京都・智積院の名宝:1 /サントリー美術館
長谷川等伯とその一門による障壁画で知られる、京都の智積院(ちしゃくいん)。
わたしがこの寺を訪ねたのは、高校2年生の夏休みのこと。母校には修学旅行がなく、このときが人生初の京都行。青春18きっぷを使っての一人旅であった。
順番は忘れてしまったが、近隣の京都国立博物館、三十三間堂、宗達の白象の杉戸絵がある養源院と一緒に巡ったはずである。軒下に腰かけて、庭をぼーっと眺めていたのを覚えている。
ひと間だけの展示室には等伯の《楓図》、その息子・久蔵の《桜図》をはじめ数点の襖絵が、ぎゅうぎゅうに並べられていた。
ガラスはなく、竹製の手すりが作品の数センチ前に置かれている程度。むき出しになった障壁画は、部屋の3面分をすっぽり覆う。国宝に周囲を固められて、東北から出てきた純な美術少年の胸は高鳴った。
その後、寺外の展示で部分的に拝見する機会が幾度かあったが、そのたびに、この若き日の記憶がよみがえってくるのであった。
絵の前に立てば、かつての自分に出会えたような気がする……この種の感傷もまた、美術鑑賞の醍醐味のひとつであろう。
智積院の障壁画群が、今度は大挙して東京にやってくる。
なんでも、あのときの展示室を閉じて、4月からは新築の宝物館がオープンするらしい。工事中の期間を利用した出開帳が、今回のサントリー美術館での展示ということになる。
ガラスケースに映る高校生のわたしを探しに、六本木へ行ってきた。(つづく)
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