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ひらり、薬師寺:1

 唐招提寺とともに、西ノ京地区を代表する古刹・薬師寺。西ノ京駅すぐの薬師寺から、北側に少し離れた唐招提寺へ、ふたつ併せて巡る参拝者が多い。
 前回は、唐招提寺まで歩いて行った話であった。今回はまた別の日に、薬師寺までひらり、自転車を飛ばして行った話をしたい。

 この日は自転車にまたがって……郵便局にやってきた。
 毎度、生活感だだもれで恐縮だが、ひととおりの手続きを終えて、なお日没まで時間がある、しかもそこが西ノ京となれば、「一杯」ならぬ「一拝」としゃれこみたくなるのが人情(?)であろう。というわけで、薬師寺。
 薬師寺には、白鳳伽藍と玄奘三蔵院伽藍がある。西ノ京駅はこの中間に位置しており、国宝の東塔を含む白鳳伽藍には、電車利用であればその北側から入ることになるけれど、正面はあくまで、駅から遠い伽藍の南側。北側から入ると、裏手から回る形になってしまう。このあたり、近鉄が駅を造るときに、どうにかならなかったのかなとは思う。
 さらに、白鳳伽藍の南側外には薬師寺の鎮守・休ヶ丘八幡宮があり、まずは八幡神を拝し、それから薬師寺へ……という順序が正しいとの伝があったりもする。
 この日も、南側から参拝。

《休ヶ丘八幡宮本殿》
(桃山時代・慶長8年〈1603〉 重文)

 ※ちなみに、わたしが初めて薬師寺を訪れたときは、斑鳩の法隆寺前から薬師寺・唐招提寺、JR奈良・近鉄奈良を結ぶバス路線を利用。斑鳩めぐりのあと法起寺からバスに乗って薬師寺下車、白鳳伽藍の南側から入場したのであった。このルート、おすすめです。

白鳳伽藍の南側入り口。東塔が見える。駐輪場より撮影

 薬師寺といえば、まずはツインタワー。向かい合って立つ、東塔(奈良時代  国宝)と西塔(1981年再建)である。下の2枚は、ほぼ同じ地点から180度回転して撮影した。

東塔
西塔


 東塔。かっこよすぎて、しびれる……

 フェノロサの著名な評「凍れる音楽」はまさしく言い得て妙、五線譜や律動を思わせる造形美。
 ひとえに、裳階(もこし)による視覚的効果であろう。6つある屋根のうち下から1、3、5番めの屋根は飾りで、じっさいは三重塔になっている。

近づくと、傷んだ部材が目に入ってくる。大修理の苦心ぶりは先日の「新プロジェクトX」でも取り上げられた

 幼少時、薬師寺東塔の精巧なプラモデルが身近にあった。父が若い頃に制作した全高40センチほどの代物で、その思い出にも重なる。
 どこか、男の子心をくすぐってやまない造形ともいえよう。

さらに近づいて、見上げる
さらに。もはや別のなにかに見える
金堂の裏手より


 西塔は1528年、兵火により焼失。1981年に、綿密な調査にもとづき再建された。
 彩色は創建当初を再現しており、東塔もかつてはこのような姿をしていたという。

南側から、回廊越しに撮影


 じつは、東塔に関しては、わが家から望むことができたりする(ちっちゃいけれど)。西塔は、残念ながら角度的に見えない。
 東西の両塔を一望できるベストスポットといわれるのが、近鉄線の反対側・西側に少し離れた住宅街の中にある「勝間田池(かつまたのいけ)」。万葉集にも歌われた古い池で、この池越しに薬師寺を撮った入江泰吉の写真がよく知られている。
 自転車の助けを借りて、勝間田池を初訪問してみた。地図で見る以上に大きな溜め池で、進んでいくうちに東西の塔が見えてきて、あの写真と同じようなアングルになっていくさまには感激。

勝間田池が眼前に広がる。両塔はまだ見えない。左にはシラサギが
これ! このアングル。若草山をバックにしているが、その手前・東塔の奥では、白いなにかが伸びている。興福寺五重塔・解体修理のクレーンである
大きいこと、薬師寺がとてもよく見えることを除けば、ふつうの溜め池ではある。歩いていくには微妙な遠さで、途中に見どころもない。アクセスにはやはり自転車が欲しい


 ——薬師寺といえば、第一に東西の両塔を挙げたいけれど、そればかりではないどころか、それだけでは片手落ちと断言できるのが、この古刹のすごいところである。次回に続く。(つづく



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