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【卒業生ストーリーvol.8】地域おこし隊として活動後、農家として独立|千葉 涼さん(2期生)


これまでの歩み

千葉県生まれ。小学校4年生~高校まで姫路で育つ
〈学生時代〉大阪の大学で建築を学ぶ
〈卒業後〉 大阪でリフォーム会社の営業として勤務
2014 神戸市西区 岩岡町の農業法人「キャルファーム神戸」に所属
2019 千葉県にUターン
2019.10 神戸地域おこし隊(*)として着任し、神戸市西区玉津町の「ナチュラリズムファーム」に所属
2020.9-2021.3 神戸農村スタートッププログラム受講
2021.3 六甲アイランドの屋上貸し農園「シェラトンファーム」を農家としてサポート
2022.5 西区・西神中央で開催するマルシェ「ウェルアベニューマルシェ」に出店
2022.10 神戸地域おこし隊の任期を終え、農家として独立
 
*神戸地域おこし隊:北区・西区の里山・農村地域の活性化を目的とて神戸市が2019年度から導入している独自制度。兵庫県外からの移住者が「隊員」となり、最長3年間、神戸市の里山・農村を中心とする地域で地域おこし活動を行っている。


農薬不使用の野菜を栽培。農家仲間とグループでも活動

 神戸市西区の岩岡町と神出町で畑等を借りて、農薬・化学肥料を使わない農業をしています。岩岡町で畑2反(1反=約1000㎡)とビニールハウスを1棟、神出町では畑3反を借りています。農家仲間のクリスの経営する農家カフェ「C-farm」や、知り合いの八百屋、兵庫県で9店舗(2024年10月現在)を展開するスーパーマーケット等に取り扱ってもらっています。
 
 神戸地域おこし隊として所属していた西区・玉津町の「ナチュラリズムファーム」で研修をしていた農家仲間と一緒に「KOBE Agrelation(コウベ アグリレーション)」というグループを組んで活動もしています。兵庫県庁の職員の方向けにCSA(*)で野菜を販売したり、プログラム3期生の倉内さん)が行っている「ベジバス」(神姫バスの既存路線に野菜を載せて都市側へ届ける事業)にも関わったりしています。

*CSA(Commumity Supported Agriculture):消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業の仕組み

 グループで活動するメリットは、例えば10品目の野菜セットを作ろうとしたとき、ひとりだと多品目を栽培するのはなかなか難しいけれど、グループだと野菜を持ち寄って販売できます。また、クリスが主導的にメディア関係のことをやってくれたり、栽培の悩みが相談できたり、横のつながりが比較的少ない新規就農者からすると、色々とメリットがありますね。

ビニールハウス内での栽培の様子
千葉さんの畑

自然が好きで、興味のあった農業に転職

 母の実家が静岡の下田という田舎で、おばあちゃんの家の裏山にサワガニがいたり、おじいちゃんが鶏を飼っていたりしました。そういうのが原体験としてあって、子どものころから自然が好きでしたね。大学で建築を勉強していたのでリフォーム会社に就職をしましたが、その頃から農業には興味を持っていました。入社して5年後に同僚に誘われて、沖縄で開催された「自給自足キャンプ」というのに参加したんです。食育を意義として、お金にも過度にとらわれず運営されていたんですが、なんかそれが楽しそうだったんですよ。もともと農業に興味があったし、キャリアの限界がなんとなく見えていた会社にずっとい続けるイメージもなかったので、会社を辞めました。そのときは結婚もしていなかったし、「ひとりならお金がなくてもやっていけるかな」くらいの感じでしたね。

 それで、農業の求人サイトで見つけた西区の「キャルファーム神戸」に転職しました。神戸を選んだのは、当時住んでいた大阪と、小学校から住んでいた姫路の中間くらいならちょうどいいかな、という感覚でした。働き始めると、雰囲気が気に入ったのと、農業もすっかり好きになりましたね。その後、事情があって一時期実家の千葉に帰りましたが、「ナチュラリズムファーム」の大皿さんに紹介してもらって、2019年10月に地域おこし隊として神戸に戻ってくることになりました。

ハウスと畑の様子
平坦な土地が多く、空が広い景色が西区らしい

地域おこし隊として活動しながらプログラムを受講

 地域おこし隊は、ナチュラリズムファームで農業を絡めた地域おこしの仕事を週4日間行い、残りの日で、任期終了後の独立準備をするようなスタイルでした。神戸市が地域おこし隊の制度を立ち上げて最初の隊員が僕だったので、探り探り活動を進めていきました。
 そんな中で着任から約1年後に参加したのが、神戸農村スタートアッププログラムでした。参加動機はナチュラリズムファームの大皿さんが運営に関わっているというのが大きかったですが、結果的には参加してよかったなと思います。これから農家になりたい人とか色んな職業の人の話も聞けましたし、フィールドワークで訪問したカフェのブランディングやロゴづくりの話も印象に残っています。僕も最近「チバファーム」のロゴを作ったんですけど、そのシールを野菜に貼ってマルシェで販売したら、いつもより売上が上がったんですよ。

 また、プログラムの参加後に始まった「シェラトンファーム」と「ウェルアベニューマルシェ」には、今でも関わっています。「シェラトンファーム」は、東灘区の六甲アイランドの商業施設の屋上を使った貸し農園で、利用者さんが区画を借りて野菜などを育てます。僕は月2回行って、利用者さんのサポートや木枠の補修といった維持管理などをしています。「ウェルアベニューマルシェ」は西区の西神中央で毎月20日に開催しているマルシェで、事務局のスタッフとして参加しています。

ウェルアベニューマルシェの様子
ウェルアベニューマルシェは野菜や飲食、雑貨などのブースでにぎわう
チバファームのロゴ
チバファームのロゴはひと目で千葉さんの顔だと分かる

うまく言えないけれど、やっぱり農業は楽しい

 独立して3年目に入りますが、やっぱり経営的に厳しいことも多いです。でも今年に入ってビニールハウスも借りられたし、野菜の栽培の他にもシェラトンファームや食品残渣のリサイクル事業の仕事もしたりして、最近になってようやく安定してきました。どの時期に何を育てるといったことも明確になってきたので、来年くらいにはパートさんを雇って梱包出荷を手伝ってもらおうかと考えています。
 農業経営に関して、僕は地域の営農組合などに入っていないこともあって、横のつながりがあまりありません。なので、マルシェに出て他の生産者さんと話すのは楽しいです。種の蒔き方とか、栽培方法とか。「EAT LOCAL KOBE」のファーマーズマーケットなんかは10年前から通っている常連さんもいたりして、そういう人と世間話ができるようになるのも楽しいですね。
 農業って仕事として考えるとしんどいのかもしれないけど、10年もやっていると、それも含めて「生活している」みたいな感覚かな。やっぱり家庭を軸にどうにかしていかないといけない。もともとはあんまり有機とかこだわりはなかったんですけど、子どもが出来てからは無農薬のものを食べさせたいな、と思うようになりました。純粋に「自分で育てたものを食べる」っていうのは楽しいもんですよ。

■インタビュアーPICK UP!

 農業の魅力をお聞きすると「人と一緒に働くのが嫌いなんで。」と笑いながら答えてくれた千葉さん。一方、「都会に疲れた、みたいな感じで希望をもって農業に入ってくる人は続かない人が多い。あまりコミュニケーションを取らないで済むかと言うと、農業の方が近所の人とかとコミュニケーション取らないといけない。そういう人は駅前にマンション借りて住んだ方がいい。」とも。
 千葉さんが醸し出す、肩ひじ張らない脱力感。「別に僕、こだわりとか志とかないんですよ」と冗談めかして言ってくれたが、それこそまさに長続きの秘訣ではないかと感じた。「農業を含めて生活の一部」という言葉は、年月を経た実体験のある方にしか理解できない感覚だと思う。千葉さんの淡々とした姿勢は、都会的ないわゆる”スタートアップ”とは違う”農村スタートアップ”のひとつの見本になる気がした。

◆2024年9月~の神戸農村スタートアッププログラムの詳細はこちらのWEBサイトよりご覧ください。

文:臼井 綾香(コーディネーター)
写真:山田 真輝(コーディネーター)
〈取材日:2024年10月〉


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