太陽系誕生の秘密を解き明かす日まで!神戸大学ホームページ・メインビジュアル撮影の裏側 vol.3
季節は冬へと変わり、寒さも増してきました。振り返ると3ヶ月前、まだ真夏並みの暑さであった10月に、神戸大学のホームページのメインビジュアルが更新されました。今回の主役は、理学部と経済学部。
本記事では、理学部惑星学科の学生役としてメインビジュアルのモデルを務めた、西尾峻人(にしお・たかと)さんへのインタビュー内容をお届けします。
西尾さんは、現在大学院博士課程前期課程の1年生。神戸大学理学部惑星学科を卒業後、同大大学院理学研究科惑星学専攻へと進学しました。西尾さんが専攻内で所属している分野は惑星宇宙物理学であり、天体を研究対象としています。そんな西尾さんが惑星学科の学生として撮影を行ったメインビジュアルを、撮影場所ごとに振り返っていきます。
※この撮影は学部生をモチーフにして行われたため、撮影のイメージに関しては「理学部惑星学科」という名前を用いていますが、西尾さんご自身のお話に関しては「理学研究科惑星学専攻」と表記しています。
メインビジュアル振り返り①六甲台第2キャンパス編
自然科学総合研究棟3号館
この建物は六甲台第2キャンパスの中で工学部エリアに属しており、理学部エリアからは少し離れていますが、惑星学科をはじめとした理学部の研究室はこの棟内に存在します。大学院博士前期課程で学ぶ西尾さんにとって、もっとも馴染み深い建物です。
火山・岩石系の金子克哉教授の研究室にお邪魔して撮影が行われました。西尾さんの専門研究分野ではないため、実は撮影を共にした金子教授とは約2年ぶりの再会だったそうです。
西尾さんはメインビジュアルで演じた理学部生を「スーパー惑星学科マン」と呼んでいました。なぜなら、実際の学生生活では、複数の研究室を掛け持ちすることはできないからです。今回のメインビジュアルは、「スーパー惑星学科マン」を見ることで、惑星学科のディープな魅力を一度に楽しめるようになっているといいます。
このショットは、薄く削った岩石(薄片)をガラスに貼り付けて、電子顕微鏡で観察しているという設定です。西尾さんも学部2年生の時に、自ら山へ石を採りに行き、顕微鏡で観察して分析する授業を受けていました。テストには石の写真から石の名前を特定する問題が出たそうです。
これも金子教授の研究室にて。写真映えのする石を、と金子教授に選んでもらったものが並びます。西尾さんも、このショットに写っているような華やかな色の石は見たことがなかったそうです。
実験惑星科学分野の荒川政彦教授の研究室で撮影された1枚です。西尾さんが扱っている実験器具は、ガス銃といいます。ガス銃とは、実験惑星という研究分野で用いられる実験装置で、実際にガスを用いて弾を発射し、天体を模した物体に衝突させるという実験が行われています。
このショットでは、研究室に所属する学生がガス銃の整備をしているという設定のもと撮影されました。実は西尾さんにとって、ガス銃の整備を行うのは初めてでした。実際の整備で必須とされる手袋を着用し、本番さながらに撮影に臨みました。
今回のメインビジュアルの中で唯一、実際に西尾さんの所属する研究室でのショットです。画面上に見える赤と青はそれぞれ天体のモデルであり、これらを衝突させた場合に衝撃で散らばり重力で集まる、そうして新たな天体ができる様子をシミュレーションしています。
西尾さんの所属する分野には3つの研究室があり、部屋を共有していることもあって、互いに相談をしたり雑談を楽しんだりするなど、研究室を越えた交流が活発に行われているそうです。
理学研究科Z棟
理学部Z棟の吹き抜けに面した通路での撮影でした。西尾さんをはじめ、惑星学専攻の研究室は自然科学総合研究棟に入っていますが、理学部や理学研究科の授業はこの棟で行われることも多いそうです。西尾さん自身も、大学院進学後もこの棟で授業を受けたことがあると話してくれました。
一緒に写っている学生は、西尾さんの研究室の同期です。自然体での撮影のため、西尾さんたちは研究のシミュレーションに関する相談など、普段通りの会話をしていたところ、突然撮影が終わったことを告げられたそうです。「カメラマンから『ずっと喋っておいてください、その間に写真を撮ります』と言われました。気づかないうちにたくさん撮られていて、どこから撮られているのかも意識していませんでした」と、撮影の裏話を教えてくれました。実はこの撮影、光の入り方を十分に考えて行われていたそうで、カメラマンが太陽の角度を気にしながら撮影を行っていたそうです。
また、このメインビジュアルの撮影が行われたのは、ホームページでの公開直前である9月。夏の暑さが和らいだとはいえ、気温は20度を超えていました。メインビジュアルが公開される季節に合わせ、衣装は長袖を指定されていましたが、あまりにも暑かったため、撮影中はタオルが手放せなかったそうです。
自然科学系図書館
自然科学系図書館前の坂道で撮影されました。キャンパス内で友達とたまたま会い、挨拶をする場面を再現しています。このショットはポーズを決めてその瞬間を撮影するのではなく、自然体ですれ違うように、との指示で撮られました。
瀧川記念学術交流会館 横
撮影場所は瀧川記念学術交流会館の横、通学風景をイメージしたショットです。六甲台第2キャンパスの海側はどこも綺麗に神戸の街が見下ろせる絶景スポットです。撮影場所は景色を遮るフェンスのない見晴らしのよいスペースです。ただ、実際は歩道ではなく、建物同士の間にあるスペースのため、歩いているポーズを取っての撮影でした。
阪急六甲駅への坂道
写っている坂道は、六甲台第2キャンパスの六甲台南食堂LANS BOX脇から阪急六甲駅へと繋がる道です。帰宅風景をイメージし、夕方に撮影されました。あいにくこの日は曇ってしまいましたが、カメラマンの技術で夕焼けがより綺麗に見える写真になりました。
この坂道は、実際に西尾さんも帰り道として使っているといい、「ほんまの下校風景だ」と話してくれました。しかし、大学院生として研究生活を送る西尾さんは、最近は忙しさのため夕日の見える時間の帰宅が叶わず、夜景を横目に見ながら帰ることが多いそうです。
メインビジュアル振り返り②その他キャンパス編
本館(六甲台第1キャンパス)
六甲台第1キャンパスの本館をバックに撮影されました。今回の撮影は、神戸大学軽音楽部JAZZに所属し、サックスを吹いている学生という設定で行われました。一緒に撮影に参加した学生は、軽音楽部JAZZに実際に所属している部員の皆さんです。
西尾さんが学部へ入学したのは2020年。新型コロナ感染症の影響により部活動をする余裕のなかった世代だったこともあり、西尾さんは実際の大学生活では部活動を行っていないそうです。もともとジャズをテーマにした漫画「BLUE GIANT」を読んで、ジャズへの興味を持っていた西尾さんですが、サックスを手に取るのはこの撮影が初めて。吹き方を教えてもらったものの、音が鳴らず、難しかったといいます。
西尾さんは「六甲台第1キャンパスは昔ながらの大学みたいな雰囲気がお気に入りです」といいます。中でも「社会科学系図書館がハリー・ポッターの世界みたいです。研究のリフレッシュに六甲台第1キャンパスを散歩することがあるのですが、図書館で勉強する学生たちに元気をもらって帰ります」と話してくれました。自然科学系図書館のリニューアル工事中に蔵書の一部が社会科学系図書館に移された際、西尾さんも初めて社会科学系図書館を訪れ、その時にお気に入りの場所となったそうです。
学生会館(鶴甲第1キャンパス)
同じく軽音楽部JAZZの活動風景ですが、場所は鶴甲第1キャンパスにある学生会館。音楽や演劇団体をはじめとした多くの課外活動団体の拠点のため、西尾さんは普段は訪れない建物だったそうです。写真のとおり、学生会館は神戸の街が一望できる絶景スポットでもあります。
終わりに~天体の衝突から見据える過去と未来~
今回、西尾さんがメインビジュアルのモデルを務めるきっかけとなったのは、西尾さん指導教員でもある、惑星学専攻長・大槻圭史教授からの推薦でした。しかし、専門分野外の研究をテーマにしたショットには難しさを感じたといいます。
西尾さんが理学部を選んだ最初の理由は、自然科学への興味でした。
大学受験を控えて大学の調査をしている際に見つけたのが、神戸大学の理学部惑星学科。「ぴょんと飛び込んでみたら、(大学院生として研究を続ける)今になってしまった」と話してくれました。例えば石や星のような、普段何気なく見ているものでも知らないことがたくさんあり、それらのことをもっと知りたいと思ったことが、惑星学科への進学のきっかけになりました。
西尾さんにとっての惑星学科の魅力は、惑星科学にまつわる幅広い研究分野に関わることができることだといいます。フィールドワークからプログラミングまで様々です。
インタビューの中で、西尾さんの研究分野とは違いますが、「アストロバイオロジー」という分野の面白さについても話してくれました。アストロバイオロジーとは直訳すると宇宙生物学、つまり地球外の天体に生命が存在する可能性を探るといった分野です。地下から熱水が噴き出す環境は生物が生まれうる環境になっており、そのような環境を持つと考えられる内海を持つ天体について研究することが、地球外に存在する生物への研究へとつながるそうです。
このように、学生個人が研究したいことに合わせて勉強できるのも惑星学科の魅力だと西尾さんは話しており、「理学の総合学科」とも例えてくれました。
惑星学科の研究室配属は学部4年生のタイミングですが、西尾さんを現在の研究分野へ導いたのは、スケールの大きさでした。「天体の形成や太陽系の形成を突き詰めていくと、天体の衝突の話になるんです。太陽系の成り立ちを語れるなんて格好良いじゃないですか。シミュレーションができる研究室を選んだのも、シミュレーションによって様々な事象を説明できることへの憧れからです」と語ります。
そんな西尾さんは、当時思い描いていたイメージ通り、「めちゃめちゃ格好良いことができている研究生活」を送れているといいます。
西尾さんの大学院進学は、学部入学当時から考えていたといいます。大学に入学したなら研究をしたい、という思いがあったそうです。
西尾さんの研究テーマでもある天体の衝突と聞くと、とても現実離れした話のように思えるかもしれません。しかし、西尾さんが話してくれた「プラネタリーディフェンス」という概念はそんな研究テーマを身近に感じさせてくれます。まず、プラネタリーディフェンス、つまり地球防衛とも呼ばれるこのミッションは、地球に降ってくる隕石による被害をなくすためのものです。アニメや映画で見るような話だと思われるかもしれませんが、実際に2013年にはロシアに隕石が落下し、被害が出ています。実際に隕石が落下した範囲だけでなく、落下の際に発生する衝撃波による被害も大きかったそうです。そこで、地球に向けて落下する隕石に物体を発射して衝突させることで、隕石の軌道を変えて地球を守るという方法が考えられています。実際に宇宙空間で天体と人工衛星を衝突させる実験も成功済みだそうです。
惑星科学分野ではこのように未来を予測した研究を行う一方で、遠い過去のこと、例えば太陽系の形成についても研究が進められています。西尾さんは太陽系のような惑星系やその中の惑星・衛星の形成過程を明らかにしたいと考えています。規模の大きい研究なので、西尾さん1人で完結させるというより、様々な専門家と共に進めていくイメージで自分の専門分野に向き合っているそうです。
西尾さんは今後、博士課程後期課程への進学を考えているといいます。在学中の目標を伺うと、「微惑星という惑星の種のようなものから、どのように惑星ができるのかを理解したいです。そこから、どのように太陽系ができたのかを正しく理解することに繋げたいです」と話してくれました。
「スーパー惑星学科マン」を演じ、惑星学科の魅力をビジュアルと言葉で伝えてくれた西尾さん。読者の皆さんに自然科学や惑星科学分野への興味を持ってもらえると嬉しいです。
年明けに公開予定のvol.4では、経済学部の岡本さんに撮影秘話を伺っています。六甲台第1キャンパスを中心に撮影されたこちらのメインビジュアルもお見逃しなく!
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(文責:海洋政策科学部4年 佐伯)