虫展:3 /市立伊丹ミュージアム
(承前)
第5章:虫を聴く
虫の声に風情を覚え、積極的に聴こうとする行為が、日本では古来よりおこなわれてきた。
2階から1階へフロアを移しての本章では、すぐれた声の虫を籠に入れて献上する「虫撰(むしえらみ)」、野に出て虫の声を聴く江戸のレジャー「虫聞(むしきき)」などを紹介。
籠にスズムシなどを入れて売り歩く商売すら、江戸では成り立った。スズムシの養殖は下級武士にとって格好の内職になったといい、そのマニュアル本『鈴虫之作様』(九州大学中央図書館)を興味深く拝見。
さらに、虫の声を歌にたとえ、和歌の名手が1対1で競い合う「歌合(うたあわせ)」になぞらえた「虫合(むしあわせ)」の作例が数点。虫そのものが描かれることもあれば、頭は虫・身体は人間というケースも。虫が装束を着て、おすまししているさまは滑稽であった。
第6章:病と虫
フロアはまたまた移り変わり、長い階段を降りて地階へ。
これまでに登場したのは実在する虫ばかりだったが、本章にはおそらく架空の……東洋医学ではあくまで実在すると考えられてきた「虫」たち——いわゆる「腹の虫」にスポットを当てる。
鍼灸の専門書『針聞書(はりききがき)』(室町時代・永禄11年〈1568〉 九州国立博物館)には、63種類もの「腹の虫」を集めた、挿絵つきのページがある。これがおもしろい。
珍妙この上ない虫たちのイラストは、ゆるゆるで中毒性満点。冊子状のため見開き分しか拝見できなかったものの、ポ◯モン図鑑を彷彿させるパネルを見ながら、吹き出しっぱなしだった。
※本展のメインビジュアルは『針聞書』から「蟯虫(ぎょうちゅう)」。
『針聞書』は所蔵先の九博で猛プッシュされているらしく、本展でも九博のグッズ展開をそのまま移植、原品のすぐ近くで販売していた。絵はがきやクリアファイルはもちろん、大小のぬいぐるみに瓶詰めフィギュアまで。迷った挙句、絵はがきを2枚だけ購入した。
※こちらのページに、虫たちの紹介が載っている。
第7章:畏れと虫
ショッピングがすんで、さて帰るか……と思いきや、背後にもう1室あり、展示が続いていた。どんだけ広いんだ、本展。
藤原秀郷こと俵藤太の大ムカデ退治、源頼光の土蜘蛛退治のように、虫はしばしば畏怖の対象ともなった。この章ではそういった逸話を絵画化した絵巻や浮世絵を展示するとともに、「蠱毒(こどく)」についても言及する。
蠱毒とは、毒虫を壺に詰めて人を呪詛し、死に至らしめることをもくろむ民間信仰の一種。そのために使われた?ようにもみえる、昆虫がぎっしり入ったミステリアスな江戸前期の壺(九州大学農学部昆虫学教室)が、本展の最後を飾った。
この壺は、じっさいには蠱毒の壺ではなく、痺れ薬の原材料となる昆虫を蓄えた壺だったそうだが、最後まで来館者を飽きさせない力の入れようには脱帽である。
※この壺に関する記事
——自室で虫の声を聴きながら、この記事を書いている。千葉にいた頃は、虫の声など気にもしなかったが、こうして奈良で、田んぼや小川のすぐ近くに居を構えると、虫について意識する機会はなにかと増えるものだ。
そういう意味で、「虫展」はタイムリーであった。本展を思い出しながら、秋の夜長を愉しみたい。