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作品の帰る場所:2 「仲町の家」出張展示 /足立区立郷土博物館

承前

 会場の「仲町の家」は、千住宿のパイオニア・石出家の別邸であった日本家屋。この石出家こそ「千住の琳派」のパトロンであり、村越父子もこの近所で暮らしていたのだという。そんな石出家別邸の床の間に、足立区立郷土博物館所蔵・石出家寄贈の村越向栄《秋草図》を掛けてみようじゃないか、というのが企画の主旨。いわゆる里帰り展だ。
 仲町の家は戦前の建物で、制作年代と開きがあるのはたしか。それでも、絵師とパトロンの関係のもとに制作され、それがパトロンの家に子々孫々伝えられた歴史を踏まえて、どのような環境で掛けられ、楽しまれたのかを空間として肌感覚で味わえるのはこの上ない喜びだ。
 父・其栄は、号からわかるように鈴木其一の門人。子・向栄は其一の孫弟子にあたるが、今回展示される《秋草図》は、其一というよりはその前の抱一《十二ケ月花鳥図》あたりの体裁を踏まえているとおぼしい。他の季節を描いた同じ体裁の軸もあったのだろうか。
 絵だけを見れば、筆技から使っている岩絵具の質まで、抱一から数十段もランクは落ちてしまう。それでも、こうしてあるべきところに収まっている姿を見ると、何十足も下駄を履かせたくなるのが人情というもの。
 「仲町の家」は家屋のみならずお庭もきれいに残されており、ことさらにお軸が映える。たった一幅の展示会でこの満足度。なかなかないなと思った。

 このように、展示された場所と作品との “縁(えにし)” を感じとりながら鑑賞をしたことは、以前にも何度かあった。小原古邨ブームの火付け役となった茅ヶ崎市美術館の展覧会「小原古邨展 花と鳥のエデン」(2018年)がそうだった。
 この展覧会は実業家・原安三郎の旧蔵品を展示したものだったが、会場の茅ヶ崎市美術館は、まさにその原の別荘跡地に立っているのだ。惜しむらくは、古邨の作品がこの場所に保管されていたわけではないらしいという点だが、それにしたって、どこか縁の連鎖のようなものを感じてしまう。
 このときの古邨展が館はじまって以来の行列のできる展覧会となったのも、原安三郎という人物が没後もなお発した強力な “磁力” のなせるわざだったのかもしれない。
 美術作品には、そういった可視化できぬ “磁力” “縁” の力を感じさせることがままある。そこが “作品の帰る場所” だからだろうか。


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