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ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵:2 /千葉市美術館

承前

3.ロシアのジャポニスム

 イワン・ビリービンという、ロシアの絵本作家をご存じだろうか。
 日本でも根強い人気があって、あの宮崎駿さんも影響を受けたと公言している。

 ビリービンの描いた『サルタン王物語』の挿絵の一図は、「浪裏」こと北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》を明らかに意識したもの。こういった波の描写は、北斎以前には存在しなかった。ジャポニスムの波はロシアにも及んでいたのである。
 フランスを中心に語られがちなジャポニスムだが、こういったロシア圏での受容にスポットを当てた点は、本展をとりわけ特徴的なものにしている。

     *

 総じていえば、本展はきわめて〝硬派〟なジャポニスム展であった。
 ジャポニスム側の作例には油彩がほぼなく、モネやゴッホといった有名作家の作品も含まれていない(ゴーギャンなどあるにはあるが、版画)。
 この手の展示では、有名どころの油彩をポスターにバンと出してドンと集客するのが定番と思われるが、本展ではそういった〝軟派〟な手段をとらない。版画や印刷物、それにパネルによって、ジャポニスム側の様相を描こうとしている。なんとも〝硬派〟。
 また、浮世絵が出品作品の過半を占めており、展示室では同一のフォーマットが連綿と続いていく。キャプションの視点は、終始「日本―ジャポニスム」の対応関係に固定される。淡々と論説。こういったあたりも、やはり〝硬派〟だ。
 わたしはさながら「ジャポニスム修行僧」と化し、地道な鑑賞に励んだのであった。

 ――最後の部屋にあった初見の画家の作品に、魅かれるものがあった。
 画家の名前はバーサ・ラム(1869~1954)。
 アメリカ人の女性で、新婚旅行で来日して浮世絵版画の技術を学び、広重ふうの風景版画を描いた……という、非常にとんがった経歴の持ち主で、ドラマの原作にでもできそうなものだが、わたしが魅かれたのは、純粋に彼女の絵。まろみを帯びたほんわかとした画風で、なかなかによいのだ。
 千葉市美のページには図版が載っていないので、外部サイトのリンクを張るとしたい。

 このバーサ・ラムと、常設展示室で特集されていた井上有一の抽象書、川端実、白髪一雄、元永定正らの抽象絵画が、わたしを「ジャポニスム修行」の状態からまったく異なる方角へと揺さぶって、現実に引き戻してくれたように思う。
 「きょうはコレ!」と決め打ちするのもいいけれど、あえて異なる分野のものを混ぜ込んだ鑑賞は、感性のチューニングができたような気がして、帰り際の気分がことさらによい。千葉市美に常設展示ができてほんとうによかったなあとしみじみしながら、駅までぶらぶらと引き返した。

 ※カバー写真の「シャ・ノワール」は、尾形乾山の墓近くにいた子。最近、黒猫に前を横切られることがやけに多い


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