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妖精との暮らし


台所にミルク

妖精譚を読んでいると、時々今では失われた往時の暮らしが垣間見えることがあります。
例えば夕食が終わったあと、台所にミルクを少し出しておくと言うのもその1つ。これは夜になると現れる屋敷妖精たち(ブラウニーがその代表格)の為に出しておくのです。
彼らはその名の通り屋敷に憑く妖精で、夜毎家の掃除をしたり、逆に散らかしたりと僕らの生活に一番近いところに立ち現れるのです。
そんな彼らに、あまりひどい悪戯はしないでね、というお願いと、いつも掃除ありがとうの感謝両方を含めてミルクを出しておくのです。
この風習はブラウニーだけでなく、同じ屋敷妖精であるシルキーやキキーモラ、バンシーなどにも向けて行われていました。

Alice B. Woodward

ミルクを出しておくという習慣は、時にワインに変わりました。
ちょっとしたご馳走を頂いた時などがそうです。
なんでも当時のワインは今と違って澱が溜まっていることが多く、最後の一杯は残されていたようで、それらを妖精にということだそうです。
またクリスマスの夜は、妖精たちの為に、床に散らばったご馳走の食べこぼしをわざとそのままにしておいたというお話も聞いたことがあります。

食べ物は大事

彼らにとって食べ物がいかに大事かは言わずもがなですが、実は台所に残された食べ物は、妖精に攫われてしまった人たちにも大事なのです。
伝えられるところによると、妖精界に連れて行かれた人たちは、あちらの食べ物を口にすると完全に妖精たちの支配下に置かれるのですが、それを拒み続ければ、こちら側に戻ってくるチャンスが残されるそうです。
そういった人たちが、夜毎家に戻ってきては、台所に残された食べ物を口にして命を繋ぎ、それに気付いた家人に、妖精たちから救ってくれと懇願するお話がたくさん残されています。
理屈を考えるとちょっと不自然な感じがしなくもないのですが、そこはそれお話ですからね。

狐弾亭の1冊

妖精たちの物語 ヴィジュアル版 Beatrice Phillpotts 著, 井辻 朱美 翻訳

妖精についてのあれこれを古今東西の妖精画を交えて紹介しています。
深い内容から、ちょっとしたトリビアまで読み応えもありますし、美しい妖精画を眺めるだけでも楽しい1冊。
狐弾亭の書棚にもありますので、開店、お越しの際には是非。

狐弾亭亭主・高畑吉男🦊

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