I♥スーパー スーパーマーケットのチラシにみる昭和:2/北区飛鳥山博物館
(承前)
本展のにぎやかなようすは、以下の記事の写真からよく伝わるかと思う。
展示室の入り口で来館者を迎えるのは……花輪!
花輪は、ビルの竣工・新装開店時の写真をもとに制作されたようだ。このすぐ右から展示は始まる。
まずは、ほりぶんの起源。精肉業から転じてスーパーマーケット・ほりぶんを興した堀内文吾は、やり手の経営者らしい、バイタリティあふれる風貌の紳士だった。
昭和37年、両隣の土地を買収。王子駅から徒歩5分程度、大通りに面した「王子銀座」の角地に、ほりぶんのビルが建てられた。
黄色い塗装となるのはさらに後の話で、完成からしばらくは真っ白。ガラス面の広さも相まって、モダニズムを感じさせる外観だったことが、展示からわかった。
以降はチラシ、チラシ、またチラシ。
イチオシのなかには、商品・会社ともに現在も存続しているものも多いいっぽう、現在はない商品であったり、社名が古かったり、まったく聞き覚えがなく、どんなものか見当すらつかない商品・社名も。そういった事例に出合うたび、スマホで調べつつ進んでいった。
チラシは年代順に並んでおり、同じ商品でも、価格が少しずつ上がっていくのがわかった。スタッフ募集の求人広告に記載される時給も同様。物価の変化が、チラシには如実に表れているのだ。
季節感も、おのずと出てくる。
展示では、ある年の1月~12月分を並べた一角があり、興味深かった。お正月、お花見、夏休み、お盆、クリスマス、紅葉狩り、年越し……年中行事に合わせて特別感を演出、的確に消費意欲を喚起するのである。
年末のチラシなど、なかなかエグい。
年越しやお正月に必要となるであろう食料品・日用品の品目を表組みでリストアップ、品名のセルの左隣には、購入の有無をチェックする欄がついているのだ。「お買い忘れのないように」「年越しのお買い物はほりぶんで」というわけ。財布のひもを緩めんと、あの手この手であおりまくりである。
チラシどうしを見比べてみると、主要なラインナップはさほど変わっていなかったりするのだが……それでも、もとはお肉屋さんだったほりぶん。やはり精肉部門が主力だったらしく、現代にも増して高級感のがあったであろうすき焼き用のお肉や、成形された焼くだけのハンバーグなどが猛プッシュ。クリスマスには、もちろんチキンをおすすめ。文字だけなのに、やけに食欲をそそられるのであった(余談だがその後、王子駅前ですき焼き定食を食べた)。
ご当地ならではの要素もある。
近隣の古社・王子稲荷神社の縁日には「凧市」が立ち多くの人が集まるが、それに乗じて、狐のイラスト入りのチラシを配る。
また、博物館のある飛鳥山は、なんといっても桜の名所。お花見にも乗じて、お団子なりなんなり、適した商品をおすすめするのだ。
商品や宣伝文句以外のところにも、見どころがたくさんあった。
「抽選会やります!」「真珠の粒がもらえます!」「真珠のネックレスがもらえます!」などなど、あの手この手でキャンペーン。「金銀パールプレゼント♪」と同じ発想である。東京五輪に便乗したものもあった。
——ほりぶんのチラシの体裁は、赤系の1色刷り・文字のみが基本となっている。
途中からはカット的に小さなイラストが入るようになるが、主体はあくまで文字。写真は、ほとんど登場しない。
高度経済成長が頭打ちになる頃、王子の近隣に競合他社の店舗が続々オープンする。そのチラシも、数点展示されていた。他店の動向に気を払うべく、保存されていたのだろう。
他店のチラシには、写真がふんだんに使用されている。画像の背景を切り抜いて、ポップな書体で目立たせる……つまり、現在よく見かけるカラーのチラシと同様のスタイルである。書き文字びっしり、単色のほりぶんのチラシとは、明らかな差別化がはかられていた。
こうしたライバル店に押されて、ほりぶんはその勢いを削がれていった。(つづく)