
【卒業生ストーリー vol.2】農ある暮らしを伝える交流拠点を開業|遠藤 修作さん(2期生)
地域:神戸市 北区 ハ多町
事業:自然農を実践する交流拠点「magatama field」
これまでの歩み
〈学生時代〉滋賀の大学で環境生態学を学ぶ
〈卒業後〉 京都の環境学習施設「京エコロジーセンター」に勤務
2018.4 自身のやりたいことを求めて、神戸へUターン。「兵庫県立人と自然の博物館」に週4日勤務
2020.11 三田市の慣行農家にてアルバイト勤務(結果的に就農研修となる)
2020.9-2021.3 神戸農村スタートッププログラム受講
2021.6 同期生の拠点「HATA+BE+(はたび~)」にて「農ある暮らしを五感で学ぶプログラム」開始
2022.3 交流拠点「magatama field」が里づくり拠点施設に認定
2022.4 ハ多町の若手地域団体「どーんとハ多を楽しく元気にする会」に加入
2022.5 「農ある暮らしを五感で学ぶプログラム」をmagatama fieldで開始
2024.4 地元の消防団に入団
農ある暮らしを伝える交流拠点から多様なプログラムを発信
ハ多町の畑付きの空き家を整備した「magatama field(まがたまフィールド)」という交流拠点を運営しています。「農ある暮らしを五感で学ぶプログラム」という大人向けの年間プログラムを月1回行っていて、そこでは収穫したものを加工して衣食住に関する色々なものを作ったり、その日のテーマに合った環境や自然にまつわるレクチャーなどを交えて、参加者の方に自然と暮らしのつながりを伝えています。この他には、週3回は知人とともにオルタナティブ・スクールを運営したり、今年4月からは自分の企画として「里山アウトドアDAY」という月1回の親子向けプログラムも始めました。その他にも単発プログラムとして、電動キックボードを使った里山ツアーや、竹林整備をして竹細工を作るイベントなども実施しています。
また、週2日は三田市にある「人と自然の博物館」で働きながら、今年からは「magatama farm」の屋号で農家としてここで育てた野菜の販売も始めました。またハ多町の若手が集まった地域団体「どーんとハ多を楽しく元気にする会」のメンバーでもあるので、イベントを企画したり出店したり、団体として神戸市から委嘱されている農村定住促進コーディネーターの業務を行ったりしています。


事業プランがぼんやりとしていて受講をためらい、1年待って参加
大学では環境生態学を学んで研究者を志していたこともありましたが、その後「環境教育」という分野に出会い、自分は研究者というより自然について研究されたことをかみ砕いて人に伝えるような仕事をしたいと思うようになりました。人と自然をつなぐ「インタープリター」という役割があることを知って、大学卒業後は1年間ほど自然ガイドとして活動していました。その後に京都で働いていた頃から、いずれは生まれ育った神戸に戻って自然と人をつなぐような活動がしたいというイメージは持っていましたね。
そんな思いから2018年に思い切って神戸に戻ってきましたが、具体的な事業プランなどが描けていない中で、農業研修や「人と自然の博物館」での仕事などをしながら、2年後の2020年の農村スタートアッププログラム2期目に参加しました。実は2019年にはプログラムの1期目が始まり募集していたことは知っていたのですが、事業の方向性が定まっていないようなぼんやりとした状態で参加していいものか、迷いに迷って応募時期を逃して落ちました。(笑) 結局1年後に2期生として参加して、そこから今につながる活動が始まりました。

プログラムでの出会いが活動を後押ししてくれた
プログラム受講時もプランが定まっていないままでしたが、参加してからはトントン拍子だったと言えると思います。大きなきっかけは同期生の増田さん(増田幸市さん|神戸市西区押部谷町で都市と農村の交流拠点「HATA+BE+(はたび~)」を運営)をはじめ、江藤さん(デザイナー|2期生)や臼井さん(プログラムのコーディネーター|当初は2期生として受講)と出会ったことです。
増田さんが西区で始めようとされていた新しい拠点で、僕のやりたいようなプログラムをやってみないかと声をかけてくれて、その年の5月には「HATA+BE+」で「農ある暮らしを五感で学ぶプログラム」がスタートしました。「HATA+BE+」の拠点立ち上げやプログラムの始動などが重なって、同じような志向を持っていた臼井さん、江藤さんも加わり、一緒に活動するようになりました。またプログラム修了直後の3月には臼井さんからの声掛けで別のトライアルプログラムも実施したりして、それが自分で企画を作って提供したという初めての経験になったし、面白いと思いました。

その後も他の仕事からの縁で、以前から良い地域だなぁと感じていたハ多町の出張所の方とつながり、この「magatama field」となる空き家を紹介してもらって今に至ります。もちろん、実際の手続きとかは何から手を付けていいか分からないし、結構大変で思ったより時間もかかりましたが。
具体的な講義で言うと、ゲスト講師の森果樹園(淡路島)の方が、「ボトル型の加工品のラベルは1周回して裏面で貼り合わせる形状だとずれたりして貼り直しをしないといけないから、形状を工夫している」とおっしゃっていたのが、なぜかすごく印象に残っています。実は今それが活かされていて、野菜の袋に貼るシールも、角度がずれても問題ないように円形にしたんです。仲間である江藤さんにデザインを作ってもらうときには基本はお任せする部分が多いですが、「円形」ということだけは指定しました。

「その人らしい生き方」のきっかけを伝えたい
僕はやっぱり「伝える」ことが得意で、”何か”を伝えることで人がその”何か”に気づいて成長していくようなきっかけを与えたいという気持ちがあります。畑で単に野菜づくりを教えるのではなく、生き方につながるようなヒントのようなもの。
神戸は北区だけ見ても、ニュータウンもあり、里山もある。通える距離に里山があるというのは神戸ならではですよね。ニュータウンの人などに来てもらって、「そのひとらしい生き方」のヒントになるようなことを伝えたいという思いがあります。
この場所が出来てから、少しずつ自給的な環境を整えてきました。そこにあるものを使うことを大切に、敷地内の竹林から薪を作ったり、竹炭を畑に使ったり。草刈り機も充電式にして、ソーラーパネルで動力の一部を賄っています。あとはエネルギーや水も自給できたらいいかな。
ここでは自然農など生きものと共生するようなスタイルをなるべく実践していますが、「こんな生き方がよい」といった正解はなくて、多様な生き方があっていいと思っています。ニュータウンなどに住んでいる人がたまに来て、リラックスできたり、リフレッシュできるような・・・来る人の心の拠りどころのような場所になればと思います。


■インタビュアーPICK UP!
「magatama field」はとても広く、敷地が500㎡、畑が2反ほどある。その中で、勾玉型の畝のあるプログラム用の畑や、農家として効率的に栽培する畑、竹林、ハーブを育てるスパイラルガーデン、養蜂のための巣箱、20種類ほどの果樹など、暮らしにつながる多様な素材が存在している。私自身が遠藤さんの活動を拝見してきた中でも、拠点を始められてから約2年という時間の中で、遠藤さんの思い描く暮らしの知恵が、この拠点の中で形になり積み上げられてきているのを改めて感じた。地域との関係性づくりも、ひとつひとつ着実に一歩ずつ。農村でのビジネスにおける大切な視点を表している場所だと思う。
◆2024年9月~の神戸農村スタートアッププログラムの詳細はこちらのWEBサイトよりご覧ください。
文:臼井 綾香(コーディネーター)
写真:山田 真輝(コーディネーター)
〈取材日:2024年6月〉