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京都のお正月 :1〜東山編

 新年初の上洛は、1月3日のことであった。
 お正月の話題なんて、世間ではもうとっくに賞味期限切れだろうけども……「1月中ならば、ギリギリ許される範囲内では」と都合よく解釈し、松の内の京都のようすを紹介させてもらうとしたい。

 

▪️祇園にまつわるエトセトラ

 まずは、祇園の八坂神社へ。

 私事ながら、ここ2年ほど祇園祭にご奉仕させていただいており、かならず新年のご挨拶に上がろうと決めていた。人出の多い元旦を避けて、この日に参上した次第。
 3日ともなると行列や混乱はみられず、無事に参拝を終えることができた。

 このあと、あちこち寄り道をしながら、八坂神社ゆかりのとある場所をめざした。

門前の鍵善良房が、お正月仕様に!  中でひと休みしたかったが、行列ができており断念
白川の流れ
祇園白川の街並み。あれっ?と思うほど、人影がみられなかった

 古美術商が軒を連ねる古門前・新門前界隈を歩き、図録の豊富な三条京阪のブックオフをひやかして、たどりついたのは……三条駅北東の大蓮寺。知らなければ通り過ぎてしまいそうな、小さなお寺である。

 大蓮寺は八坂神社の前身・祇園社とつながりが深く、明治の廃仏毀釈の際、祇園社境内の観慶寺にあった仏像群を一手に引き取っている。
 そのうち《十二神将立像》《夜叉神明王》が、1月1日から6日まで御開帳されていたのだ。慶派の薬師如来(重文)こそいなかったが、平安仏の十一面観音を堂内の奥のほうに確認。
 京都の中心部ですら巻き起こった、神仏分離。大蓮寺の仏像群は、その生き証人といえよう(下のリンクに写真あり)。

 大蓮寺は、平安神宮からも程近い。混雑を覚悟のうえ、ついでにちょっと寄り道。

たいへんな人出……
大河ドラマ『光る君へ』のロケ地ともなった


▪️幸福な作家のための記念館

 京セラ美術館の裏手からバスに乗り込み、銀閣寺の門前まで。
 次なる目的地は「白沙村荘(はくさそんそう)」。日本画家・橋本関雪の邸宅・画室であり、石造美術の名品が集められた庭園によって、つとに知られている。
 このなかにある通常非公開の持仏堂が、12月31日から1月3日まで期間限定で公開されていたのだ。
 持仏堂の秘仏は未見、白沙村荘は展示室が新しくなってからやはり未見ということもあり、訪ねてみた。

白沙村荘の入り口。この道をまっすぐ行くと、銀閣寺に至る。背後の山は、五山送り火・大文字焼きの大文字山
みごとなお正月飾り。年末年始ぶっ通しで開館していた白沙村荘は、いまも橋本家(による財団)が守りつづけている。千葉のDIC川村記念美術館が関雪の大作を売却した際、真っ先に手を挙げ購入。関雪は、幸せな作家だと思う
古美術、とりわけ石造物や仏像、陶俑のコレクターとして知られる関雪。受付すぐにある高さ5メートルの国東塔(鎌倉時代)は現存最大で、屈指の名品(なぜこれが未指定なんだろう)
白沙村荘のランドスケープ・デザインもまた、関雪が残した作品のひとつといえよう
鬼太郎の家のような待合掛(左)と、石橋を渡った先の茶席
大作を描くには、大きなアトリエが必要。「存古楼」は、関雪自身の手による設計
こちらが持仏堂。やはり設計は関雪

 持仏堂で拝観したのは《地蔵菩薩立像》(鎌倉時代  重文)。きらびやかな装飾がよく残った秀麗な作である。

 大和・秋篠寺伝来。同寺の古仏といえば、《伝伎芸天立像》をはじめとして、「頭は天平、身体は鎌倉」というものが多い。大火に見舞われたからであるが、復興した鎌倉期の補作もなかなかのものだなとわたしなどは感ずる。
 小ぶりでかわいらしいこのお地蔵さんは、頭から足の先まですべて鎌倉の制作で、やはりよい。精作、美作といえよう。
 両脇の《聖徳太子孝養像》(鎌倉時代)、《迦楼羅王像》(鎌倉時代)とともに拝見。

持仏堂の屋根の形状は、大文字山の稜線をイメージしているに違いない

 白沙村荘の庭園には、国東塔のほかにも石仏や石塔、石燈籠、礎石の逸品が、そこかしこに散らされている。定番の李朝のヒツジちゃんや、秀吉が北野大茶湯で用いた井戸の石枠まで。

持仏堂前の石塔も大したもの。錦織神社(大阪府富田林市)伝来(平安時代)。右端には井戸枠が少しだけみえる
手水鉢には、但馬国分寺の礎石を転用
展示棟の真ん前の、室町くらいの石仏。奥行きがかなりある。この巨石を、どこからか運んできたのだ……


 真新しい展示棟の1階では「歳寒三友〜 林逋と魏野、龔賢」を拝見。関雪の清雅な作とともに、そのベースとなっている石濤ら明清の書画も。
 2階では関雪の画稿を展示。昨年、サントリー美術館で観た大阪市立美術館所蔵《唐犬図》(1936年)の着彩大下図、DIC川村記念美術館旧蔵で白沙村荘が現所蔵の屏風《琵琶行》(1923年)の未完成稿など。《琵琶行》は、本画と画稿が同じ館にそろったことになり、喜ばしい。
 別棟では「伝来古陶器と茶の道具」と題し、煎茶のうつわを陳列。清水六兵衛など京焼の名工のうつわに関雪が絵付けをしたコラボ作が目立つなか、古美術もいくつか。今回が初公開という《天龍寺青磁香爐》(中国・元〜明時代)は、ご近所・慈照寺からもたらされたとのこと。

 以前の展示室は古びて狭小であったが、こうも立派な建物ができたとは。橋本関雪はやっぱり、幸せな作家といえよう。
 

「哲学の道」の終着点あたりを、慈照寺参道入り口から撮影。インバウンドの観光客でにぎわっていた

 ——白沙村荘をあとにして、なおもう少し時間がある。久しぶりに銀閣寺でもとよぎったが、東求堂同仁斎が公開されているタイミングに来たいよなぁとも。
 そういえば、1月3日に開いていて、ちょうど観たい展示が適度な規模で開催されている館が、嵐山にあったのだった。
 ちと遠いが、めざしてみようか……
 (つづく)

 

白沙村荘・展示棟のお正月飾り

 


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