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鉱物と妖精

妖精の好きな石?

時々、妖精が好きな石はありますか?
と聞かれることがあります。
この石、というのは、水晶や何かのクリスタル、つまり宝石を指しているのですが、はて、そんなものはあったかな? とちょっと困ってしまいます。

パワーストーンでは

綺麗なものは須く好きだと思っている亭主は、時々石のサイトを見に行きます。
それはブルガリやハリーウィンストンなどの宝飾ブランドであったり、原石メインの鉱物系、そしてパワーストーンと呼ばれる販売サイトなどなど。
とりわけ石の霊的な力を謳うサイトの中には、妖精の力が、とか、妖精が好む……と書かれていることがあります。
それについては亭主は門外漢なので、言える言葉は何も持ち合わせていないのですが、画面やショウウインドウの中でキラキラと光る石たちは、確かに彼らが好みそうだなぁと思うものばかり。
(それに妖精と関連づけられた石たちはとりわけ愛らしい色合いや、グリッターが降り注ぐように見える石が多いのもまた楽しいですね)

民話や伝承では

では、実際に妖精が好きだという石の伝承あるのでしょうか。
正直、これが好き、これに固執しているというお話を、亭主は聞いたことはありません。
ただ伝統的に、妖精たちの家は金と水晶に飾られているとされていることが多いのです。
水晶で作られた屋敷に、金の食器などはよく耳にします。
また人魚やメロウの宮殿は珊瑚と真珠、そしてアワビなどの虹色の貝殻で飾られているとか。
お話を紐解いていくと、以外とメジャーな石や宝石が多いことがわかります。

それには理由が

どうして民話や伝承にもっとたくさんの宝石が出てこないのでしょうか。
これにはきっと、お話を伝えてきた往時の人たちに理由があると思っています。
とりもなおさずお話を伝えてきた人たちというのは、牧夫や農夫、そして家を預かる女性たち。つまりは名もなき人たちです。
彼らは素晴らしい語り手でありましたが、多くの場合、物語は残っても、語り手の名前は消えてゆくものです。(とても残念なことですが)
彼らはとても貧しく、大地とともに生きた人たちです。
そんな彼らが、前述のブルガリやハリーウィンストンなどの宝飾品を持っていたり、見たりしたことは有ったでしょうか。
おそらく彼らにとって煌びやかな邸宅や建築、そして宝物と言えば、地主さんの家や、教会の祭壇やステンドグラスだったことでしょう。
また彼らの時代には、今のような研磨技術も、流通もありませんでしたから、土地の大金持ちであっても、持っていた宝石はガーネットや水晶、エナメル金銀という具合でした。(もちろんイギリス王室などの例外ありますが)
そういった理由から、自ずと彼らのお話に出てくる宝飾品は、彼らが知り得る範囲で最も美しいものに限られてくるのです。
残念に思われる方もいるかも知れませんが、愛知県の徳川美術館に所蔵されている初音の調度、それこそアイルランド国立博物館の宝物などを見れば、金銀、琥珀、エナメル、水晶などでも充分に目が眩む美しさだと分かって頂けると思います。

アイルランド国立博物館収蔵の黄金製のトルク(首飾り)

鉱山妖精

なにより妖精たちの良く現れる場所に鉱山があります。
坑道にはノッカーやドワーフたちが現れ、彼らは素晴らしい細工師であり同時に鉱夫でもあります。
ノッカーはその名の通り、小さなツルハシをコツコツと鳴らして鉱脈の在処を教えてくれます。もちろん中にはコボルドのように大事な鉱物を使い物にならない(と当時は考えられていた)コバルトに置き換えたりします。
そう言う意味では、彼らはありとあらゆる鉱物鉱石が好きで、大地が生み出した価値のあるものすべてに執着していると言えます。

でもご用心

素敵なアクセサリー、宝石はいつの世でもあらゆる人を魅了します。
それは彼らも同じ。
ただひとつ違うのは、彼らはそういう宝物を平気で奪いに来るのです。
どうしてそんにな事をするのか。理由は簡単。
大地の恵みはすべて自分たちのものだと確信しているからです。
そもそも、私たちヒトが地上の支配権を得る前、彼らはこの世の支配者でしたし、地に潜った後も、大地がもたらす恵みすべてを支配管理しているのですから当然と言えば当然なのですが。
自由に姿を消して、大きさも変幻自在。あまつさえ幻術は十八番という彼らの盗みを阻止するのは至難の業。(とはいえ、それを防ぐ方法も伝わっていますが、それはまた別のお話)
宝物は、出来るだけひっそりと愛でるのが吉なのかも知れませんね。

狐弾亭の1冊


初版 グリム童話集  吉原 高志 (翻訳)

グリム童話といえば、誰でも一度は聞いたことのあるお話が詰まった名作です。ですが、グリム兄弟が土地の人たちから採話してから、版が重ねられる度に、加筆修正がされました。
中には物語のニュアンスがガラリと変わったものも、欠番にされてしまったお話さえあります。
なので、もし往時のニュアンスに触れたければ、初版を当たると良いといわれることも。
この初版を翻訳した童話集もその1つ。
残酷とも思えるお話や、良く知られたあのお話はこんな結末だったの? というものまで。
もちろん、グリムが採話したドイツに馴染みのある小人たちのお話もふんだんに納められています。
ディズニー映画のそれとはまた違った彼らの魅力に触れられるかも知れません。
狐弾亭の書棚にもありますので、開店、お越しの際には是非。

狐弾亭亭主・高畑吉男🦊

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