ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵:1 /千葉市美術館
ジャポニスムの研究は非常に盛んで、印象派や浮世絵など知名度の高い作品を起用しやすいことも手伝ってか、何年かに一度はかならず大きな展覧会が催されている。
現在開催中の千葉市美術館のジャポニスム展の特徴は、次の3点に集約されると思われた。
1.浮世絵からみたジャポニスム受容
どちらかといえば西洋美術史側から語られることの多かったジャポニスム。本展では日本美術史側、とくに浮世絵に絞ってその考察を試みている。
細部までは把握していないけども、従来のジャポニスム研究では取り上げられなかったマニアックな作品や、これまでになかった新しい見方が、ふんだんに盛りこまれていたようだ。
従来のジャポニスム展では、モチーフや構図の類似性に説得力が乏しい場面が、じつのところ多かった。「言われてみると、なんとなく似ているかな」といったくらいに。
おそらく、研究段階では十分に検討され、距離が詰められていたものの、展示ではその中間の部分が飛ばされてしまったために、そういった印象をいだかせたのだろう。引き合いに出されるのが有名な作品の数点のみにかぎられた、ということも。
本展では、モチーフや構図といった比較の視点ごとに章を立て、全体で220点を超える大ボリュームの作例を用いて、これでもかというくらいに例示がなされる。ひとつの視点に対して、提示される作品の点数が多い。
ジャポニスムに最も色濃く影響を及ぼした広重の《名所江戸百景》や北斎の作が数多く登場するのは従来と同様だが、それ以外の作品も多数。「もう、他人の空似とは言わせない」という気概を感じた。
2.じつは「里帰り展」
千葉市美術館では海外の美術館に所蔵される日本美術の調査を継続的におこなっており、「●●美術館日本美術名品展」といった名称のいわゆる「里帰り展」を、ほぼ毎年開催している。ふだんは観られない作品に出合えるので、里帰り展は楽しい。
本展は「●●美術館展」という形こそとっていないものの、蓋を開けてみると、メトロポリタン美術館やホノルル美術館からあまたの浮世絵の名品が来日していたのだった。どれも摺りよし、コンディションよし。これに、千葉市美のすぐれた館蔵品が加わる。すきな《名所江戸百景》や春信の優品が多々拝見できたのもうれしかった。
ジャポニスムの作品は、ロシアのプーシキン美術館とアメリカのジマーリ美術館から借用。こちらは西洋で生まれた作品だが、源流をたどれば日本に行き着く。これもある種の「里帰り」といえよう。(つづく)
※パリにあったキャバレー「シャ・ノワール」には、ジャポニスムの信奉者が集った。本展にも作品が出ていたアンリ・リヴィエールもそのひとり。
「シャ・ノワール」はフランス語で「黒猫」。本日のカバー写真は、千葉市美術館に行く途中に出会った野良(触らせてくれた)
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