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サロン展 写真のノスタルジア 特別陳列 関東大震災のイメージ:1 /渋谷区立松濤美術館

 今年は「関東大震災100年」。関連する展覧会が、複数の館で企画されている。
 多くの企画が9月に照準を合わせるなか、最初を飾ったのが白根記念渋谷区郷土博物館・文学館の「同潤会アパートと渋谷」と思われるが、同じ渋谷区内で、遅れてもう1本開かれていた。渋谷区立松濤美術館の「特別陳列 関東大震災のイメージ」である。
 会期は、3月22日(水)から本日28日(火)まで。なんと短い開催期間だろうか。
 松濤美術館では年度末に「サロン展」と称したワンテーマの館蔵品展を開いている。短い会期ゆえ、開催情報はあまり派手には出ない。スケジュールの都合と展示内容への関心がかち合うのはハードルが高く、サロン展に訪れるのは初めてだった。
 今年のサロン展は2本立てで、もうひとつのテーマは「写真のノスタルジア」。野島康三を中心とした戦前の写真芸術は、この館お得意の分野。
 どちらかというと「関東大震災のイメージ」のほうに興味をひかれてやってきたものの、「写真のノスタルジア」のほうも存外に(というと失礼だが)よかったのであった。

 白井晟一設計の名建築・松濤美術館は、地階と2階の展示室から成っている。
 今回、下では公募展、2階の「サロン」と呼ばれるシックな展示室で、サロン展の2本が開催されていた。「写真のノスタルジア」では53点、半円状の小部屋のみの「関東大震災のイメージ」では11点を展示。
 楕円に似た形状の大広間の床一面に、もけもけのカーペットが敷きつめられ、中央には黒革のソファーがいくつも連なっている。
 このソファーは、少し前まで感染対策のため一所に寄せ集められ、規制線が張られていた。
 どの美術館よりも多く用意された、松濤美術館のソファー。そのどこでもすきな位置を自分で選び、身を預けて過ごす緩慢な時間が、やっと戻ってきた。

 白井建築の特徴として、重厚な「陰影」がある。
 たてものじたいがすぐれた白井の作品である松濤美術館では、この「陰影」とそのときの展示作品とがどんな化学反応をみせるかが、毎回の見どころとなっている。
 本展「写真のノスタルジア」では、大正10年(1921)に結成され、3年に満たない短い期間のみ活動した「寫眞芸術社」の作家たちによるモノクローム写真を展示。
 彼らが表現の主眼として標榜したのは「光と其諧調(そのかいちょう)」。白井のつくりあげた空間美に、そのまま当てはめられそうなキーワードともいえよう。空間と写真は、じっさいによく調和をみせていたのだった。(つづく


鍋島松濤公園にて。桜散る

 ※建築の写真は、こちらのサイトに多数掲載。



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