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藤井斉成会有鄰館の中国美術コレクション 京都・岡崎

 京都国立近代美術館のお濠を挟んで向かい側にある、中国風の楼閣を頂いた洋館の存在をご存じだろうか。

右が京近美、左が……
この建物
※中華料理店ではありません

 なにやら、ものものしい雰囲気。
 一度その存在に気がついたら、気になってしかたがないエキゾチックなこの建物、その名を「藤井斉成会有鄰館」という。
 大正15年(1916)開館。私立の美術館としては、東京の大倉集古館に次いで日本で2番めに古い歴史をもち、現在では入手することがむずかしい中国文物の逸品が所狭しと陳列されている。国宝1件、重要文化財9件を所蔵。
 京近美、京都市京セラ美術館、細見美術館などが近く、アクセスこそわるくないものの、開館時間が非常にかぎられており、わたしもこれまで訪ねたことがなかった。

1、8月を除く毎月第1、第3日曜のみ開館
11:00~15:00 ※入館は14:30まで

京都観光Navi」より

 この条件がそろい、かつ京近美で黒田辰秋展が観られる2月の第3日曜に、有鄰館の扉を叩いた。

 入り口は、上の写真にみえる扉ではなかった。もとはそうだったのだろうが、現在は洋館の裏手側が入り口になっている。

扉の掲示……
裏手側の真の入り口。左が第一館、右側が第二館。周囲の豪邸は、表札がみな藤井さんだ

 表通りから見えた洋館は「第一館」(大正15年  京都市指定登録有形文化財)、裏手にはもうひとつの洋館「第二館」(大正時代  国登録有形文化財)が立っている。
 第一館は、アール・ヌーヴォーやセセッションを日本へ紹介したことでも知られる「関西建築界の父」武田五一の設計。流麗な装飾が随所にみられ、建築を観るだけでも価値がある。テイストとしては和洋中の折衷、和が気持ち弱めとでもいえようか。
 屋上の八角堂は中国現地からまるごと移築してきたもので、オレンジの屋根瓦は乾隆年製の黄釉瓦3万6000枚を葺いているという。昔のお金持ちは、やることのスケールが違う……

 ※第一館の建築については、以下のサイトに写真が豊富。

 そんな第一館にしつらえられていたのは、中国風のインテリアであり、中国からもたらされた名品珍品の数々。
 室内は折上格天井、展示ケースは開館当時から使われていそうな木製の古めかしい代物である。キャプションの用紙も古い。橙色の枠線に、同じ文字色で「號 㐧」などと刷られている。戦前の用紙だ……
 まるで時が止まったかのような雰囲気で、鑑賞に入る前からすでに興奮。鼻血ものである。

 さあ、拝見。
 1階の展示室には古代の石仏、宋代の木彫仏、法帖、画像石や塼(せん)などが陳列されていた。
 六朝時代のみごとな石造狻猊(さんげい≒獅子)1対に迎えられ、そのあいだを抜けると、突き当たりには3メートルはあろうかという《石造金剛力士立像》(中国・隋時代  重文)。天龍山石窟・第8洞の入り口に立っていたという雄々しい像で、仏頭でなく、全身像。現地にあった頃の写真も付されていた。
 他にも雲崗第19窟の菩薩頭部など古代の石仏が充実していたほか、寺院を飾った元〜明時代の壁画(やはり高さ3メートルほど)がそのまま剥がされて展示されていたり、清朝の初代皇帝・ヌルハチが用いた螺鈿寝台が置かれていたり。
 寝台は、ただのベッドではない。四畳半ほどの広さの大きな「箱」で、内外すべての面にくまなく螺鈿の文様が入っている。冬用のため、箱状なのだとか……

 2階の展示室では、古代の青銅器を中心に、古鏡、古銭、玉器、文房具、印材といった、比較的こまごまとした遺物を拝見。甲骨文字が刻まれた殷時代の卜骨も。教科書で見た、あれである。
 同じく、教科書で見覚えのある珍品が《夾帯衣裳》。白い着物の表面に、文字がびっしり70万字。四書五経やその注釈書の一節で、科挙の受験生がカンニングのために用いたもの。
 《流金龍鈕乾隆帝印》は、乾隆帝が使用した印(御璽)。印面は拳大ほどもある。さすがは皇帝。すぐ隣には康煕帝の印も鎮座していた。

 名君・乾隆帝に関する品々は、3階にも展示されていた。
 乾隆帝が使ったという寝台。こちらは夏用とのことで、箱状でなく通常のベッドと同様の形状。サイズはシングルベッドよりもやや小さいくらい。
 乾隆帝所用の龍袍(りゅうほう、ロンパオ)。真珠やビーズの玉がこれでもかと縫いつけられた、公の場で着用された官服である。
 こういった歴代皇帝ゆかりの品々のほかに、3階では明清をはじめとする書画、唐三彩などの明器、明清の磁器を展示。黄庭堅《李白憶旧遊詩巻》(北宋時代)の闊達ぶりに感嘆。壁面の掛軸はすべて露出展示で、ありがたかった。
 
 ——以上、気になったものだけ、駆け足で触れてみた。
 総じて「なぜこれが日本に?」といったものばかりで、「京都のプチ故宮」とでも形容したくなる。
 たとえば陶磁器や書画、青銅器など、特定の分野に特化した中国美術のコレクションならば他にも国内にはあるけれど、分野を超え、美術品の枠すら超えてまんべんなく蒐めに蒐めた中国文物のコレクションは、東博を除けばここだけではないだろうか。
 コレクターの息吹、時代の空気が、ここではタイムカプセルのごとく、そのまま封じ込められている。濃密な空間を、みなさまもぜひ。

 

 ※中国人観光客の姿が多くみられ、展示室では中国語が飛び交っていた。
 ※第2館では日本の雑多なものを展示。

 


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