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吉祥うつし /高島屋史料館
「大阪の高島屋」といえば……なんば駅前にあるこの建物のイメージが、もっぱら強いことだろう。
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ところが、ここから徒歩圏内にもう1軒、高島屋の建物がある。電気街・日本橋(にっぽんばし)にもほど近い、堺筋の「東別館」である。
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現・高島屋東別館は、昭和初期にライバル・松坂屋の店舗として築かれるも、1966年に松坂屋の手を離れて以来、現在にいたるまで、デパートとしては使われてこなかった。高島屋が入ってからも、事務所のような扱いだったそうだ(なんともったいない!)。
この建物の3階にある「高島屋史料館」を訪ねた。
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エレベーターで3階へ。
左右2つの展示空間からなる高島屋史料館は、右側が高島屋の歴史と文化に関する常設展示、左側が企画展示のためのスペースとなっている。
現在の企画は「吉祥うつし」。年始にふさわしい、おめでたい意匠の作品ばかりを集めた展覧会で、数ある吉祥文のなかでも「富士」「松竹梅」に照準を絞っている。
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紅梅と蝋梅を雄々しく描く、リーフレット中央の近藤悠三《梅呉須赤絵金彩大皿》。直径90センチ、100キロ……想像していたよりずっと、デカかった。
工芸は例外的で、やきものは同じ悠三の染付壺が2点、今井政之が1点。染織は高島屋主催の「上品會(じょうぼんかい)」に出品された振袖など。ここからさらに熊谷美彦の油彩1点を除けば、他の出品作はすべて近代日本画であった。
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リーフレットで大皿の下に載っている、ユルい感じの《若松》(1970年)は福田平八郎の作。晩年に特有の、児童画すら思わせるほのぼのとした画境をよく示す。
平八郎の作は他にも、新年の贈答用として毎年制作される「飾り扇子」の原画《竹》(1970年)が出ていた。カラフルに色づいた竹の前を、野鳥が颯爽と横切る……とても、よい絵だった。夏までに、なんとかして扇子を探しておきたい。
平八郎《若松》の隣には、川端龍子の《若松》。同じ画題でも、描きぶりは大きく異なっていた。
龍子は、ひと株の若松を大きく描く。松葉はピッ、ピッと、触れれば指が切れてしまいそうな鋭さだ。緑青を引っ掻いて表された葉もある。
これを原画に風呂敷が制作されたとのことで、こちらも探し当ててみたい……
※下のツイートに龍子《若松》が。
\吉祥うつし/
— 高島屋史料館【公式】 (@t_shiryokan) January 12, 2025
🎍松竹梅🎍
松・竹・梅は、いずれも冬の寒さに強いことから生命力を象徴し、古くから縁起の良い植物とされてきました。お正月飾りに始まり、慶事の意匠として親しまれ、身近なめでたさの象徴として定着しています。 pic.twitter.com/aaMTg0AKfK
扇子や風呂敷の例が示すように、なにかの原画として描かれたり、使われたりした作品が、高島屋には多く残されている。また、作品そのものの販売を主眼とする個展やグループ展も、高島屋ではさかんに催されてきた。高島屋史料館の近代美術コレクションは、高島屋美術部と巨匠たちとの交流・協働の歩みそのものといえよう。
キャプションには、作品解説に続いて「高島屋では——」という小見出しが立てられ、作者と高島屋とのつながり、高島屋での個展歴・出品歴が紹介されていた。どの作家も、高島屋とはひとかたならぬ関係を結んでいたことがわかる。
横山大観による、231×249センチの大作《蓬莱山》。
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1947年10月、戦後初の院展が高島屋大阪店を会場として開催、協力の御礼として大観から贈られた作品だ。
日本の「現代美術」の屋台骨を長らく支えてきたのは、高島屋のような百貨店の美術部であったのだ……そのようなことを、大観の描く、燦然と輝く富士を見上げながら再認識するのであった。
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2つある展示室のもう半分・常設展示も、見どころいっぱい。
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南海ビルや高島屋東別館の模型、昔の催事ポスター、マスコットのローズちゃん人形。変わったところでは、シャルロット・ペリアンの家具に、法隆寺の国宝《玉虫厨子》の原寸大模造まで。
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——高島屋史料館は2020年のリニューアル以後、たいへん精力的に展示活動をおこなっている。
他館でポスターやリーフレットを見つけて興味を持ち、東京の日本橋(にほんばし)の展示かと思いきや、大阪の日本橋(にっぽんばし)の展示だと気づき愕然としたことが、何度もあったものだが……いまやわたしも、関西人。いつでも来られることが、うれしい。かよおうではないか。
「吉祥うつし」は、2月24日まで開催。
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◆高島屋史料館「吉祥うつし」https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/exhibition/