正倉院展に寄せて ~「時間枠」のこと
正倉院展は、毎年10月最終週の土曜日から、文化の日をまたいで11月第2週の月曜日まで、奈良国立博物館のみで開催される。会期中無休。
つまり、今年でいえば先週の土曜日26日に開幕、11月11日まで開催。また本日は、月曜日にもかかわらず観覧できたというわけだ。
開幕の翌日27日(日)の、9時30分からの枠に予約を入れて、観覧してきた。
初日や会期末、11月頭の3連休、それにNHK「日曜美術館」の放映後はどうしても混雑に拍車がかかるので避けたい、他の美術展もとりどり目白押しの季節……というわけで、この日程を選んだ。
時間帯に関しては、これまた悩みどころだった。9時30分というのは国立博物館の開館時間としては通常といえるが、正倉院展としては最も早い枠ではない。
なんと、早いところでは8時の枠が用意されている。この時間設定は、昨年から始まった。おそらく、来年以降も定着していくのだろう。
もはや地元住民となり、乗換なしで奈良博の前までたどり着ける高貴な御身分となったわたくしにとっては、8時の枠すら苦ではない。
だがそこは、奈良市内に宿泊してくれる観光客や夜行バスでの遠征組に譲るべきではとの思いがよぎったし、カレンダーどおりの勤め人としては、休日なので遅く起きたい。それで、9時30分である。
「8時の枠」ができたのがいつだったのかウラを取るため、過去20年分の開催情報をさかのぼっていくうちに、ここ数年に大きな変化が起きていることに気づいた。
いずれも、混雑ぶりにいかに対処していくかについての、主催側の苦心惨憺の跡といってよいだろう。
開館時間については2023年からは8時、2022年までは9時だった。
現在、平日の閉館時間は18時で、金・土・日・祝は20時まで。後者は、次のように段階的に拡大されてきた。
夜の枠を広げるだけ広げきって、昨年から朝の枠の拡大に着手といったところだろうか。
夜間開館は、比較的空いていて観やすいのみならず、入場料の面でも優待がある。
2007年から導入された「オータムレイト」は、閉館の90分前以降に入場できる、3割ほどお安い当日券。わたしも利用したことがある。2019年まで続いたのち、「レイト割」として2023年に復活。来館時間の分散にひと役買っている。
夜間割引の中断は、いうまでもなく、コロナ禍であった。同じ2020年のタイミングで、日時指定予約券の制度がスタートしている。美術展に新しい秩序をもたらしたこの制度は、毎年大混雑が必至の正倉院展においては、とりわけ絶大な効果を発揮しているといってよい。
以前は長蛇の列をなしてようやく入場していた正倉院展が、予約制が導入されたおかげで、ほぼ待ち時間なくスムーズに入れるようになっている。会場に入れば前の枠での入場者が滞留してはいるのだが、以前の狂騒ぶりを知る立場からすれば隔世の感、うれしいかぎりだ。
いま、奈良公園周辺は鹿目当ての外国人観光客でごった返しており、これまたたいそうな狂騒状態となっているが、正倉院展の会場に彼らの姿はほとんど見受けられない。
「この時期に奈良にいるというのに、もったいないな」「日本のよいものを観てほしいな」とは思いつつも、「彼らが正倉院展に気づいてしまったら、混雑がさらにたいへんなことになるな」とも……いまのところは無駄な心配のようだが、来年はどうなっているかは、わからない。
時間枠だけでなく、観覧料金も、この20年で大きく変化した。こちらは徐々にではなく、ある時期を境に跳ね上がっている。そう、境目はコロナ禍であった。
2013年までは一般1,000円。2014年からは1,100円。2020年から現在も……2,000円である。
コロナ禍にともなう美術展の観覧料金の高騰は正倉院展にかぎった話ではないが、こうしてみると、ずいぶんハードルが上がっている。
それが目的ではないにせよ、高騰が混雑の抑制につながっている面も、あるにはあるのだろう。
——混雑するのがわかっていて、おまけにチケットはたいへん高額だというのに、みな、正倉院展に集う。
いうまでもなく、それに見合うだけの、いやそれにも十二分にまさるほどの鑑賞体験が得られるからである。
次回は、今年の正倉院展のレビューを投稿するとしたい。