10歳の時に初めて神戸の親戚宅を訪れました。朝目覚めるとパンの香ばしい匂いが鼻をかすめました。「都会の朝だ」。そう感じたのを今も忘れません。長年、神戸に暮らしていると日頃はパン店の多さをあまり意識しませんが、総務省調査などによると、平均消費量、支出額ともに日本一を記録する街であることは確かです。さらに、日本最古のベーカーリーの開業の地でもあります。
「パン派? ご飯派?」と聞かれると、「ご飯派」と答えてしまう私ことド・ローカルですが、パンも大好きです。そんな神戸には数多くの「パン伝説」があります。フランスパンを日本に広げた職人、吉田茂元首相が自宅(神奈川県大磯町)へ毎週のように届けさせたという逸品のパンを作った職人…。そんなパン伝説を訪ねました。
フランスパンの神様 フィリップ・ビゴさん
ビゴさんの講演会に行ったことがあります。流ちょうな関西弁を駆使して職人としての哲学やフランスの食文化を紹介。日仏文化交流の懸け橋にもなっていました。育てた職人は150人を超えるといいます。2003年にはフランスの最高勲章とされる「レジオン・ドヌール勲章」に輝き、15年に芦屋市民文化賞、17年には厚生労働省が卓越した技能者に贈る「現代の名工」にも選ばれました。
神戸屈指のドイツパンの店「フロインドリーブ」
明治の開港を機に、世界に門戸を開いた神戸。港は欧米文化を取り入れる窓口となり、まちは「文明開化のショーウインドー」となりました。コーヒー、紅茶や洋菓子などと同様、パンも外国人によってもたらされた文化で、開港翌年の1869(明治2)年には、外国人居留地内に英国人、フランス人が経営する2軒のパン店があったとの記録が残されています。
1905(明治38)年に創業したのが藤井パン(現ドンク)です。大阪出身の創業者が三菱重工神戸造船所近くに店を開き、外国人技術者や日本人客を相手にパンの販売を始め、戦後三宮に出店して人気店となりました。1960年代にはフランス人技術者たちによる本場の指導を受け、本格的なフランスパンの製造販売をスタートさせました。
大正時代に入ると、さらにパン食文化が浸透し、昭和初期にかけて新しいパン店が続々と神戸に開店しました。
こうした歴史背景やパンへの出費を惜しまない市民性にも関わらず、神戸独特のパン文化が外向きに発信される機会はほとんどありませんでした。市民から「パン文化を生かしたまちづくりをしてはどうか」との意見が寄せられ、神戸市は神戸のパンの魅力発信事業を模索。市内でも特に人気ベーカリーが多い中央区内には老舗から新店まで約60店が存在することが分かり、2013年に「KOBEパンのまち散歩」というイベントが立ち上がりました。その後、神戸に根付くパン文化を研究する「日本パン学会」も誕生しました。
<ド・ローカル>
1993年入社。総務省の家計調査(2人以上の世帯)によると、神戸市の食パンの支出額は、2017~19年の平均で年間1万2256円と全国トップ。一方、消費量は全国5位にとどまります。昨今では、高級食パンブームも相まって、中央区を中心に高級食パンの専門店がひしめく激戦区となっています。
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