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MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」:2 藤牧義夫 /東京都現代美術館
(承前)
入ってすぐの細長い展示空間では、関東大震災の惨状を描いた鹿子木孟郎の絵画を、その突き当たりでは、復興へと歩みはじめる東京の街のようすを活写した柳瀬正夢のスケッチ帖を拝見。
その先を曲がると、視界が一挙に広がった。
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展示室の中央を横切る細長いケースには、関東大震災から11年後の隅田川沿岸を描いた、藤牧義夫による白描の絵巻が入っていた。
じつのところ、わたしが本展を訪ねたのは、この作品を観るためであった。
《隅田川両岸画巻 No.2 白鬚の巻》
藤牧義夫 1934年
藤牧義夫。1911年生まれ、24歳時に失踪。いまだに、見つかっていない。
ごく短い一生のなかで、強烈な光芒を放つ作品を生み出した義夫。版画家として知られるが、肉筆・墨のみを使ったモノクロームの風景絵巻が4件だけ現存している。うち3件を、東京都現代美術館が所蔵。
この部屋では2巻分と、版画作品4点が展示されていた。
《隅田川両岸画巻 No.3》
藤牧義夫 1934年
画家の視点は、隅田川を挟んで浅草側、向島側を波打つように自在に移動していく。鳥やドローンに近い。
そのさまがまずおもしろいし、当時の沿岸の風景や人びとの暮らしぶり・働きぶりが把握できる緻密な描写、巧みな線描、絵巻そのものや義夫その人がはらんでいる謎の多さ……などなど、魅力は尽きない。絵巻の面影を求めて、隅田川沿いをさまよったことも何度かあった。
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それぞれの絵巻の長さは、16メートル強に及ぶ。歯がゆいことに、その全貌は画像ですら容易には閲覧しがたいし、そのどれもが、ディテールまでは観察できない。
DNPの画像貸出ページに上がっている画像はロゴの透かし入りで粗く、『生誕100年 藤牧義夫』(求龍堂 2011年)はマスキングテープほどの小さな図版で、『別冊太陽 モダン東京百景』(平凡社 1986年)はモノクロ図版。『生誕100年 藤牧義夫』の限定版には、絵巻をゆっくり横スクロールさせていくDVDがついていたが、これはかなり貴重で入手はたやすくない。
《隅田川両岸画巻》は収蔵品のなかでも人気のようで、現美では年に1度とはいえずとも、それなりの頻度でコレクション展に出してくれている。他館への貸し出し状況は、現美の公式サイト「展示・貸出中の収蔵作品」で把握できる。やっぱり、実際の作品を観て・感じて・楽しむのが手っ取り早いし、いちばんだろうなとは思う。
絵巻じたいは4月以降も、7月まで出ているとか。さすがに巻き替えくらいはあるだろうけども、なんにせよ、この機会を逃さず、義夫渾身の素晴らしい絵巻をぜひご覧いただきたいものである。
今回は、主に細部に着目して撮影させてもらった。
各種の図版・映像では不鮮明だったディテールを、至近距離で入念に観察できたため、新たな発見が数多くあった。とりわけ、人や文字の描き込みが楽しくて、
「こんなところにいたの!?」
「そんなことが書いてあったの!?」
と、何度も声をあげそうになった。
こういった細部のおもしろさに触れていただければ、それを肉眼で確かめるべく、みなさまも美術館に行きたくなってしまうことうけあい……というわけで、ここでは多めに画像をご紹介するとしたい。
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——いかに楽しい絵巻か、よくおわかりいだだけたことと思う。便利堂さんあたりが、ミニチュア版の絵巻を発売してくれないだろうか……(つづく)
※藤牧義夫についての記事まとめ。
※4月からのコレクション展。