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いざ北鎌倉 〜宝物風入(かぜいれ):1 /円覚寺・建長寺

 金沢文庫の駅から乗車し、逗子でJRに乗り換えて、北鎌倉を目指した。11月3日、文化の日のことである。
 例年、この時期の3日間、鎌倉五山の円覚寺と建長寺では「宝物風入(かぜいれ)」が催される。晴れた日に宝物を外気にさらして湿気を飛ばし、カビや害虫による被害を防ぐ、いわゆる「虫干し」「曝涼(ばくりょう)」の行事である。
 日頃は秘蔵されている宝物が、この日ばかりは所狭しと並べられ、門戸が開かれる。本来的には保存のための行事であるが、ついでに公開もするというわけだ。
 この機に乗じて、いざ北鎌倉。

 円覚寺、建長寺とも、会場のようすはおおむね同じ。畳敷きの広間の壁という壁に、わずか数センチの間隔で、書画の掛軸が延々と掛けまわされていた。ほとんどが指定品で、国の重要文化財や国宝も含まれる。
 あくまで「虫干し」であるから、ガラスケースは介在しない。
 これほどの品々を露出の状態で拝見するには、所蔵者や関係者のつてを頼るか、学術調査に参加するくらいしか他に浮かばない。それくらい、貴重な機会である。ハンカチを口元に押し当てながら、観ていった。

円覚寺の風入の会場となった書院

 円覚寺では、国重文26件、県重文1件、市指定文化財3件、未指定4件の文化財が陳列。中世の文書が目立つなか、《円覚寺境内絵図》《尾張国富田庄図》(ともに重文)といった古地図にひかれるものがあった。
 先月28日に挙行された60年に1度の大祭「洪鐘祭(おおがねまつり)」にちなみ、洪鐘の発注者である9代執権・北条貞時に関する資料や、祭のもようを描いた《洪鐘祭行列絵巻》を展示。
 また、大河ドラマにちなんで、徳川家康の肖像画や関係資料が出陳。家康像は建長寺にも出ていて、絵としての出来は円覚寺に軍配が上がるか。
 このように、虫干しといっても無作為に掛けまわすわけではなく、ところどころで時宜に応じたテーマ性も込められていたのであった。

 洪鐘祭とは、2度も失敗した梵鐘の鋳造が、江ノ島の弁財天への祈願をきっかけに成功へと至ったことを記念する祭礼。
 このたびの洪鐘祭に合わせてつくられ、祭の行列で主役を果たしたハリボテの洪鐘、そしてホンモノの《洪鐘(おおがね)》(国宝)を、境内で拝見。洪鐘祭を、遅ればせながら追体験することができたのだった。

ハリボテの洪鐘
円覚寺弁天堂の《洪鐘》(鎌倉時代・正安3年〈1301〉  国宝)

 洪鐘祭には興味がありつつも、うかがうことはなかった。
 こうしてハリボテの洪鐘が拝見できるとは知らなかったし、風入の会場で絵巻を閲覧できた点も含めて、運が良かったなと思った。(つづく

国宝・円覚寺舎利殿の公開も
門前にて。上のほうが、少しだけ紅葉していた



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