音楽と彼らの物語
妖精と音楽
妖精と聞いて連想することは様々あると思います。
王さま、お姫さま、小さい、可愛らしい。
最近では特定のゲームのキャラクターの名前が挙がることもあるでしょう。
妖精譚の語り部である僕がまず浮かぶのは「音楽」でしょうか。
妖精たちと音楽は切っても切れない縁があります。
例えば、妖精に教わった曲として伝わっているアイルランド伝統音楽もあれば、中には、妖精の曲を盗み聞いた楽士が、その罰として命を取られたなんて物騒なお話もあります。
↓は日本でも人気のある曲。King of the fairies(妖精の王さま)です。
楽士と妖精
亭主が語っていて、楽しいなぁと思うのは、楽士が妖精に音楽の腕を見込まれて妖精界へ誘われるというお話。
伝統的妖精譚では定番ですが、このなかで最も有名なのは、やはり歌人トマスでしょうか。
バラッドとして歌い継がれてきたもので、ご存知の方も多いと思います。
歌人トマス
ある日、トマスはハントリーの岸辺で妖精女王に出会い、彼女に忠誠を誓います。
妖精女王は彼に口づけし、7年の間、妖精郷で彼女に仕えることを命じました。7年と言えば長い歳月ですが、トマスにとってそれは夢の内の一瞬でした。いよいよ妖精郷を去る時になり、トマスは、女王に離れられない胸の内を語るのですが、女王は決してトマスに期日以上の滞在を許そうとはしませんでした。
実は妖精たちは7年に一度地獄の大公に貢ぎ物をせねばならない決まりになっていて、妖精女王の貢ぎ物は、彼女の最愛の者だとされていたのです。
トマスを地獄に連れて行きたくない女王の気持ちを察したトマスは涙ながらに妖精郷を去るのですが、そんな愛しい人の子に、女王は必ず迎えに行くと約束し、その証として音楽の才、詩作の才、そして嘘をつけない舌を贈ったのでした。
予言の才能
嘘をつけない舌というのはなんとも奇妙な贈り物ですが、これはつまり予言の才能で、誰かがトマスに未来の事を尋ねれば、決して嘘ではない真実、つまり確定した未来しか話せないということに他なりませんでした。
この3つの才能により、トマスは吟唱詩人としても、予言者としても有名になりましたが、女王からの迎えは来ませんでした。
そして、トマスが白髪の老人になった頃、召使いが、屋敷の門に白い鹿がやって来ていることを告げました。不思議なその白鹿は人に怯えず、誰かを待っているようでした。
その事を聞いたトマスは「ああ、やっと迎えが来た」と白鹿と共に何処かへ去って行ってしまったのです。
誰言うとなく、歌人トマスは妖精郷に戻ったのだ。あの白鹿は妖精女王その人だったのだと。
妖精郷からの誘い人トマス
美しくも不思議なお話ですが、これには後日談があります。
ある村を訪れた2人組の楽士は、白髪の老爺に屋敷での演奏を頼まれます。もちろん引き受けた彼らは、その夜、今までに見たことのない素晴らしい屋敷で演奏をし、これまた素晴らしいご馳走、なによりたっぷりの謝礼を貰い、翌朝村に戻ってきました。
けれど、彼らが戻ってきた村は昨日とは打って変わって雰囲気も、町並みも、そこにいる人たちの服装さえ、まるきり違っていたのです。
道行く人たちが言います「あんたたち、随分昔めいた服を着てるねぇ」
そう、彼らは一晩屋敷で演奏していただけと思っていましたが、なんと100年が経っていたのでした。
悲嘆に暮れた彼らは教会に行き、お祈りをあげて貰いました。
神父さまのお祈りが終わると、彼らは灰となってその場に崩れ去ってしまいました。
そんな彼らを見て、村人たちは驚きつつも、きっと彼らに演奏を頼んだのはあの歌人トマスで、彼らが演奏したのは妖精女王の城だったのだろうと。
少し恐ろしくもあるお話ですが、僕はとても妖精譚らしいと思ってしまうのです。
↓イワンマッコールにより歌人トマスのバラッド。チャイルドバラッド37番
狐弾亭の1冊
お話しした歌人トマスをエレンカシュナーが精緻な筆致で小説として仕上げています。濃やかに描かれた心理描写や妖精の姿などがタペストリーのように広がります。
世界幻想文学大賞を受賞しているのですが、長らく絶版で図書館以外では雨に掛かることは少ないかも知れません。
重厚であり、伝統的な妖精譚に触れることの出来る良いお話なのですが勿体ない限りです。
もちろん狐弾亭のブックカフェでもご用意しますので、開店、お立ち寄りの際には是非♪
狐弾亭亭主・高畑吉男🦊
お知らせ
妖精譚の語り部としての亭主のお仕事のお知らせです。
11月17日に東京都、日野にあるClare home and gardenにて古楽ハープ奏者渋川美香里さんとお話会を開催します。
100坪以上のお庭を有する洋館で暖炉の火を囲みつつ開催するお話会です。
是非この機会に、すてきな音楽と物語をご一緒に。
お問合せ、お申し込みはこちらから🦊
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