【ショートショート】永遠に繰り返す日
カレンがその奇妙な現象に気づいたのは、ある冬の朝のことだった。目覚めると、いつもと同じ天井が見えた。カーテンの隙間からは薄い日差しが差し込んでおり、彼女は何の変哲もない一日が始まると思っていた。しかし、目覚まし時計が鳴ると、その音に何か違和感を感じた。
「この音…前にも聞いた気がする…」
カレンは起き上がり、いつものように顔を洗い、朝食を用意しようとキッチンへ向かった。しかし、家の中で起こる些細な出来事が、まるで既に経験したことのあるシーンのように思えた。テーブルの上にある新聞の見出しや、流れているニュース、トーストが少し焦げる具合に至るまで、全てがどこか既視感を伴っていた。
「まるで、昨日と全く同じ…」
カレンは不安に駆られたが、それを確認する方法もなかった。友人に連絡を取るのも馬鹿げている気がした。「ただの気のせい」と自分に言い聞かせ、普段通りのスケジュールをこなすことにした。
しかし、次の日も同じように始まった。全く同じ天井、同じ音で鳴る目覚まし、そして同じニュース。カレンは再び不安に襲われ、何度もカレンダーを確認した。しかし、確かに日付は同じ「12月3日」を指している。
「同じ日を繰り返している…?」
それが確信に変わったのは、三度目の朝だった。カレンは、完全に同じ出来事が繰り返されていることに気づき、何かがこの奇妙な時間のループを引き起こしているに違いないと考え始めた。
カレンは、何とかこのループから抜け出すために考えられる限りの方法を試した。友人に電話をかけ、自分が同じ日を繰り返していることを説明しようとしたが、皆はそれを冗談と受け取るか、あるいは全く信じなかった。また、日中のスケジュールを大きく変えてみても、目覚めるとやはり「12月3日」の朝に戻っていた。
「一体、何が原因なんだろう…」
そう考え続けているとき、カレンはふと思い出した。この奇妙な現象が始まる直前、彼女はアンティークショップで不思議な時計を買っていたのだ。その時計は、店の片隅で埃をかぶっていたが、その美しさに心を引かれてしまい、衝動的に買ってしまったものだった。
「もしかして…あの時計が?」
カレンは急いで時計を探し出し、リビングの棚に置いてあるそれを手に取った。時計の針は、まるで彼女を嘲笑うかのように静かに時を刻んでいた。何かがこの時計に関係しているに違いないとカレンは感じた。
その夜、カレンは鏡の前に座り、時計をじっと見つめた。どこか不気味な雰囲気を醸し出すその時計には、針以外にも小さな装飾が施されており、その中には奇妙な模様が彫り込まれていた。その模様に指を触れると、カレンは一瞬目眩に襲われた。
「この模様…何か意味があるの?」
模様はよく見ると、複数の渦巻きが絡み合っており、それがどこか終わりのない円環を描いているように見えた。まるで「永遠に続く時間」を象徴しているかのようだった。カレンはその模様を指でなぞりながら、何とかこの時計の秘密を解明しようとした。
その時、不意に時計の針が急に動き出した。そして、瞬く間に12時を指し、全ての音が消えた。部屋中が静寂に包まれ、カレンは自分の心臓の音だけが聞こえるように感じた。そして、突然、時計が大きく「カチリ」と音を立て、針が逆回りし始めた。
「これが…原因なの?」
時計の逆回りが始まると同時に、カレンの頭の中にフラッシュバックのように過去の出来事が駆け巡った。幼少期の思い出、失敗した恋愛、そしてここ数年の孤独感。全てが一気に押し寄せ、彼女の中で渦を巻いていく。
「過去を忘れられないから、私はこの時間を繰り返しているの?」
カレンは悟った。このループは、彼女自身の心が引き起こしていたのだ。彼女が過去の後悔や痛みから逃れられない限り、このループは終わらない。自分を縛っていたのは、自分自身の心だったのだ。
深く息を吸い、カレンは時計に向かってそっと囁いた。「私は過去を受け入れる。そして前に進む。」
その瞬間、時計の針がピタリと止まり、再び静かな音で順方向に進み始めた。まるで彼女の決意を受け入れたかのように、時間は再び正常に流れ出したのだ。
次の朝、カレンが目を覚ますと、カーテンから差し込む日差しは確かに違って見えた。目覚まし時計の音も、聞き慣れた音ではなく、どこか新しい始まりを告げる音のように感じられた。カレンは深く息を吸い、笑みを浮かべた。
「今日は、昨日とは違う。」
時計は棚に置かれたままだが、その針は穏やかに進んでいた。そしてカレンは、自分の人生もまた、新たな一歩を踏み出せることを確信していた。
最後まで読んでくれてありがとう!
メルカリ、メルペイを登録してくれると創作のやる気が出ます。
メルカリを使ってみてね!
500円分お得にお買い物できる招待コード【PKQYPA】を贈りました🎁
アプリをインストールして登録してね👇
https://merc.li/dDedmNWRa
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?