THE HIGH BEATS 2024 〜最後の演奏〜
毎年1回か2回、 THE HIGH BEATSの練習会と称して、東京や横浜でスタジオ演奏をしてきました。
その当時使っていた私の手帳の最後のページに「2020/10/20」と書いてあります。2019年の演奏後の飲み会で、カレンダーをにらみつつ来年はいつ集まろうかと相談した結果、この日がよかろうと決定したものです。
翌年にコロナの蔓延という大騒動が起こり、一切の移動や外出さえも制限を受けました。
それから4年が経ち、メンバーの一人で八王子在住のポンが神戸へ来て喫茶店に立ち寄ってくれました。
夜は一緒に飲み、演奏会が中途半端に終わってしまった状態が残念だという話にもなりました。
しかしメンバーの平均年齢は80歳近くです。訃報は受け取っていないにしても健康状態はわかりません。とりあえず楽器演奏は無理だとしても、連絡は取ってみようということになりました。
翌週、ポン発信の一斉メールが届きました。そして、それに対してドラムの哲ちゃん(横浜)、ベースのタカハシクン(千葉)から返信があったのです。
二人とも癌や心臓病などで何度も手術を重ねてきたようですが、もう一度音を出したいという気持ちが強く、ぜひとも参加して演奏をしたいという返事でした。ただし、たぶん演奏はボロボロでしょう、と。
それは誰しも同じで、4年のブランクは別としても、まともな演奏ができるとは思っていません。その結果、2024年5月16日に、哲ちゃんの体力を考慮して横浜での再会が決定しました。
せいぜい10曲もできればいいかということで、4人の意見が一致して選曲もスムースに決まりました。
スタジオは「ららぽーと横浜」。予約は哲ちゃんにお願いしました。私はビジネスホテル2部屋を(飲んでから家に帰るのが嫌なポンのために)予約し、1週間前に新幹線も予約しました。
追い込まれるまで動かないという私の性格で、ギターを触り始めたのはあと1か月となるあたりからです。左手の指先は柔らかくなまってしまい、握力も落ちています。右腕は肩の腱が切れたままで重いものは持ち上がりません。リズムギター担当なのに弦を抑えることができず音は途切れるし、右手はまともにリズムをカッティングできない状態です。内心えらいことになったワイ、と思いつつ毎日一定の練習時間を課した結果、なんとかCDを流しながら合わせることができるようになりました。
そして、2024年5月16日を迎えます。
「ららぽーと横浜」は10年以上前に来たことがあります。やはり練習会のプレーヤーだけの集まりでした。鴨居駅から北へ10分と記憶していたのが結構かかりました。着くのが早すぎたので館内をゆっくりと回ってみました。ちょっと変則的な形で南北に巨大な施設です。3Fと屋上駐車場がありエスカレーターが設置された丸い吹き抜けが大小4か所あります。午後2時前に島村楽器へ行き、全員が顔を合わせました。
まずはお互いの健康状態と体力などチェックです。
哲ちゃんは両足の踏ん張りがきかないため、バスドラとハイハットが無理なので、ドラムとシンバルを両手だけで叩くことを確認しました。
タカハシクンは左手がやや不自由ですが特に差支えはなさそうです。
結局年長者のポンは無傷に近いし、私も特に問題はなく大丈夫だろうと思われましたが、これは大きな思い違いであることが判りました。
チューニングも終わり、さて何から始めようかとなりましたが、事前に決めていた10曲の順番は決めていませんでした。それぞれが思いつくままに曲名を言ってとりあえずは演奏を始めました。
私がはっきり認識したのは、一人で練習しているときは何とかなると思っていたのに、このザマはなんだ、ということでした。指が勝手に動いてテンポは乱れてずれてくるわ、押さえるフレットを間違えて異音を出すわと散々です。
みんなやはりそんな感じがあったようです。何とか10曲を流し終えたら1時間もかかっていました。
一休みして気を取り直して2回目に挑戦です。
今度はさすがに流れができてきました。しかし私の握力は限界に近づいていました。
最後に演奏した映画「ディアハンター」のテーマ曲「Cavatina」はリードギターに絡むようなアルペジオのはずが、まるで三味線のようにポツンポツンと音が途切れて響かなくなりました。
やれやれと時計を見たら3時間契約のうち30分以上残っています。しかしもう誰も気力と体力がなくなりました。後片付けをして店の人を呼び、早めに退出することにしました。
鴨居の駅前にある居酒屋「華の舞」は前にも来たことがあります。ちょうど営業が始まる時間に入れました。そこでスタジオの清算をし、乾杯をしてようやく落ち着きました。
反省の言葉は一切なしです。誰もが今日の結果を認識しているのです。哲ちゃんが体力の限界と歩行困難ということで、リタイヤしたいと言いました。みんなもうaround eightyです。いうまでもなくそれぞれ限界を感じています。
そこで私は、もう演奏はやめようと、ただなにかで集まるときは同窓会のつもりで来ることはできるからと提案して、みんな異存はなかったようです。哲ちゃんはもう飲めないし、疲れたからと、タカハシ君は家まで2時間以上かかるということで先に退出しました。あとはポンと二人で飲み続けました。
そして、THE HIGH BEATSは終了しました。
2週間後に判明したことですが、わたしの左手指先には今回の過酷な演奏のおかげでしっかりタコができています。
(完)