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倉俣史朗のデザイン ―記憶のなかの小宇宙:3/世田谷美術館

承前

 3脚の《ミス・ブランチ》を取り囲むように、色つきのアクリルを用いた作品が並んでいた。

 倉俣といえば、この種の作を思い浮かべる人も多いと思う。蛍光に近い色合いでポップな印象もあるが、ふしぎと、どぎつさはない。そっと、ただそこにあり、周囲をぽっと明るくする。

 上の小瓶の数々は、イッセイミヤケの香水瓶の試作品。倉俣は盟友・三宅一生のショップデザインを何度も手がけている。
 試作のまま倉俣は逝去してしまったが、2008年に「L’EAU D’ISSEY EDITION SHIRO KURAMATA」として2500点限定で製品化。現在もときおり市場に出てくる。
 家具と同じく、この瓶ひとつ置いてあるだけで、部屋がぽっと明るくなりそうだ。本展のなかで、2番めに欲しいなと思った作品。

 同じ部屋の壁面には、図面やイメージスケッチの額装が掛かっていた。そのうちの1点が、今回、いちばん欲しいと思ったイメージスケッチ《猫とHow High the Moon》(1980年代  クラマタデザイン事務所)である。

 この脱力感。猫の肢体の長大さ……たまらない。
 他のスケッチにも、猫は頻出していた。リラックスした猫の特徴を的確に捉えていて、間違いなくこの人も猫好き・猫飼いであろうと感じるのであった。
 猫ばかり、気にしてしまった。スケッチとして大事なのは、猫たちがその上で思い思いにくつろぐ、ソファ《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》(1976年)のほうである。

 工事現場でみかける板状の金属網が、ソファに。風とおしのよさ・金属の冷たさゆえ、夏場の猫たちが憩うには、たしかによいのかもしれない(爪を引っ掛けてしまわないか不安ではある)。
 イメージスケッチとのことだけれど、実景でもおかしくはなさそうだと思った。

 このスケッチに関しては、観た瞬間に好みと合致。どうしてもお持ち帰りしたい気持ちがふつふつと湧いてきた。
 会場は撮影不可。もしグッズ化されていなければ、ちょっとお高い図録を買い求めねばなるまい……うーむ。

 意を決してショップに向かうと、猫のスケッチは絵はがき、さらにはハンカチにもなっていた。気に入った作品がグッズ化されていると、うれしいものである(図録買わなくてごめんなさい)。

 ——順番が前後するけれど……
 会場には倉俣の「夢日記」、それに旧蔵の書籍・レコードといった、扱われる機会が少なかった資料もたくさん出ていた。
 これらは、会場のところどころで引用された倉俣の知的な文章とともに、制作の周辺・背後にある倉俣の人間像に触れるための手がかりとなっていた。

 世田谷美術館の展示空間と倉俣作品との相性はぴったりで、心地よい展示空間となっている。1月28日まで。

 ※会場のようすは、こちらの動画から。


最寄りの用賀駅へ、住民の方によく手入れされた通路を歩いて向かう。この道を含めて、世田谷美術館という感じがする



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