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【777文字エッセイ】ドアギワに116
腕を交差させた。
削られたフィルムから光線が示される。
侵略者は、塵になった。
あの時代のように象徴となるヒーローは、もういない。
消える年金、上がり続ける物価、そして、社内で火を噴くクッパ。
明日とは、どこにあるのか。
降りしきる雨、乗客たちは結露に気付くこともなく、四角い液晶画面を見つめ続けていた。
*
敬愛する尾崎豊はイヤホン越しに魂のお叫びをあげる。
「サラリーマンにはなりたかねぇ朝夕のラッシュアワー...」
乗りたくない思いを押し殺し、すし詰の電車に足を踏み入れた。
見たところ乗車率は約150%。
洗濯機からはみでる衣類のような肢体。
「ドアが-閉まります」
無機質な駅員の声をかき消すように、警報音が鳴り響いた。
そのとき、鈍い痛みが左腕に走った。
ムニュウ、ムグゥ、ギニュウ、トクセンタイ
*
閉まるドアに容赦はない。
まるでハンバーグを挟むかのようにぷにたんな上腕二頭筋をサンドイッチした。
軋むような痛みが、肉を噛みちぎる。
20年前に思いを馳せて、さつまいもを引っこ抜くように力を入れた。
ゼリー状のぷにたんは、解放されたが、まだ終わらない。
服が絡め取られたままだった。
カッターシャツを咥え込むドアが、食虫植物のように見えてくる。
「これが新手の緊縛プレイか。
もういい、このまま次の駅まで過ごそう、ドアとランデヴーも悪くない」
そう思ったそのとき、ドアがミシミシと音を立てた。
それは2つ隣の立っていた青年の指だった。
青年は全身全霊を指先に込めて、ドアを開けようとしてくれているのだ。
そこまでしなくていいのに…
もっと自分の指を大事にしてくれ…
青年のか細い指が紅潮すると同時に、ドアは数ミリ宙に浮いた。
首輪が解かれた犬のように飛び出してくる服。
しかし、青年に感謝の気持ちを伝えようにも、満員電車では言葉を伝えられない。
何かないものか。
そうだ。
自由を得た左手を伸ばして、結露した窓に魂を伝える。
116
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
この作品は、電車シリーズ第二弾です!
(第一弾はこちら)
最後の116には、ヒーロー、HEROという意味を込めました。
世の中には、いろいろなヒーローがいるけれど、案外自分のそばにヒーローはいるよね、というお話です。
HEROといえば、キムタクのドラマ(あるよ、の田中さんが好きでした)や、甲斐バンドを思い出しますね!
本当は別のラスト(実話)だったのですが、「引き算」の表現を意識して、116で締めてみました。(116のオチはフィクション)
説明して終わるより、116で読者の皆様に想像していただければいいなと思いまして。
結露した窓に116と書いた。より、魂を伝えた。という風にしてみました。
それと、もうひとつのこだわりは、
ムニュウ、ムグゥ、ギニュウ、トクセンタイ
というところです。
ここは、本当にくだらなく、無駄な一文です(笑)
しかし、ギニュー特戦隊は世界で大人気の漫画「ドラゴンボール」のファンにとってはたまらないキャラクターですので、さりげなく入れてみました。
AIが文章を書くといわれる時代、人間がAIに勝つには、このように「無駄」なウィットを詰め込むしかないと思うのです。
「社内で火を噴くクッパ」これもAIには書けないはずです。
これは、若手サラリーマンなら誰しもが経験する、理不尽にキレる上司への怒りを書き換えてみたものです(笑)
(この言葉はnoteクリエーターのMAXさんから教えていただきました!)
さらに、今回の本編は777文字です!
Wardで数えました(笑)
読んで頂いた皆様に「777」幸福が訪れる思いを込めています!
そして、もうひとつクライマックス(実話)はこちらです。
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彼は、俺を助けるために、指でドアを開けてくれたのだ。
「ありがとうございます」
すると彼は、にっこりとはにかんだ。
その笑顔はどんな女の子よりもかわいかった。
ずきゅうん。
結婚するなら彼みたいな好青年だ。
「サラリーマンにはなりたかねぇ朝夕のラッシュアワー...」
そんな考えを、ほんの少しだけ考え直した。
あと、5年。下積み時代だと思って、頑張ってみよう。
雨が上がった空には虹がかかっていた。
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どちらのクライマックスがよろしかったでしょうか。
本編の方は余韻を大切にしてみました。
今後もみなさんに楽しんでいただけて、気付きがあるような作品を書いていきますので、よろしくお願いします。
☆全ての社会人に捧げる、一度終わった男の再生譚☆
戦力外通告を受けたプロ野球選手を描く小説も書いています。
↓よければ読んでみてください^^↓
(現在、最終回までのプロットをじっくりと練り上げています。第二話は、夏の甲子園開幕と共に公開予定です!)
ツイッターもやってます!ほっこりすること、素敵な人との出会いを呟いたり、懐かしの名曲を弾き語ったりしています!
それと、最後に小ネタを少々。
尾崎豊「サラリーマンにはなりたかねぇ朝夕のラッシュアワー...」
この歌は、Bow!という曲を引用しましたので、尾崎がこの歌に込めたメッセージを伝えさせていただきます。
否が応でも社会に飲み込まれてしまうものさ若さにまかせ 挑んでくドンキホーテ達は 世の中のモラルをひとつ 飲み込んだだけでひとつ崩れ
↑ドン・キホーテはスペインの作家、セルバンテスの小説です!その感想はこの記事です!
夢を語って過ごした夜が明けると 逃げだせない渦が 日の出と共にやってくる 。中卒・高卒・中退 学歴がやけに目につく 愛よりも夢よりも 金で買える自由が欲しいのかい
尾崎豊は、学歴社会に疑問符をつけ、社会に飲み込まれてしまうことを嫌っていたのかもしれません。
若さにまかせ 挑んでくドンキホーテ達。
自分自身がそのような挑戦者になれているのか、再度考えてみたいですね!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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