【卒業生ストーリー vol.3】暮らしと農をつなげるマルシェを運営|山中 貴代美さん(1期生)・香川 麻衣さん(3期生)
地域:神戸市 北区 山田町
事業:「ふたごやまマルシェ」
おふたりは1期生と3期生で別々の時期に受講したものの、その後「神戸ネクストファーマー制度(*)」の農業研修で出会い、現在はそれぞれの活動をしながら、共同で月1回開催のマルシェを運営されています。会場は神戸市の中心部に位置する神戸市営地下鉄「三宮駅」から電車で約10分の北区の玄関口「谷上駅」の目の前。
今回はそれぞれの歩みから現在の取組みに至るまでのお話を伺いました。
*神戸ネクストファーマー制度…2020年に創設した神戸市独自の農業研修制度。従来よりも短時間の農業研修(合計100時間程度)を受けることで小規模な農地を借りることが可能になり、多様な農業の形を広げるために運用が図られている。
これまでの歩み
■山中さん
〈以前のお仕事・活動〉
看護師(病院)→ 保健師(子育て支援)
新生児訪問や地域の子育てひろば運営
有機農業を学び、畑の子育てひろば「きたっこのらふぁーむ」をスタート
2019 「EAT LOCAL KOBE」のファーマーズマーケットで様々な農家さんと出会う
2019 神戸農村スタートアッププログラムを受講
2020 「農とくらしのワークショップ のらふぁーむ」をスタート。「暮らしと農を近づける」活動を行う
2023 神戸ネクストファーマーのスクール修了、「ふたごやまマルシェ」開始
■香川さん
〈以前のお仕事〉
約10年間、ウェディングフラワーコーディネーターとして働く
2020 コロナ禍で結婚式やイベントの中止や延期が続き、働き方を考え直す
2021 神戸農村スタートアッププログラムを受講
2023 神戸ネクストファーマーのスクール修了、「ふたごやまマルシェ」開始
2024 新規就農予定
― マルシェの活動について教えてください。
山中さん:2023年9月から月1回、谷上駅前のイベントスペース「いろどりBASE谷上」で「ふたごやまマルシェ」を運営しています。マルシェには毎回色んな農家さんや地域のコーヒー屋さんやお菓子屋さんに出店していただいています。
香川さん:事務関係や出店者さんへの声掛けは主に山中さんが、私は広報関係でフライヤーの制作やインスタでの発信を主に担当しています。
― それぞれ別々の時期にプログラムに参加されていますが、どのような思いで参加されたのでしょうか。
山中さん:私は元々プログラムに参加する前、2019年くらいからEAT LOCAL KOBE(三宮・東遊園地を拠点に毎週土曜日に開催されているマルシェ)に行って色んな農家さんとお知り合いになり、北区のお野菜をあまり北区で買えないことに違和感を覚えたんですよね。もっと北区の人が農に目を向けるような機会を作りたいな、という思いをその頃から抱くようになりました。
同じ頃にたまたまSNSでプログラムのことを知って受講を決めて。その頃には北区でEAT LOCAL KOBEみたいな取組みをやりたいと思い描いていました。プログラムを受講しながら、その構想について頻度とか、やっぱり継続した方がいいかな、とか考えて、具体化していくことになりました。そこからつながって生まれたのが、「農とくらしのワークショップ のらふぁーむ」です。
香川さん:私はそれまで大阪や神戸の都会の方で働いたり、海外へワーホリに行っていたりしたんですが、労働時間とか含めて働き方を見直したいと思っていたんです。そんなときに、たまたま淡河宿本陣跡(淡河町にある江戸時代から残る建物を改装した複合施設)でプログラムのポスターを見かけて「行きたい」と直感的に思ったんですよね。コピーが「神戸農村で新しい未来を創る人のためのプログラム」というところにピンときた気がします。出身だった北区もいい場所だな、と感じ始めていたこともあってすぐに受講を決めました。
そのときは農業を志すことになるとは思ってもいませんでした。受講を始めてから2か月も経たないうちに、同期生だったクリスさん(稲垣将幸さん|農家カフェを開業)が就農研修されていたナチュラリズムファームさんに通って作業を手伝うようになったんです。そこで代表の大皿さんから有機農業のことを教えてもらって、その考え方にすごく惹かれたんですよね。プログラム終了後すぐにネクストファーマーの農業研修を始めました。
― すごい勢いですね。そんなおふたりがどういった経緯で一緒にマルシェを始められたのですか?
香川さん:出会ったのはネクストファーマーのスクールですね。私が1期生、山中さんが2期生として参加していて、半年間2つの期が重なる期間があったんです。そのときに、それぞれが神戸農村スタートアッププログラムを受講していたことは知ったものの、特によくしゃべる間柄というわけではなかったですね。
山中さん:マルシェをやろうと声を掛けたのは私です。谷上駅前にイベントスペースがオープンすることを知って、以前からやりたいと思っていたマルシェをやってみようと思ったとき、ひとりじゃなく誰かと一緒にやりたいな、と真っ先に思い浮かんだのが香川さんだったんです。というのも、研修を受けていた頃、いつも一番前の席に座って積極的に質問するかっこいい先輩がいるな、と印象に残っていて。北区にお住まいというのもあって声を掛けさせてもらいました。
香川さん:最初、喫茶店で話をしたその日に「ふたごやまマルシェ」という名前が決まったんですよ。ふたごやまというのは谷上駅近くにある山で、のらふぁーむをやっている畑の近くの谷上小学校の校歌にも出てきたり、私が通っていた箕谷小学校の校章にもなっていて、ふたりでこれだ、となりました。マルシェにはそのくらい前向きな気持ちだったんですけど、その時は山中さんが何人か声掛けしている中のひとりかな、くらいで思っていたんですよ。まさかふたりだけとは(笑)。
― その話から2か月後という短期間で、第1回目のマルシェを始められました。その時点で月1回開催で継続することを決められていて、今も継続されています。
山中さん:私は勢いで突っ走っちゃうタイプで。最初は出店者さんを集めるのに苦労したりもしたし、これからもお野菜の収穫の少なくなる端境期などはなかなか出店が難しいこともあると思います。でも、当初一旦の区切りとしていた年度末の時点でこれで止める、という発想はあまりありませんでしたね。それまでに止めるのがもったいない場所に育ってきていましたから。これまで農業にあまり目を向けていなかっただろうお客さんが定着して通ってくれたりもしていたんです。2019年に元々思い描いていた「農と人をつなげる」ということが実現されてきていました。
香川さん:私はマルシェを始めるまで農家さんとのつながりってほとんどなかったんですが、継続する中で、農家さんとのつながりが広がっているのが嬉しいです。有機農業に対して同じ考え方を持っている仲間というか。私は有機栽培で花を育てているんですけど、「オーガニックフラワー」って言っても、あまり理解してもらえなかったんですよね。「なんで食べるわけでもないのにオーガニックなの?」っていう反応が多くて。でもここで出会う農家さんには始めからすっと受け入れてもらえることが多いです。たぶん、有機農業の「搾取しないされないフェアな関係」だったり、「全ては繋がっていて切り離して考えることはできない」という考え方の部分が同じなんだと思います。
― 集まる人の共感で場が育てられている感じが伝わってきます。これからやりたいことはありますか?
山中さん:今年度は農業にまつわる映画会をしたいな、と思っています。今年2月には神戸大学の名誉教授である保田先生を招いた有機農業についてのお話会をしたり、また来月7月にはワークショップを取り入れたりする予定で。マルシェだけだとゆっくり過ごしてもらうっていうのは難しいから、マルシェだけでない「よりじっくりと暮らしと農について伝える機会」を作っていきたいと思っています。
「暮らしと農がつながってほしい」というのは変わらなくて、それをするにはどうすればいいだろう、そこを間違わないようにしないといけないな、って思って、考えながらやっています。
■インタビュアーPICK UP!
おふたりを表す言葉はまさに「行動力」。ファーマーズマーケットにお客さんとして行ったところから農家さんなどのお知り合いを増やし、活動につなげられてきた山中さんと、有機農業に惚れ込んだ勢いそのまま、プログラム受講開始1か月半で農業の手伝いに行き、農業研修を経て来年新規就農予定の香川さん。「プログラムで出来たつながりから活動が広がった」と語ってくれたが、それを具体的な活動に結び付けられているのは、やはりおふたりの行動力はもちろん、継続してもぶれない、芯のある思いに周囲が巻き込まれたくなるような魅力があるからだと感じた。
◆2024年9月~の神戸農村スタートアッププログラムの詳細はこちらのWEBサイトよりご覧ください。
文:臼井綾香(コーディネーター)
写真:山田 真輝(コーディネーター)
〈取材日:2024年6月〉
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?