【ショートショート】消えた足跡
冷たい冬の夜、雪が静かに降り積もる中、アヤはいつも通り仕事からの帰り道を歩いていた。普段は賑やかな街も、深夜の静けさに包まれ、彼女の足音だけが通りに響いていた。しかし、その夜は何かが違っていた。
途中の公園で、アヤは妙なことに気づいた。雪の上に続く足跡が、不自然に途切れていたのだ。公園の入り口から延びていた足跡は、まるで突然消えたかのように、途中で跡形もなくなっていた。
「どうして…?」
アヤはその足跡をたどってみた。足跡は一定の間隔で続いていたが、ある地点で突然消えていた。周囲には続く足跡も、誰かがジャンプして移動したような痕跡もなかった。まるで、その場所で人が消えたかのように。
不安を感じながらも好奇心が勝ったアヤは、消えた足跡の近くを調べてみた。そこには何も特別なものは見当たらず、ただ雪が白く積もっているだけだった。だが、足跡の途切れた場所に立ったとき、何かしらの違和感を感じた。まるで空気がそこだけ異質で、少し冷たく、息苦しいような感覚があったのだ。
次の日、アヤはその奇妙な出来事が気になって、再び公園に向かった。昨夜の足跡の消えた場所には新たに雪が積もっており、足跡は完全に消えていた。しかし、アヤは確信していた。あの足跡には何か秘密がある、と。
そんな折、彼女は仕事帰りにたまたま一人の老人と出会った。その老人は公園のベンチに座り、何かを待っているような様子だった。アヤが足跡について尋ねると、老人は彼女をじっと見つめ、不思議そうに笑った。
「足跡が消えた場所ね…君もあの場所に気づいたんだね。」
老人は静かに語り始めた。この公園では、昔から時折「人が消える」という噂があったのだと。ある年配の男性が突然姿を消し、若いカップルも同様に行方不明になったという。全員が同じように雪の日に足跡を残し、途中で消えたという共通点があった。
「信じられない話だと思うだろうけど、私もその一人だったんだ。」
アヤは驚いて老人を見た。「どういうことですか?」
老人は深い溜息をつき、続けた。「数十年前、私はここで同じように足跡を追っていた。そして、気がついたら、私はこの公園に縛られてしまったんだ。出て行くこともできず、ただ同じ場所をさまよい続けている。まるで、時間が私だけ止まっているかのように。」
アヤの背筋が凍りついた。目の前の老人は、まるで幽霊のように話しているが、そこにいる存在は確かに人間のようだった。しかし、彼の話が真実ならば、彼は何年もの間、この公園から出られずにいるということになる。
「でも、どうして私にそのことを話すんですか?」
老人は穏やかに微笑んだ。「君には、その足跡の謎を解けるかもしれないと感じたからさ。そして、私たちを解放してほしい。」
老人が語るには、その足跡の途切れた場所には「異なる次元への扉」が存在するという。そこに足を踏み入れた者は、そのままこの世界から消えてしまう。まるで別の世界へと吸い込まれ、帰ることができなくなるらしい。そして、それが何らかの力で彼らを縛り続けているのだ。
アヤは決心した。何かがこの公園には隠されている、そしてそれを解き明かすことで、この老人や過去に消えた人々を解放できるかもしれないと。
次の日の夜、アヤは公園に戻った。雪は新たに降り積もり、全ての痕跡を消していたが、アヤは足跡の消えた場所を記憶していた。その場所に立つと、再びあの奇妙な空気の違いを感じた。彼女は深呼吸し、心を落ち着けてその場所に一歩踏み出した。
突然、世界が歪んだ。目の前の景色がぐるりと回り、彼女は別の場所に立っているような感覚に襲われた。そして、周囲には、彼女と同じように立ち尽くす人々が見えた。彼らは全て過去に消えた人々であり、その中には老人もいた。彼はアヤを見て、穏やかに頷いた。
「君が来ることを待っていたよ。」
アヤは震えながらも彼らに歩み寄り、手を伸ばした。「どうすれば、ここから出られるのですか?」
老人は静かに彼女の手を取り、言った。「私たちを覚えていてくれる人が必要だったんだ。君がその役目を果たしてくれたことで、私たちはこの場所から解放される。」
その瞬間、アヤの周囲が明るく輝き始めた。彼女は目を閉じ、光に包まれる感覚を感じた。そして、次に目を開けたとき、彼女は元の公園に立っていた。そこには誰もいなかった。老人も、他の人々も、全てが消えていた。
ただ、彼女の足元には一組の足跡が続いており、それは途切れることなく遠くへ伸びていた。まるで、彼らが自由に歩き出した証であるかのように。
アヤは静かに微笑んだ。「あなたたちが自由に歩いていけますように。」
そう呟くと、彼女は公園を後にした。その夜以降、足跡が途切れることはなくなり、公園には静けさが戻った。そして、アヤはあの老人のことを心に刻み続けることで、彼らの存在を忘れないように誓ったのだった。
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