1894 Visions ルドン、ロートレック展:2 /三菱一号館美術館
(承前)
ルドン《グラン・ブーケ》を観る。
暗闇にぼわんと浮き上がるさまは、カンバスの後ろから光でもあてているのかと錯覚してしまうほど。
ルドン作品のハイライトは、この《グラン・ブーケ》を控えた小部屋に設定されていた。
岐阜県美所蔵のパステル画《神秘的な対話》は、古代風の衣装をまとった女性のまわりを花が取り巻く。多くの人がイメージするルドン。これが観たかった……
いちばんに目に入ってくるのは、空のブルー。隣接するグレーやピンクの控えめな調子と対比が際立つが、画面上ではけんかすることなく、つつましやか。このような寒色と暖色の幸せな同居は、他の作品でも看取された。
《花の枠組みの中の左向きの横顔》はデッサンで、右側に女性の横顔、残りのスペースに花が散らされている。《神秘的な対話》と同種の絵画世界といってよい。
《神秘的な対話》のような靄がかったような幻想性がルドンの大きな魅力だが、デッサンを観察してみると、輪郭線に確固たる意志が見いだされ、驚かされた。筆圧が弱くへろっと逸れた箇所もあるのに、ルドンの生(なま)の線には強さがあるのだった。
こうして、ルドンの人物像に幻惑されながら、どうしてか高山辰雄の気配を背後に感じていた。高山もまた、霧のむこうにいるような、神秘的で精神性の高い人物や風景を描いた。
高山に関しては、世田谷美術館の大回顧展を逃してしまった苦い経験がいまだに引っかかっている。
このあいだKDDIの展示室で見た初期作というのは、よかった。ところどころ雑草の生えた凸凹の露頭をアップにして描いた、ただそれだけの絵であった。色遣いもひたすらに暗い。戦時中という時代性も表していたのかもしれない。
高山の邸宅が遺族の手でときおり公開されているらしいので、機会をつくって足を運んでみたい……そこまで考えたところで、夢想は途切れた。ルドンを目の前にして、高山に浮気してしまった。
なお、高山と1894年とは、さすがになんらの関係もない。