番印象に残った場面といえば迷いようもなく、4話で兄の誠が引退したあとに、坊主にして泣きながら入部宣言をするシーンである。
「ピッチャー全然活かせてないやん、あの展開で勝てん方がどうかしとる。俺がザン高勝たしたるわ」
兄のために野球部に入るのだが、兄に謝るわけでもなく、兄のためと伝えるわけでもない、「俺がザン高勝たしたるわ」このセリフと表情があまりに「壮磨」すぎて、私はここで一気に下剋上球児に引き込まれ、壮磨に心を掴まれた。
野球部に入ってからも壮磨は、山住先生に怪我をさせたことでプレーが乱れたり、南雲監督に「つまんない試合だな、三振して来い」と発破をかけられブチ切れて、怒りを根源にヒットを打ったり、単純で感情的な子だが、それも魅力だ。
でも、壮磨は実は冷静な一面もある。最終話の伊賀商戦で、相手がバントした際に1塁ランナーが躓いたのを見て2塁に送球した場面など、キャッチャーとしてももちろん表れているが、南雲監督が星葉戦で翔くんではなく根室を先発にしたことに1人だけ理解を示すシーンのように、冷静に物事を判断する一面もある。はあ、もう魅力は語り尽くせないや、、
そんな日沖壮磨を演じたのは小林虎之介さんである。本人曰く球児の中でも元々インスタのフォロワーが一番少なかったらしく、連続ドラマのレギュラー出演も今作が始めてであり、まさしくニューフェイスだ。キャッチング技術の高さは野球を監修した先生も一押しであり、強肩っぷりも節々で見せてくれている。また、他の球児に右打ちが多いため、元々右打ちだったのを左打ちに変えるなど、バッティングのセンスも光る。
演技で言うと、最終話で甲子園を決めたあと兄の誠とのやりとり、「連れてくで、甲子園」と叫び、「自慢の弟や」と言われたあとの、噛み締めるような表情。兄ちゃんに褒められてうれしいような、少し照れくさいような壮磨の感情を、表情だけで表現しきっており、小林虎之介という役者の底力を見せつけられた。
裏話でいえば、虎之介くんご本人の要望でどうしても恋愛描写がほしかったらしく、塚原監督に「山住先生と壮磨が結婚するってどうですか?」と打診し、カメラが回ってないところで山住先生を勝手に香南子呼びしていたそう。(恋愛描写はもちろん不発に終わりました)
撮影序盤に亮平さんと2人のシーンが多く、軽口を言い合う関係性を作っていたそうで、その後の他の俳優たちと合流してからの撮影で「アカデミー賞俳優の芝居、勉強させてもらいますわ」とふざけて亮平さんに言ったところ、他の俳優たちにドン引きされたというエピソードには笑いました。
下剋上セレクション(球児役のオーディションの様子がまとめられたスピンオフ企画)での合格発表シーンにて言われていたように、「キュルっとした顔立ち」という言葉が最も似合うような26歳とは到底思えない可愛らしさと、なんだか掴めない性格が小林虎之介くんである。球児役で最年長にも関わらずみんなから「年下っぽい」と言われていたキュルっとフェイスでかわいい虎之介くんに、ヤンキー壮磨を配役してくれた塚原監督や新井Pに心よりお礼を言いたい。多くの人が、完全に今作で見つけた(世の中に見つかった)俳優さんだと思うので、これから大きく羽ばたいてほしい。個人的にももっとたくさんの役を見たいです、切実に。まだ制服も全然間に合うからね!!?
③一番の下剋上を果たす、ピッチャー根室知廣(兵頭功海)
根室は中学時代は万年控えで気が弱く、経済的に苦しい家庭で姉と暮らしている。南雲監督にピッチャーとしての才能を見出され、最終的には社会人野球の選手となる。
野球選手として一番下剋上を成し遂げたのは間違いなく根室である。根室はいわゆるヤングケアラーで、家計のために休みの日には漁港でバイトをしている。経済的理由や家から学校が遠いことで野球を諦めようとしていたが、南雲監督(根室にとっては先生と呼ぶ方が正しいかも)の優しさに何度も助けられ、野球を、ピッチャーを続けた。気弱でマウンドに立つだけでも緊張していた根室が、「勝ちたい、エースになりたい」と思うほど成長し、最終的に野球でご飯を食べられる選手になるなんて、これ以上の下剋上はない。
メガネをかけた気弱な根室を演じたのは兵頭巧海さん。戦隊モノの出演経験があるなど、他の球児役俳優に比べると元々知名度の高い俳優さんである。メガネを外したときのギャップがすごく、そのイケメンぶりから「根室くん」が何度か放送中トレンド入りしていた。特に印象に残るのは、2話で南雲監督からグローブをもらった後の「俺、何もお返しできやんです」の場面。気弱だが心優しく真面目な根室を本当に見事に表現していた。また、山下美月さん演じる姉の柚希とのやりとりも、お姉ちゃんにだけは少し強気でいける弟という関係性がよく表れていた。
裏話でいえば、経済的な理由から、元々軟式用のグローブしかもっていないため、2話の星葉戦では野原のグローブを使っていたり、引退した長谷川からユニフォームをもらったことでそれまでヨレヨレだったユニフォームが綺麗になったり、と根室のバックグラウンドがわかる細かい裏設定が好き。
かつくんは元々福岡県の強豪校でピッチャーをしていたそうで、高3のときは予選決勝戦まで進出したそうだ。9話星葉戦で140キロのピッチングを見せたが、あれはCGではなく実際に140キロ投げているということで驚いた。根室とかつくんのあまりのギャップに少し風邪をひきそうになるくらい、ご本人はとてもよく笑う明るい性格なので、今後も多様な役を演じてくれるだろう。個人的にはあの整った顔立ちと抜群のスタイルには、悪役が大変似合いそうなのでぜひ見てみたいです。絶対スーツな??
④周りに流されず己の道を行き、高い目標を持つ2年生強打者中世古僚太(柳谷参助)
中世古は、南雲監督不在時期に山住先生の熱心なスカウトによりザン高に入学した強打者だ。入部当初から「ザン高甲子園連れてくのは俺や」と口にするなど甲子園の目標を周りにも公言して、2年生ながらクリーンナップを任される選手である。
かなり飄々とした雰囲気だが、「勝ち星あげたろ、山住先生に」「(山住先生の悪口を言った相手校の生徒に対して)ひき肉にしてやりますわ」と言ったりする一面も。自信のなさから上を目指そうとしない先輩たちに流されることなく「野球やって甲子園目指さないやつがおるんですか?だから負けんねん」と悪態をつく。そんな彼の、最終話での「先輩ら勝たすぞ!!」は先輩たちへの熱い思いが伝わり、かなり好きなシーンだ。
中世古を演じたのは柳谷参助さん。強豪桐生第一出身で、2年生の春にはセンバツベスト8の経験もある。撮影でもホームランのシーンで実際にホームランを放つなど、ほぼ間違いなく球児役の中では野球の実力はNo. 1である。オーディションでは12人のメイン球児役は落選するが、その後中世古役として復活合格を果たすなど、リアル下剋上を見せてくれた。まだ出演作品は多くなく、これからが期待される俳優さん。
私は個人的には「壮磨→山住」よりも早く「中世古→山住」を感じ取っていたので、中世古山住派でした(どっち派とかないよ)
インスタライブからはとても真面目で誠実な人柄が伝わった。コメントを「拾う」という言葉すら失礼と感じるというほど謙虚で真面目。正義感のある役がとても似合うと思うので、ぜひ警察官役をやってほしい、足もめちゃくちゃ速いしね!
他の球児のキャラクターも素敵すぎてまだまだ紹介したいのだが、このままだと書ききれないので数人を簡潔に紹介させていただく。
○マイペースで自由奔放なスラッガー楡伸次郎(生田俊平)。野球は好きだが、マイペースで口数が少なく、何考えているかわからない。でも実は強い意志を持った楡を上手く演じていた生田くん。脚本の奥寺さんは初めて生田くんと会った時、「よく楡がいたな!」と思うほどピッタリだったそう。楡って割と3話あたりから「南雲先生好き、俺らの面倒見て」って感じで、翔くんや根室と違ってそこまで南雲先生との描写ないのになんでだろうと思っていたが、「目が悪いのに放置している」「ご飯がグミ」など、おうちであまり関心を持たれていなくて、色々と面倒見てくれる南雲先生の存在が嬉しかったのかなと解釈していた。生田くんは青森山田出身で、撮影で本当にホームランを打ってしまう野球の腕前。撮影ではつい感情移入して泣きすぎてしまうらしく、久我原が怪我した場面では「クガ死んだん?」と思われるほど号泣していたらしい。楡の鼻テープは小林虎之介くんのアイデア。
○初心者から主将になるほどの上達を見せた椿谷真倫(伊藤あさひ)。元将棋部の初心者として入部し、最終学年では主将になる役柄。1年生の頃とキャプテンとして振る舞う時では全く表情が違い、本当に丸2年経ったかと思うような成長を演技で見せてくれたあさひくん。カメラが回ってない時でもキャプテンとして声をかけてまとめる役割を担っていたそうで、越山野球部のチーム感を作ることにとても貢献していたと感じる。根室役のかつくんとは元々親友だったそうで、2人揃ってオーディション合格できたことに喜んでいた。クランクアップ時に「この現場が第一の青春だった」と泣きながら言った言葉に私ももらい泣きしました。ちなみに1話の椿谷の名場面、チェンジアップを「チャンジャ」と言い間違えるシーンはアドリブ(天才?)。
○ザン高の切り込み隊長、いつもカラッと明るい久我原篤史(橘優輝)。ザン高イチの俊足で、常に一番バッターを担う久我原。どんな時も明るく後輩にも優しく、上を見過ぎることも自分を卑下することもない、そんなクガの明るく優しい性格が大変魅力的。「星葉ってそんなええか?ザン高でええやん」「先生もう大丈夫なん?痛いやろ、大事にせんと」のシーンとかほんとに好き。9話最後、病院のテレビ中継で勝ちを見届けた後、ロン毛をくしゃくしゃにしながらの「あいつらやりよった」は全員泣きましたよね。橘くんは野球未経験者だがずっと短距離をやっていたそうで、橘くんに出会わなければ足の速い久我原の役は生まれてなかったと塚原監督は述べている。橘くんは球児役の中でもほぼ最年少で、弟っぽくて可愛がられていたそう。実際に身近にいたらクガのこと絶対1番好きになります。
○口が悪くサボり症だが実はアツい男、野原舜(奥野壮)。言葉遣いが悪く、すぐサボるすぐキレる、後輩もいびる、スタメン落ちしたら試合に来ない。だけど負けず嫌いで憎めない野原。これまた可愛いお顔の壮くんがめちゃくちゃハマり役。野原は壮くんそのまま(生田くん談)だそうだが本人は強く否定していた。五十鈴戦に勝った後や負けて引退決まった後の野原の涙が本当にこちらも泣けて、とてもいい俳優さんだなあと感じた。
以下、私が好きな壮くんのアドリブ
6話、対戦相手に五十鈴を引いたとみーに対しての「日沖先輩見習えやボケカス」(本気で凹む凜くん)
9話星葉戦、南雲監督がヤジを飛ばされるシーンの「お前が南雲の何知ってんねん!」
放送されなかったが、5話根室失踪事件のコンビニで球児ら会話シーンでの塩尻先生の悪口「塩ケツ?あ〜顔だけのやつな」←これは絶対にディレクターズカットで収録してください!
○ザン高の歴史を変えたキャプテン富島雄也(福松凜)。野球は好きだが周りに流され幽霊部員になったものの、壮磨が入るまでは正捕手として、最高学年になってからは主将として部を引っ張り、公式戦一勝を掴んだ。南雲監督もいない、同級生の野原紅岡はすぐサボる中、とみーは本当に苦しかっただろうなと感情移入してしまう。 撮影の裏でも、日沖兄らが引退したあと球児たちが上手くまとまらないタイミングがあったらしく、凜くんは「キャプテンなんだから仕切って」と新井Pから指示を受けていたそう。7話伊賀商に負けて泣き崩れる野原を支え、涙を堪えた「最後まで」がアドリブだと知った時、凜くんのとみーという役への理解の深さを感じた。凜くん、朝ドラとかそのうち絶対出るよね、朝ドラ顔だもん。
○たった1人でも練習を続け、野球部を守った日沖誠(菅生新樹)。決して野球は上手くないがたった1人で毎日練習を続けた日沖。日沖がいなければ野球部は無くなっていただろう。野球部を引退してからもその想いは絶えることなく、社会人として働きながら弟の壮磨とザン高野球部を応援し続ける姿が素敵だった。新樹くんは野球未経験者であったが、上手くないのに何故か周りが応援したくなるその姿に、塚原監督は日沖誠としての運命を感じたそう。虎之介くんとの日沖兄弟は、実年齢では新樹くんの方が下だが、しっかりもののお兄ちゃんとして視聴者から愛される日沖兄弟を演じ切った。塚原監督は、「もし小林くんがキャッチャーじゃなかったとしてもぜひ菅生くんと兄弟をやってほしかった。芝居の感じが近いし、きっとかわいらしい兄弟になると直感した」と言っており、最初からこの2人は兄弟になる運命だったのか、と感動しました。「壮磨!しゃんとせえ!」日沖兄弟、永遠に愛しています。
その他にも下剋上球児には魅力キャラクターが数多くいる。未視聴の方はぜひ一度見ていただければ、必ず1人は推しが見つかるに違いない。これから球児たちに初めて出会えるそこのあなたが私は羨ましくて仕方ない。
(2)心がアツくなるストーリー
明日への活力
下剋上球児から得られるもの、それは「明日もがんばろう」という活力だと思う。学生や社会人にとって、明日が来ることを少し憂鬱に感じてしまうことの多い日曜の夜。下剋上球児はそんな憂鬱を少しだけ吹き飛ばしてくれる、「とにかく明日一日がんばってみよう」と思わせてくれる作品だった。いわゆる「スポ根もの」をあえて日曜劇場というTBS看板枠で放送するのは、日曜の夜であることに大きな意味があったのではないだろうか。
メインメッセージでいえば、下剋上球児が一番主軸にしていることは、最終回で南雲監督が言った、「次を目指している限り、人は終わらない」だと思っている。
「残念ザン高」と卑下されるザン高生が、「ニセ教師」と非難される南雲監督が、試合に負けようと、失敗しようと、罪を犯そうと、批判されようと、それでも次を目指して夢中で努力している姿に、視聴者は魅了され、応援せずにはいられなくなる。
誰かが懸命にがんばっている姿を見て、応援し、自分もがんばろう!と思えるのが下剋上球児の一番の魅力であると私は感じている。
成長過程
球児たちの成長過程をしっかり伝えてくれることで、よりドラマやキャラクターへの感情移入が加速する。最初はやる気もなく後ろ向きだった部員たち。「南雲先生と練習したい」「一勝くらいしてみたい」「もっと上を目指したい」「やりきって、甲子園に行きたい」自分たちが成長することで、少しずつ夢も成長していく。
特に、ピッチャーの翔くん、根室、主将の椿谷の成長はわかりやすい。
技術面で言えば、根室がピッチャーとして目覚ましい成長を遂げ、大学にスカウトされるほどの選手になる過程は誰もが嬉しくなる。椿谷は初心者でザン高野球部に入り、ヘッドスライディングで流血する実力だったが、後に主将として部を引っ張る。直接的な描写がなくとも、人一倍努力したことがわかるし、役なのに「よくがんばったな〜偉いな〜」とつい口に出してしまう。
翔くんに関しては、内面の成長が大きい。ドラマ前半では「自分がエースだ、勝たせる」というエースとしての自信があったと感じる。次第に根室の成長によりエースだという自信を失っていくが、それでも部のために自分がやれることをやる、という精神面での成長が見られる。この成長は先生たちの存在によるもの大きいのではないかと考える。卒業後にコーチになったのは、先生たちに成長させてもらった恩を、自分が誰かに返していくためなのだろう。
成長過程を描くことで、たった2ヶ月と少しの時間、たった10話のドラマなのに、3年間ずっと、球児たちを近くで見守ってきたような気持ちにしてくれるのだ。
思いは繋がるものである
高校の部活動という青春がどれだけ短く儚いものかを、既にその時間を通り過ぎた人は深く知っているだろう。でもその短い時間に刻んだ努力と手にした思いは、次の自分、そして自分より後の世代に確実に繋がるのだ。
それは、序盤の伏線を9、10話で回収していることで描かれている。
2話の星葉一年生との練習試合での翔くんが言った「野球なら負けへん、証明したる」の言葉。結局、あのときは証明できずに負けた。2年後の9話星葉準決勝9回裏代打シーン。南雲監督からの「証明して来い」に頷き、スリーベースヒットを打ち、今度こそ証明してみせた。あの敗北で得た「チームで戦う」という思いが、2年後の翔くんに繋がったのだ。
この翔くんの2つ前の打席の楡の「目を開けたら俺らの勝ちや」は、2話での南雲監督の次の言葉から来ている。
「みんな目閉じろ。イメージしろ、試合終了、ホームに整列、8-7で越山高校の勝ち!はい開けて。全ては思ったようにしかならないんだよ」
そしてこれは、最終話伊賀商決勝戦6回裏、伊賀商に逆転されたシーンでのザン高OBたちが「イメージや、勝つイメージ!」と後輩を鼓舞するセリフにもしっかりと繋がっている。
9、10話で壮磨が使っているバットは、1、2話で兄の誠がたった1人の野球部で振り続けたバットだった。
青春は短い。でもその短い瞬間の中で、夢中で努力した人は必ず何らかの「思い」を得るのだ。その思いが青春を終えた次の自分に繋がる。その思いが、自分たちが終わりを告げた青春のあとに、次に青春を生きる世代へと継承される。そうやって繋がっていくことの尊さを感じさせ、温かい気持ちにしてくれた。
本当にすごいことは「甲子園に行ったこと」ではない。日沖誠や富嶋らが、一勝もできなかった、甲子園に行けなかったから、野球に打ち込んだ日々は意味がなかったのか?このドラマを見てそう思う人は1人もいないだろう。本当にすごいのは、野球をすることで、「野球を終えたその先を生きていく力」を得たことである。「人生は負けても終わりじゃない」「必死に頑張れば、未来の自分に、そして自分よりも次の人に繋がる。」青春を夢中で駆け抜けたザン高野球部全員がそれを知っているだろう。そして彼らを見守った私たちも。
当たり前のことを繰り返す社会人としての毎日の中で、「少しだけいつもよりがんばろう」と思えるメッセージを届けてくれてありがとう。
(3)迫力のある映像と演出
エモさを持った野球シーン
下剋上球児の映像のすごさといえば、なんと言っても野球シーンだ。球児たちのプレーがすごいのはもちろんだが、試合の映像では、カウント表記も表示されるなど実際の野球中継を見ているようで引き込まれる。また、2話からは実況を取り入れたことで、より野球中継っぽく、普段野球を見ない人にもわかりやすく野球の流れを理解できる演出となっている。
野球というのは打つ、投げる、走ってホームインするなどの、流れの中での「ある一瞬」が際立つスポーツだ。その「一瞬」を、スーパースローで撮影したり、アニメーションを差し込んだりして、野球の「エモさ」を引き出しているそうだ(エモさ、は塚原監督の言葉を引用している)。確かにスローやアニメーションになることで、「ある一瞬」の輝きが引き延ばされているように感じた。撮影時には、その一瞬のために球児たちは何度も同じプレーを繰り返すらしく、例えば最終話での壮磨の二塁への送球の場面は、あのシーンだけで1時間半ほど送球を繰り返したらしい。そういうスタッフと役者さんたちの努力であの鳥肌が立つような野球シーンが作られているのだ、本当に頭が下がる。
漫画やアニメが持つ「デフォルメ」する長所と、実写が持つ「リアリティ」を上手く組み合わせ、実際の野球の試合っぽいけど、よりドラマチックで「エモい」野球シーンが作り上げられているのが映像として魅力的だ。
迫力を作るエキストラの存在
下剋上球児の野球シーンに欠かせないのがエキストラの存在である。
関東や三重の球場で試合シーンのロケを行ったそうだが、毎回本当に多くのエキストラが参加しており、野球シーンをさらに盛り上げていた。
中でも、甲子園を貸し切って撮影したシーンでは、ドラマのエキストラとしては異例の5000人が参加したとのこと。多くの方の協力であのリアルで大迫力の甲子園シーンが作られていた。
甲子園でサイレンが鳴り響き、球児たちがフィールドに散らばっていく空撮のシーンが本当に綺麗で、最終回の最後の場面として深く心に残った。(塚原監督の空撮は本当に綺麗ですよね)
甲子園エピソードで言えば、とても素敵な裏話が2つある。
1つ目は、ザン高球児たちが甲子園グラウンドに足を踏み入れるシーン。あのシーンは本番まで球児役の俳優たちは甲子園のグラウンドに入ることを禁止されており、カメラに収められたのはエキストラで埋め尽くされた甲子園を初めて見て、感動している球児たちの表情だ。球児の誰もが憧れる甲子園に、自分たちの撮影のために多くの人が集まってくれた。その光景を目の当たりにした彼らの表情が輝いていて感動的だ。
2つ目は、撮影終了後、お客さんのいなくなった甲子園で、亮平さんと俳優たちがノック練習をさせてもらったというエピソード。高校時代には甲子園の夢が叶わなかった子たちが、俳優という別の形で甲子園のグラウンドに立つことを叶えていて、これまた俳優たちが実際に下剋上を果たした場面の一つなのだろう。(下剋上セレクションに収められているのでぜひ見てください)
(4)情熱やノスタルジーを引き立てる音楽
情熱ってなんだよ 消えちまえ
下剋上球児の音楽といえばまずはSuperflyさんの「Ashes」を頭に思い浮かべるだろう。
1話を見ながら「情熱ってなんだよ 消えちまえ」という歌詞を聞いた時、「ん?聞き間違い?」と思ってしまった。このAshesについては、ご本人のインタビューが大変わかりやすく、曲の解像度をとても高めてくれるのでぜひ読んでいただきたい。
TBS系日曜劇場『下剋上球児』主題歌「Ashes」オフィシャルインタビュー
最初の違和感とは裏腹に、聞けば聞くほどザン高野球部と南雲監督の歌なのだ。インタビューにもある通り、この歌は悔しさや怒りなどのネガティブな感情を根源に、「うるせえな、やってやるよ」という反骨心を表している。それを特に表しているのが「情熱ってなんだよ 消えちまえ」のフレーズである。
さらにすごいのが、このサビのフレーズが2番と大サビでは「情熱が胸で 燃え盛る」に変わっているところだ。1番から2番・大サビに向かうにつれ、ネガティブな反骨心から、ポジティブな最後までやり切るという心情に、だんだんと変化していくのだ。もうお分かりだろうが、この一曲の中で、どん底からの下剋上を表現している。一番最後の歌詞「燃え尽きられるなら何も悔いはないさ」も伊賀商に挑むザン高野球部そのものである。
基本的に劇中で一番盛り上がるシーンで、サビが特に大きい音量で流れるのだが、
〇1話のドーマーズ戦での日沖兄の打席、3話の南雲先生が抽選会会場へ走るシーン、5話の2016年冬練シーンのような、「やってやる!」と決心するシーンでは「情熱ってなんだよ 消えちまえ」が使われている。
〇その他の回では、試合で一番盛り上がる、逆転するシーンやアウトを取るシーンで「情熱が胸で 燃え盛る」が使われている。
この使い分けが本当に素晴らしい。
歌詞以外からいえば、イントロは不穏な感じを表しているそうだ。私はこのイントロがとてもいい刺激をドラマに与えていると感じる。ドラマを見進めていくと、先ほども述べたようにAshesのサビでは盛り上がるシーンが来ると視聴者側もわかってくるので、劇中であの低いギター音が流れると、「くるぞくるぞ」という心境となる。いわゆる確定演出というやつ。9話星葉戦でイントロが流れたとき、見なくともその先の「翔くんが出てくる」展開が視聴者にも分かったはずだ。
私は音楽には全く精通していないが、下剋上球児におけるAshesの存在感の凄まじさが理解できる。ドラマが主題歌の中身(歌詞と音)をより深くし、主題歌がドラマを盛り上げるのだと改めて実感した。
青春の儚さを引き立てる劇伴
下剋上球児の劇伴はjizueというバンドが全て作成している。数々の劇伴があり、タイトルバックとともに流れる「下剋上球児 Main Theme」はバッティング音の「カーキン」と相まって「始まった~!」とテンションがぶちあがる。その他、どれも下剋上球児のシーンを引き立てる名曲であるのは間違いないが、特に「諦めきれない」「三重-Mie-」「夕凪」が好きだ。高校生という本当に一瞬の青春を、儚くも輝かしく引き立ててくれている。
特に好きなシーン×劇伴の組み合わせ
○「諦めきれない」→前向きな終わりを感じる曲。最終話、優勝を決めたあとのシーン翔くんのくしゃくしゃの泣き顔や7話序盤で富嶋世代が負けて引退が決まった後のシーンが印象的。
○夕凪→ノスタルジーを引き立てる曲。4話日沖兄弟の名シーンでは2人なりの互いへの愛をより優しく描いてくれている。7話のザン高野球部が甲子園を目指す決意を固めるシーンでは、それまでの努力と成長を振り返る場面で、懐かしさを感じさせる役目を担っていた。
○「三重-Mie-」→哀愁を濃くする曲。10話序盤の南雲宅での同期での会話シーンで、引退が目前に迫り青春に終わりがあると気づいてしまった球児たちの寂しさ、青春の儚さを引きたてていた。
全ての劇伴が本当に素晴らしく、一つ一つのシーンの良さを際立たせているので、劇伴に注目しながらドラマを見返していただくと新たな発見があるかもしれない。
終わりに
自分で得た情報だけでまとめてみても、これほどまで作り込まれていたドラマだったのだと改めて驚く。こんなにも心をアツくしてくれるドラマ、次に出会えるのはいつなのだろうか。1か月以上経った今も、終わってしまったことをさみしく感じてしまう。でも終わりを悲しむより、こんな作品と出会えたことを幸せに思う方がずっといい。どうしたって、また、私たちは心が震えるような作品に出会ってしまうのだ。そのとき出会うのが、下剋上球児で大きく羽ばいた球児役の俳優さんたちの未来であれば、なおさら幸せだ。
追記(2024/7)
配役とキャラクター
引用記事は以下。
https://realsound.jp/movie/2023/12/post-1520653_2.html
https://www.tvlife.jp/pickup/635800
https://realsound.jp/movie/2023/10/post-1474354.html/amp
https://realsound.jp/movie/2023/12/post-1535470.html/amp
https://www.asahigunma.com/20231208_2_yanagiyasansuke/
【日沖兄弟の話】
まず誠も壮磨も、セレクションの段階からそれぞれのキャラクターに新樹くんと虎くんが奇跡的にハマっていて、なおかつ2人の芝居が近しいことで、兄弟らしさを生み出すものになっていたという点が、日沖兄弟の運命だと感じている。
虎くんの壮磨役について、メモリアルブックには、「4次で虎之介くんが壮磨のセリフを言っているのを見て『この子が壮磨だ』と思いました」という記述がある。
また、新樹くんの誠役については、インタビューでも「『俺めっちゃ場違いっすよね」という感じがすごく日沖お兄ちゃんに近くて、この子はこれが運命なんだなと思いました。」という塚原監督の言葉がある。
誠と壮磨、それぞれのキャラクターを単体で見ても、新樹くんと虎くんがピタリとあっていたのだ。
一方で、この2人の兄弟感というのも奇跡的で、2人が演じたからこそ不器用だけどかわいらしい日沖兄弟になったと思う。以下、何度も声に出して読みたい塚原監督のインタビュー。
『壮磨(小林)は奇跡的に小林さんと出会えたのでキャッチャー設定が生かせました。でも、もし小林さんがキャッチャーでなかったとしても、ぜひ菅生さんとやってもらいたかった。芝居の感じが近いし、きっとかわいらしい兄弟になると直感しました。』
ちなみに、メモリアルブック 公式プロフィール内の日沖兄弟が良すぎるんです。
誠→壮磨は自分と一緒に野球を始めた一番の野球仲間。
壮磨→1人で練習を続ける兄を恥じていた。兄はウザいが、自分と違い一生懸命で真っ当な人間と思っており、バッティングセンターの事件では兄の罪を自ら被った。
この設定を見てから本編見直すと、1話の日沖兄が「俺お前と一緒に野球やりたいだけやねん」を壮磨にどんな思いで言っていたのか、、、本当にいいお兄ちゃんです。
それは視聴者だけでなく壮磨も一緒で、10話で甲子園が決まった後の日沖兄「自慢の弟や!」の言葉に見せた壮磨の表情には、一緒に野球できなかった後悔も含まれているのではないかと感じた。
卒業後の現代、ザン高野球部OB大会で日沖兄弟が一緒に野球して、お兄ちゃんのプレーに「相変わらずヘッタクソやなぁ」って嬉しそうに笑う壮磨と、壮磨の活躍に一番喜ぶ誠がいたらいいなと思います。
【ねむしょうの話】
ドラマが終わってからの方が、どんどんとねむしょうへの思いが加速しています。
①なぜ元紀が翔で、功海が根室なのか
私はドラマ中盤から、普段の性格的には元紀くんと功くんが逆でも違和感なかったのでは、と思っていた。この2人の配役についてはメモリアルブックで明言されている
元紀の翔役→元紀は普段の立ち姿から華があった(エースに必要な存在感があった、ということだと考えている)。お坊ちゃんっぽさがあった。
功海の根室役→セレクション時から青い炎のようなオーラが出ていて、ピッチャー役に適していた。投球スキルの面で功海>元紀だった(キャラクターとしても最後には根室>翔、になる)。
元紀くんは初め、ピッチャーとしての技術があまり高くなく、製作陣にも「翔くんいけるか?」と心配されていたが、伸び代にかけて翔に配役された。
翔になるためにかなりの練習をして、無事にピッチャーとして成長したわけだが、「結果的に、苦労する過程も含めていい表情が出た」と語られていて、大変納得した。
1、2話の元紀くんが見せた葛藤や悔しさの芝居は、実際にエースになるために自分を追い込んで練習に打ち込み、リアルタイムで努力をしていた元紀くんだったからこそ、出来た表情だったのだろう。
一方の功くんは、エースの翔役になれなかったことをずっと悔しく思っていて、その悔しさはクランクアップでも語られていた。そういう功くんの真っ直ぐな負けず嫌いさが、根室の、翔への憧れとライバル意識(翔に負けたくないという感情よりは自分もチームを勝たせたいという感情だと思う)に上手く芝居として現れていたと感じる。
なぜ元紀が翔で、功海が根室なのか。最初からそういう運命だっただけ。
②ライバルは一番の理解者
ねむしょう名シーンである、9話星葉戦で根室がピンチになって翔が伝令に行く場面で、翔が根室にかけた「そうやんな」という言葉。功海のバースデーイベントに元紀がサプライズ登場したことにより、このセリフが元紀くんのアドリブだという、特大のねむしょう爆弾が落とされました。
https://x.com/kocch_soli/status/1782029115820040390?s=46&t=srk9ZCUlaq5EOLLlmB1yNw
元紀と功海は撮影中も、完パケを見ながら相手の演技を見返してしまうほど、互いに意識する関係だったよう。
下剋上球児の打ち上げで元紀は功海に「これからもずっとライバル同士がんばろう」と言ったそうで、下剋上球児作品中の現代では翔は既に投げるのをやめてしまって、ねむしょうはもうライバルではなく友達であるが、元紀と功海はいまもこれからも役者として、良いライバルとしてこれからも互いを高め合って行くんだと思うと、もうリアルがフィクションを越えてしまっている。またいつかの作品で2人が共演する姿を必ず見たい。
【中世古の話】
柳谷参助さんが中世古役をやってくれて、本当によかったと思っています。
https://x.com/kocch_soli/status/1782355581459931190?s=46&t=srk9ZCUlaq5EOLLlmB1yNw
下剋上球児7話の、2016年入学組に甲子園を意識させるきっかけになった「だから負けんねん」は参助のアドリブ。
https://x.com/kocch_soli/status/1750537925845242126?s=46&t=srk9ZCUlaq5EOLLlmB1yNw
自信家で、尖ってて、なのになんでかみんな好きになってしまう中世古は、参助が演じたからそうなったのだと思っている。
「よかったところを伸ばしたい、活かしたいと考えることによって、逆にキャラクターが生まれるかたちになっています」
この塚原さんの発言から、参助がいたから中世古が生まれたと考えることもできるかもしれない。
いずれしろ参助は決してメイン球児役に落ちたのではなく、なるべくして中世古役になったのだ。
参助の魅力を余すところなく引き出してくれた中世古というキャラクター、愛すべき中世古を作りだしてくれた参助。参助あっての中世古で中世古あって参助だった。
下剋上球児 DVD & Blu-rayBOXの話
下剋上球児放送終了からずっと見たいと思ってたシーンがDC版として追加されてて本当に嬉しかった。
https://x.com/kocch_soli/status/1751537845574226167?s=46&t=srk9ZCUlaq5EOLLlmB1yNw
椿谷×久我原×楡のシーンがとてもとても愛しい。将来への不安を抱えて、もう目の前に青春の終わりがあることに気づきながらも、今この瞬間とかけがえない仲間たちを大事に思ってる3人がすごく眩しくて。球児たちがいまでもたまに再会してあのときみたいに笑っててほしいなと願った。
特に久我原の「受験ダメやったから、いまお前決勝におる」のセリフが本当に大好き。私が好きな久我原らしさが全て詰まっている一言だ。久我原の「いつもありのままの自分でいる」みたいなスタンスが本当に大好きで。メモリアルブックのプロフィールの「しょっちゅうエラーするが『それも含めて自分。打って返せばいい』と堂々としている」っていう考え方も久我原らしくて素敵。
また日沖兄弟のシーンは、いつもの日沖兄弟でコミカルでかわいい。ドラマ放送当時は野球以外にやりたいことがないように見えてた壮磨も、公式メモリアルブックとDC版の追加シーンから、まさかの中学時代から事業を興してお金を稼ぎたいと考えていたということが判明(あれで?)。結果的に現代で起業した旅行会社はSST(壮磨伸次郎ツーリスト)という名前らしく、悪い大人に引っかからないように祈ってます〜
さて、結果的にDC版には椿谷世代全員の、将来に向けた不安や希望を持っていることを描写するシーンが、決勝戦の前に入っている。
こういったシーンを見てから改めて伊賀商戦を見ると、優勝を決めた後の球児たちの表情に初めて見た時とは異なる印象が持てる。野球を経て、この子達は大人になったのだなと。勝って嬉しいだけでなく、その先の未来がもう彼らの中には生まれていて。自分を超えた瞬間の彼らを捉えたシーンが改めて心に沁みた。
甲子園のシーン
https://x.com/kocch_soli/status/1780970104328773929?s=46&t=srk9ZCUlaq5EOLLlmB1yNw
本当に何度も擦ってごめんなさいなんですが、甲子園のシーン、短いシーンですが意味がありすぎると思っています。
試合シーンはなく、球場に入る選手たちの表情、ホームから各々のポジションに散らばっていく空撮、試合後にアルプスに向かって礼をする選手たちの表情。そして大敗のスコアボード。
全てが美しくて、わたしの、そして野球を愛する全ての人たちが大好きな甲子園という球場がより一層神格化されて映し出されてる。
①11-0のスコアボードを映した意味
勝つことにもちろん意味はあるけど、勝つことだけに意味があるわけではない。
下剋上球児での「下剋上」の意味は、できない自分をできる自分に変えて、変われたという自信を誇りにして、そのパワーが周りの人にも力を与えていく。そんな意味が込められていると思う。
結果的に大敗しても、球児たちが甲子園に届くまでの努力と甲子園でのプレーが、アルプスを埋め尽くす応援を生んで、その声がまた球児たちを笑顔にした。やっぱり頑張ることって美しくて、頑張ったことがある経験が、未来の自分に自信をくれて、次に頑張る瞬間に繋がるのだ。これが下剋上球児が描きたかった「下剋上」だと感じている。
②空撮のシーンに愛が溢れる
ここほんとに一瞬なんですが、よく見るとすごく越山ナインの関係性が現れてて大好きです。
・空撮シーンしっかり見るとホームで一礼した後にマウンドに向かってるのは翔くんなので、甲子園の先発は翔だったわけですが、グラウンドに散らばる前に、根室が翔くんの背中ポンポンって叩くんです。ここほんとにめちゃくちゃ好きで、翔くんのこと1番信頼してるのは根室だったっていうアツいねむしょうのライバル関係が見えます。
・空撮シーンでもう一つ。グラウンドに散らばりながら、センターへ走る久我原に向けて、ショートに走る阪が左手を出し、グローブでタッチしあってます。その後久我原は阪を追い抜いて走っていくのですが、顔は映ってないのに、久我原がいつものあの笑顔で「やったるで〜」って叫んでるのが目に浮かんで、泣きそうになります。
裏話的なアレコレ
・ドラマ放送に伴って球児たちのグッズが発売されたのだが、楡グッズが大人気で完売。それが悔しかった小林虎之介はロケ地の球場で自分のグッズを手売り。「でも手売りくらいじゃ全然敵わないくらい残ってたけどね(本人談)」だそうです。
・富嶋世代の「僕らの代はとにかく弱い」が好きすぎる。最上級生が全員下位打線打ってることに自分たちで笑ってる関係性おもしろすぎでしょ笑 特に富嶋世代と山住先生の関係性が良くて。山住先生が南雲監督がいない中で、1人でなんとかしようと頑張ってた学年だから、ここの絆が特に強いんです。黒木華さんのオールアップシーンで「私、野原くんとか見ると本当にダメなの」って言いながら涙ぐむ華さんと、野原の顔して泣く壮くんがまじで刺さります。壮くんと聡一が野球初心者ながら一生懸命練習した背景、実力はないけど野球へのアツい思いを持ってた富嶋世代にリンクして、大好きな富嶋世代です。
・星葉戦で壮磨が南雲監督に「三振してこい」って怒られてブチギレるシーン。アドリブで虎之介が亮平さんに「お前かかってこいや」みたいなこと言ったら、ガチの感じで「おう行ってやるよこっち来いや」って言われて、その時に限って周りが誰も止めないから怖くて1人で逃げた話。虎之介の焦り顔想像できて15分くらい笑った。
・撮影中の差し入れを食べすぎて、最終回にかけて太っていった楡こと俊平。星葉戦でほんとはツーベースヒットにしたかった場面で、身体が重すぎて肉離れしそうで二塁まで走れなかった話。塚原さんから「なんか楡太ってない?」って聞かれて、壮くんは「そうですか?」って必死に誤魔化してたそうです。
・伊賀商戦最後の打席の配球は翔-壮磨のバッテリーで考えたそう。DVD & Blu-rayBOX発売記念イベントの放課後トークで川崎宗則さんからベタ褒めされてて私まで嬉しくなってしまった。一発どりで3球で三振したそうなのですが、本当に「持ってる」バッテリーです。
・何度も書いてしまってますが、下剋上球児の本題って「本当に価値があるのは甲子園に行ったことではなく、野球を一生懸命やったことで、野球を終えたその先を生きる力を得たこと」だと思ってて、同時に鈴木亮平さんがおっしゃっていた言葉に全てが詰まってると思います。「球児役の俳優さんたちが役者を続けるにしろ、違う道に進むにしろ、『下剋上球児』にすべてをかけたこの期間は‘青春’だったと、この作品があったから仕事が頑張れる、と心に残っていたらいいなと。」つまり下剋上球児の本当の真価はこれからわかるということ。この作品に出ていた球児役の役者さんたちが俳優として大きく羽ばたいたり、もし俳優を続けずとも自分の夢を見つけて幸せに生きていく、そうなることが、『下剋上球児という作品にどういう意味があったのか』を教えてくれるだろう。この作品に携わってくれたすべての方への感謝と、改めて球児役の俳優さんたちの今後の幸せな人生を願っている。
ここからは余談です
書きたいことをすべて書いていたら1万2千字を超えてしまい、自分でもあまりの熱量に引いています。私は普段あまり日本のドラマを見ないのですが(韓国ドラマをよく見ます)、もともと野球が好きで、高校野球のドラマをやるということで下剋上球児を見始めました。1話目からドはまりしてしまい、毎週リアタイするのはもちろん、球児たちのインスタライブにも張り付いて裏話を聞いてはメモするような日々。MBSのポップアップストアや心斎橋パルコのTBS SHOPにも足を運びました。
下剋上球児は間違いなく私の人生ドラマですが、もし野球が好きじゃなければこのドラマに出会うこともなかった、小林虎之介に出会うこともなかったと考えると、人生って何があるかわからないなと思います。いや、そもそも野球が好きじゃなければ下剋上球児にこんなにはまっていなかったのか、、?
何はともあれ、運命の出会いは思いがけないものですね。これからも、運命の出会いを果たしたときは、この熱量で愛していきたいと思います。
おしまい(2024/1/23)
最後の余談。越山高校卒業できました。
下剋上球児を終えて7ヶ月、下剋上球児役の俳優さんたちの活躍が本当に目覚ましくて嬉しいです。個人的にはねむしょうのDeNAの解説がめちゃくちゃアガりました。わたしはというと、毎日阪神タイガースの試合に一喜一憂しており、なかなかドラマを見られていない日々。でも最後に必ずこのnoteをかきあげるんだ!と奮起して、高校野球が一番アツいこの時期に、書き上げました。やっぱり高校野球って尊くて、彼らの姿にエネルギーをもらい、負けてられないなと仕事に励む日々です。きっと数年後、ふと下剋上球児を見返して、なんだか昔の友達に再会したような懐かしくて少し寂しい気持ちになって、そしてまた明日から頑張ろうって気持ちになるんだろうな。もしまだ下剋上球児に出会えていなく、これから下剋上球児に出会った人たちが下剋上球児に心を震わされたのち、偶然このnoteを読んで、「わかる〜この作品によかったわ〜」ってなってくれたらすごくうれしいなあと思います。ここまで読んでくださったみなさんの幸せを心から祈っています。
越山高校卒業(2024/7/20)