物、ものを呼ぶ ―伴大納言絵巻から若冲へ:1 /出光美術館
長期休館前の一大シリーズ企画「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」の第4弾、トリを飾る展覧会である。今週末の10月20日まで開催中。
先にお伝えしておきたいのは「お見逃しなく……」。ただ、それだけ。
こういった表現自体が陳腐化しているのは承知の上で、それでも読んで字のごとく、見逃すわけにはいかない。こんな記事は読み飛ばして、いますぐ丸の内へ走ってほしい。そんな展覧会だ。
実態としては、館蔵の日本絵画、それに古筆の名品展ということになる。
ふたつの国宝《伴大納言絵巻》《古筆手鑑「見努世友(みぬよのとも)」》が登場、さらに、近年新たに購入されたプライス・コレクション旧蔵の江戸絵画からも優作が選抜されている。
これら名品・珍品を、どう並べるか。
最初の一手は、鶴を描いた2点。
仙厓《双鶴画賛》は、出光佐三による生涯最後の蒐集品という。ちなみに最初の1点は《指月布袋画賛》(同シリーズの第1弾展にて拝見)であった。最初も最後も、仙厓さんだったのだ。
賛には「鶴ハ千年」「亀ハ万年」に続いて「我れハ天年」とある。高望みせず、天から与えられた運命にただ従うのみ……こんな賛が添えられた作品が生涯最後の1点だったとは、なんともドラマティックではないか。
その隣には伊藤若冲《群鶴図》。旧プライス・コレクションである。
佐三が蒐めた中に、若冲の作品はなかった。創設者のあずかり知らない、出光美術館の最新の収蔵品にして、仙厓と同じ鶴を描いた絵を対置させる演出が心にくい。シリーズ名の「ここから、さきへ」を体現する2点といえよう。
これを呼び水として、江戸絵画の名品が並ぶ。鈴木其一《蔬菜群虫図》、酒井抱一《風神雷神図屏風》、伊藤若冲《鳥獣花木図屏風》、抱一《十二カ月花鳥図》。
このうち抱一《十二カ月花鳥図》は、12幅組の軸装と、押絵貼の屏風装の2バージョンを展示。
同種の作例は6セットが伝存、12か月の各図には共通する部分もあれば、モチーフや構図に違いがみられる場合もある。
展示室では掛軸と屏風が真正面に向き合う配置がとられており、ちらちらと後方を振り返りながら、モチーフの差異を見くらべるのが楽しかった。
前者はプライス・コレクション旧蔵品。このような展示上の活用方法は、きっと購入検討・作品選定の段階から温められてきたに違いない。
パネルのコラムには「若冲ー抱一ー其一」の人的なつながり、作品上の影響関係を洗いだすことが今後の研究課題と書かれていた。そのための、上記のようなチョイスでもあったのだ。
休館中にご研究が深まることを願うとともに、展覧会として成果発表される機会を心待ちにしている。
隅っこの第2展示室では、第2章「きらめく自然」が展開。まさしく、至高のひと部屋となっていた。
六曲一双に四季を盛り込んだ《四季花木図屏風》(室町時代・16世紀 重文)は、普遍的な和の情景のなかに、悠久の時の流れを感じさせる。立てまわせば、なにか大いなるものにいだかれるような、やまと絵屏風の名品である。
真言密教の祖師たちの逸話を表す《真言八祖行状図》(平安時代・保延2年〈1136〉 重文)は、もともと八祖像の裏側に描かれていた障子絵(現在は軸装)。8人めの空海を除いて、八祖はみな現在のインドや中国の人たちだが、描くのは現地を知らない日本の絵師ゆえ、日本の自然が描かれる。廃仏毀釈により消滅した奈良の巨刹・内山永久寺旧蔵。
これら古代・中世の自然風景に続いて、出光美術館が誇る江戸の文人画のマスターピースたちが見参。
この部屋に展示されていた9点、すべて重文。たいへんな豪華競演だ。(つづく)
※「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」第1弾のレビュー記事。
※同・第2弾のレビュー記事。