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【卒業生ストーリーvol.7】農村の価値を伝える一棟貸し民泊を開業|吉田 彰さん(2期生)

  • 地域:神戸市 北区 大沢町

  • 事業:築100年の古民家を改装した一棟貸し民泊施設「一十土(いっとうち)」

  • URL:https://www.airbnb.com/h/ittochi


これまでの歩み

徳島県生まれ。広島の山間地域の大学へ
卒業後、東京の会社にシステムエンジニア(以下SE)として勤務
2014 全日制の英語学校に勤務しながら英語を学び、その後ロサンゼルスへ短期留学
2010 神戸に移住し、大手重工メーカー子会社にSEとして勤務
2018 東京へ異動。地方での生活を考え始める
2020.2 神戸地域おこし隊(*1)として着任し、「(株)北神地域振興」に所属
2020.9-2021.3 神戸農村スタートッププログラム受講
2022.9 民泊施設「一十土」を開業
2023.1 神戸地域おこし隊の任期満了
2024.4 丹波市「地域伴走型支援者」として活動(~2024.9)
2024.10 「循環葬®︎ RETURN TO NATURE」(*2)フォレスターとしてジョイン

*1 神戸地域おこし隊:北区・西区の里山・農村地域の活性化を目的とて神戸市が2019年度から導入している独自制度。兵庫県外からの移住者が「隊員」となり、最長3年間、神戸市の里山・農村を中心とする地域で地域おこし活動を行っている。
*2 循環葬®︎ RETURN TO NATURE:亡くなった方の遺骨を森に埋葬して、収益の一部を森林保全にも役立てていくサービス


民泊経営を核に、里山の魅力を発信

 築100年の空き家だった物件をリノベーションした民泊施設を運営しています。一棟貸しで定員は8名、庭ではBBQができます。「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」やアウトレットモールやイオンモールからのアクセスもよい場所ですが、にぎわいから離れた場所にポツンと立っていて、周りは里山に囲まれています。夏休みなどのハイシーズンは連日多くの人に宿泊してもらえるようになってきました。その他にもレンタルスペースとして、企業のミーティングや撮影場所として利用してもらっています。
 今年の10月からは、神戸農村スタートアッププログラムが縁で知り合った3期生の小池さんと正木さんが始めた事業「循環葬® RETURN TO NATURE」のフォレスターとして参加しています。(フォレスター:会社独自の役割名称。森の管理、お客様対応、イベント企画等を担当。)

民泊の中でインタビューする様子
一十土の外観
瓦屋根の下には茅葺きが残っており、建物内から見ることもできる

街から近い神戸農村地域は理想的な移住先だった

 社会人になってから海外へ短期留学したあと、徳島に住んでいたときには遊びに行ったりして、なんとなくおしゃれでいいイメージを抱いていた神戸に移住しました。でもその時は垂水区や中央区など、農村ではなくて街側に住んでいました。その後、会社の都合で東京に異動になりましたが、都会の生活に疲れてしまって。全国的に地域おこし協力隊などの募集が盛んだったこともあって、地方移住を考えるようになりました。そんなときに神戸の地域おこし隊の募集を見つけて、すぐに説明会に行ったんです。
 そのとき、神戸市の職員さんの案内で北区や西区の数カ所を見学に回らせてもらったんですが、それまで農村エリアのイメージなんて全くなかったです。有馬温泉より北側はほとんど来たことがなくて。国の地域おこし協力隊の制度を使っている地域はもっとアクセスの悪いところも多いけど、大沢町みたいに街の中心部から車で30~40分でこんな里山があるという条件は理想的でしたね。

 2020年1月に地域おこし隊として着任して、「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」内で直売所と食堂を運営している「FARM CIRCUS」にて、広報や新規イベント業務を担当しました。それ以前から自転車を組んで販売したり、自分も乗っていたりしたので、当初はサイクリングを活かして農村ツーリズムに取り組むことが地域おこし隊のミッションでした。でもちょうどコロナ禍になってイベントも思うようにできない状況になったため、イチゴ狩りが出来なくなって大量廃棄の危機にあったイチゴを買い取ってデザートに加工するためのクラウドファンディングをしたり、サイクリングマップの制作やサイクリングツアーをしたりと、低空飛行で焦らずに継続していた感じです。

大沢町で実施したサイクリングツアーの様子
ファームサーカスを臨む景色
「一十土」から元職場の道の駅が見え、アクセス性の良さを感じさせる

プログラムは「農業じゃない農村の活動」が生まれる場

 民泊で使っているのは、もともと地域おこし隊に着任したときに住居として紹介してもらった空き家物件です。いい環境だし、民泊をやれたらいいな、というイメージは当初からぼんやり持っていました。
そんな中で、「任期終了後に起業をするなら行ってみては?」という北神地域振興の高山社長の勧めで、2020年9月から神戸農村スタートアッププログラムを受講しました。農村ツーリズムの一環として、自分がツアーガイドとして自転車で町を案内して、民泊に泊まってもらうのとセットで事業化していきたいと思っていました。
 プログラムで、西区の交流拠点施設「HATA+BE+(はたび~)」を立ち上げようとしていた同期の増田さんと出会って、その後西区でもサイクリングの活動をしたりしました。移住して地域に入ると年齢が上の人が多いので、プログラムで「今から何かをやりたい若い人がこんなにいるんだ」というのを初めて知って、増田さんの他にも色んな人とつながれたのが大きかったですね。一般的には「農村=農家」というイメージが強いけど、農業以外の色んな活動の場がプログラムで生まれている気がします。

自転車の置物
鳥小屋と鶏
プログラム5期生の養鶏家さんから譲ってもらったという鶏

 民泊事業は、神戸市と兵庫県の助成金の情報を得て、地域おこし隊の任期2年目の2021年夏くらいにそれぞれに相談に行きました。はじめはその翌年度に活用するつもりだったのですが、相談してみると次の年は予算次第で助成金自体があるかどうかが分からない、と知って。9月から急ピッチで建築家や地元の工務店さんと相談して、なんとかその年度の1月から工事に入って、3月に建物は完成。その後、民泊施設としての許可申請などを行って、無事2022年の9月に開業できました。結果的には、地域おこし隊の任期が終わる前にスタートできてよかったです。
 当初は地域の人に1泊の料金を3万円だと伝えると、「そんなに取るんか?そんなんで人来るんか?」と言われました。でも今は5~6万円の設定でお客さんが来てくれています。価値を届ければ、ちゃんとした値段を払って満足もしてもらえると思います。

破風の水の文字
歴史を感じさせる破風の「水」の文字

「野菜を売らない農家」になって 農村の価値をマネタイズしたい

 民泊はまだ、本来目指したかった使い方にはなっていません。今でも一定のお客さんは来てくれていてありがたいのですが、常にブラッシュアップをしていきたいです。最近あまり出来ていない、ツアーガイドとして「農村の良さを伝えたい」というのがずっとあります。農村には都会にはない面白いものがたくさんある。それをどうやって発信して、見てもらって、マネタイズしていくかは永遠の課題ですね。民泊にどう付加価値をつけて、人とお金を回していくか。最近は海外からの問い合わせも少しずつ来ているので、案内していけたらいいですね。
 農村で暮らしていると、やっぱり畑をやりたいんです。自分の食べ物を自分で作るって豊かだなぁと感じて。でも、野菜を採って売るんじゃなくて、畑をきっかけに都市の人が農村とダイレクトにつながるような体験を売りたい。泊まりに来た人が収穫体験をしたり、コワーキング利用の休憩時間にトマトやきゅうりを採ってご飯に一品加えたりとかができるといいですよね。「野菜を売らない農家」を目指しています。

田んぼ
近くの田んぼで米づくりなどにも取り組んでいる
インタビューに答える吉田彰さん

■インタビュアーPICK UP!

 吉田さんは、神戸市や大学と連携して放置竹林といった課題にも取り組んでいる。移住当初から施設周辺の竹藪をご自身でひたすら整備したりと、その行動力は目を見張るものがあり、みるみる場所が進化していくのを拝見してきた。その姿勢につながることを取材中にお話されていた。
 「里山は、人の手が入らなければ悪くなっていくもの。竹を切れば活動範囲が広がっていくし、草を刈れば見晴らしが良くなっていく。同じように大沢町の人たちともつながって田舎に入り込んでいくほど、生活がより楽しくなる実感がある。」
 ご自身もお話されていたが、SEとして都会的な暮らしをしてきたからこそ田舎の良さが見え、それを価値にしていくバランス感覚を持てるのだと思う。自身が地域に入り込みながらも、良い意味で外側からの視点を持っていることが、農村ビジネスに大切なことのひとつだと、改めて感じさせてくれた。

◆2024年9月~の神戸農村スタートアッププログラムの詳細はこちらのWEBサイトよりご覧ください。

文:臼井 綾香(コーディネーター)
写真:山田 真輝(コーディネーター)
〈取材日:2024年10月〉


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