ぶらり、唐招提寺:3
(承前)
礼堂が途切れた突き当たりにあるのが、開山堂。鑑真和上を祀るお堂で、国宝の《鑑真和上坐像》(奈良時代)が長く納められていた。現在、同像は御影堂に移り、開山堂には「御身代わり像」が安置。
同じ紙塑の技法でつくられたという御身代わり像は、さすがに原品の放つ粛然とした空気こそまとっていないものの、こうして参拝者に常時公開され、少し高いところから令和の伽藍を見守るのは大事な役目といえよう。
国宝の原品は、毎年6月6日の鑑真忌とその前後3日間に御影堂で公開される。
開山堂の裏から左に曲がり、境内をぐるりとまわっていく。
この界隈の小径が、ほんとうに美しい。人の手が入らないありのままの自然もよいものだが、こうして野趣を残しつつ、丹念に手入れされているさまもまた魅力的。折しも、ハギやサルスベリの花が競って咲いていたのであった。
「こんなにすてきな景色が、わが家のすぐ近くに……!」なんてことを、奈良に来てから、いったい何度思ったかわからないけども、唐招提寺の小径はいまのところ、その最たるものだ。
伽藍の西南端には、薬草となる植物を集めた薬園を鋭意造営中とのこと。その進捗を見守る意味でも、季節ごとに繰り返し訪れていきたい。
御影堂や鑑真和上の御廟、限定公開中の新宝蔵には、寄れずじまいだった。
「楽しみは後にとっておきたい」的な意味合いもないことはなかったのだが、今回にかぎっては「空腹のため」が主な事由。朝食すらろくにとらずに出てしまったため、あまりにおなかが空いてしまったのだ。ごみ出しついでにつっかけで出てきて、この時点でまだ9時台である。
10時のオープンに合わせて門前の食事処に駆け込み、行きの時点で目をつけていた三輪そうめんをスルッといただいた。
帰り際、来た道と反対方向に視線を向けると、薬師寺の東西2塔が遠望できた。今度は、薬師寺まで行ってみよう。
帰りは、行きとはまた別の道を選んだ。田んぼのどまんなかだ。
いまの時期は、どこも黄金色。早いところではもう、稲刈りが始まっている。「きょうが今年の見納めかも」と意識しながら、こうべを垂れる稲穂を観察。
奈良のどこに住むか、大いに迷って悩んだものだけれど……「ここにしてよかった」と、心からそう思えている。
幸せなことだ。