I♥スーパー スーパーマーケットのチラシにみる昭和:1/北区飛鳥山博物館
「スーパーマーケットのチラシ」がひたすら並ぶ、異色の展示である。
個人のコレクターが集めた各地のスーパーのチラシから、ユニークなものを厳選……といった性格のものかと思いきや、そうではなかった。
今回展示されるのは、一見すると “ふつう” のチラシ。数点を除くほぼ全点が、東京都北区王子にかつて存在したスーパー「ほりぶん」によって出されたチラシである。
ほりぶんは戦後まもなく、精肉店として創業。昭和37年に規模を拡大し「綜合食品堀文」となり、半世紀にわたって地域の暮らしを支え、また愛されつづけた。
平成25年に惜しまれつつ閉店。インパクトのある外見の社屋はしばらく健在であったが、昨年ついに解体された。
ほりぶんから北区へ寄贈されたファイル34冊・51年分のチラシのうち、高度経済成長期を中心としたものが、今回の展示資料となっている。
ほりぶんのチラシは、一見しただけでは、たしかに “ふつう” のチラシだ。本日の朝刊に折り込まれていたとしても、違和感を覚えないだろう。
だが、びっしり書かれた文字を読んでみれば、そこには季節感があり、特売品の価格には物価が、コピーには世相がよく表れている。後世のわれわれが往時を知ったり、懐かしんだりするための貴重な手がかりといえ、そうとは気づかれぬままに易々と破棄されがちな存在でもある。
チラシの束を店の歴史と捉え、捨てずにファイリングしてとっておいてくれたこと、またそれを公共の施設に寄贈しようという発想にたどり着けたことがまず、すばらしいではないか。
とはいえ、単色刷り・文字のみのチラシである。そのまま展示すれば、地味で単調な印象は免れまい。
本展では、ほりぶんの社屋を思わせる地色のマスタードイエロー×文字色の赤をキーカラーとして、会場内のデザインを統一。壁面には、引き延ばしたチラシの写真と、時代背景を踏まえた手短かな解説が掲載されていた。チラシに書かれた文字は小さいので、大助かりという方は多かったろう。
また、店内で使用されていたレジスターや黄色い買い物かごをアクセントに添えるなど、見やすく、飽きさせない展示上の工夫がなされていた。
こういった「ほりぶんカラー」のデザインは、ポスターやリーフレット、図録にも適用されていた。
コラージュを多用した、横尾忠則ふうのデザイン。過度に進行する大量消費社会の、なんでもありの雑多な感じがよく出ていて、いかにも興味がそそられる。
それこそ、スーパーのチラシをそのまんま模してリーフレットに仕立てる方法もあったかと思うが、これほど楽しげなデザインは、お見事というほかなかろう。(つづく)