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最後の浮世絵師 月岡芳年展:6 /八王子市夢美術館
(承前)
美人画の揃い物としてはもうひとつ《東京自慢十二ケ月》が出ていた。
東京の街、その象徴的な名所風景をバックに、女性像を描くシリーズ。12か月分の各図では、時節を視覚的にあらわす風物詩が強調され、女性たちの個性や着衣はその季節「らしさ」、あるいはその街「らしさ」を感じさせるように描き分けられている。「名所(場所)」「季節(時間)」「美人(人の営み)」がリンクされた、主題のつかみやすいシリーズである。
各図のモチーフを並べると、以下のとおり。
一月 初卯妙義詣(亀戸天神)
二月 梅やしき(亀戸梅屋敷)
三月 吉原の桜
四月 亀戸の藤(亀戸天神)
五月 堀切の菖蒲
六月 入谷の朝顔
七月 廓の燈籠(吉原遊郭)
八月 廿六夜(品川遊郭)
九月 千駄木の菊
十月 滝ノ川の紅葉
十一月 酉のまち(浅草・鷲神社)
十二月 浅草市
亀戸が3度、浅草と隣接する吉原がそれぞれ2度ずつ登場するなど偏りのあるチョイスで、構成の美しさは感じられないが、各画面の密度は高く、華やかな図となっている。
1点選ぶとすれば、やっぱりこれ。《六月 入谷の朝顔 新ばし福助》だろう。
「恐れ入谷の」鬼子母神で、いまも毎年七夕の頃に催される朝顔市。
あまた並ぶ朝顔の鉢から品定めをして、「これにしようかしら」と振り返る芸者「福助」。髪はやや乱れ、浴衣の袖は腕まくり、襟元は少しはだけている。じんわりと暑さを感じはじめる頃合いの空気感が、こうして描写されているのだ。
女性の表情や朝顔のとりどりの花に目が行ってしまうが、彼女の着る浴衣の柄がなんともよい。
目を凝らしてご覧いただきたい。「猫づくし」になっているのだ……
猫で浮世絵といえば歌川国芳であるが、芳年はその愛弟子で、やはり猫好きだった。こうして猫を着物の文様に紛れこませた例が他にもあるし、前回ご紹介した《うるささう(うるさそう)》のような作も残している。
浴衣の文様が猫であると気づいたら最後、それ以降、この絵の印象は猫に支配されてしまう。もしかしたらこの文様は、「新ばし福助」という女性の猫好きな一面を物語っているのかもしれないけれど……画づくりとしてみた場合、着物の文様がいちばんに目に入ってくるのは、とてもよいこととは思えない。
それでもなお、愛する猫をなんとかして絵のなかに忍びこませたいという芳年の執念は見上げたものだ。遊び心があっていいじゃないか。
——猫の話題ということで、つい脱線してしまった。本題はまた次回……(つづく)